目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第47話

『困ったのう……。そうじゃ、誰かに遭遇しそうになれば姿を消してやり過ごすというのはどうじゃ?』

(それならいけそうかも!)


 単純な案だが、アオだけでは思いつかなかったことだ。この案が出ただけで仙人と会話できるメリットが証明された。


『ただ、気をつけるんじゃぞ』

(分かってる……)


 アオは唾を飲み込む。


 いくらアオが盗賊団の副団長だとしても、繋がりが強い団から逃げ出そうとしているのがバレるとどうなるか分からない。

それこそ、変わることで悪魔憑きと呼ばれる世界なのだ。いきなり盗賊団を抜けると言って、変わってしまったアオを団員達がどうするかは分からない。


 記憶を辿っても、この盗賊団を抜けようとした者はいない。


『見つかった時はどうするつもりじゃ』

(その時はぶちかます)

『………………碧を見つけないことを祈ることしかできん』

(それじゃあ、落ち着くまで連絡できないから)


 アオが無事に逃げ出すことができたのなら問題は無い。アオはそっと、木でできた簡易的なドアを開く。洞窟内は上下左右岩でできていため、木が軋む音が鳴り響く。実際に体験して、これは簡単にいきそうにないと気づく。


 姿を見られるだけでなく、音にまで気を付けなければならない。


 だが、こんな真夜中に部屋の外に出るのは、トイレという可能性もあるため、この場合は心配しなくてもいい。本来ならば、小さな松明を持ってトイレ代わりの場所がある所へ行くのだが、アオの行く先はそれとは反対の外だ。万が一その姿を見られる訳にはいかない。


 足音が響くため、履いていた靴は手に持つ。冷たい岩が身体を冷えさせる。


 本当にトイレに向かうことになるかもしれない。


 アオは周りの気配に集中して、外に向かって真っ暗な洞窟内を歩き出す。


 この拠点として使っている洞窟は、アリの巣のように地中に伸びており、部屋が全てで十部屋とある。


 一番奥、涼しいを通り越して寒い場所に食材庫があり、そこから外に向かって、保管庫、トイレ、団員の部屋が三部屋続き、武器庫、アオの部屋、団長の部屋とある。


 ちなみにトイレは深い穴を掘って作っている。滅茶苦茶臭い。


 洞窟内は空気の入れ替わりが容易な程広く、今アオが歩いている場所も、アオの身体なら横に五人は並ぶことができる。


 外から入ってくる風が、アオの闇の溶け込んだ烏羽色の髪を揺らす。


(寒い……)


 肩をすくめながら、外に向かって歩を進める。こんな薄くボロい服、今までの世界で一番悪い服だ。


 背中がチクチクするなあ、なんて思ったが、すぐに気を引き締め直す。


 アオが外に出るために突破しなければいけない障害は大きく二つ。一つは団長の部屋の前を通過すること、もう一つは出入り口に仕掛けてある罠を掻い潜ることだ。


 すると、どこからかドアの軋む音の後、カツカツという足音が響いてきた。反響でその音がどこで鳴っているのか分からないが、とりあえずアオは隅っこに寄り姿を消す。


 またドアが軋む音が鳴る。どうやらトイレに行ったようだ。ホッとしたアオは、気を張りながら進み始める。もう間もなく団長の部屋に差し掛かる。もし敵が来てもみんなを守れるようにと言って、出入り口に一番近い場所を部屋にしたのだ。


 そんなことを言う団長だ、戦えばもちろん強い。


 人間離れした戦闘力に、気配を察する力にも長けている。さすが盗賊団団長といった実力を持っている。


 空中浮遊しながら前に動くことができれば足音を立てずに進めるのだが、それができないアオは、できるだけ静かに、気づかれないよう慎重に進むだけだ。


 裸足で動く音も聞かれてしまえばあの男は確実に気づくだろう。


 ゆっくりと、息を止めながら、音を立てないよう慎重に……。


 ドアから正反対の壁沿いを進む。この部屋を抜ければ後は出入り口に仕掛けられている罠だけ、罠は外からの侵入者の足止め用と攻撃用が連なっている。外から足止めを抜ければ、攻撃用の罠が待っているといった具合だ。


 アオはその反対の動きをする。攻撃用の罠を抜けてから足止め用の罠を抜けるのだ。


 そして、どちらの罠も紐で作られている。


 動物達が入ってこられないよう、人の腰丈程のバリケードの裏には、音の鳴るガラス片などが敷き詰められ、踏めば音が鳴るように出来ている。まずは音で侵入者の存在をバラすというものだ。中は音が反響する洞窟、その効果は絶大で、すぐさま気づく団長が外に出ることができる。


 それを抜けると、足元にはロープが伸ばされており、暗い中進む侵入者は引っかかってしまうというものだ。


 ここまでで立ち去るのなら問題無い。しかし過去に一度、恨みを持った集団がそれをも越えてやってきたことがある。


 その時に、その先にある攻撃用の罠が作動した。


 地面に埋め尽くすロープが仕掛けられ、侵入者は必ずそれを踏んでしまう、するとロープに引っ張られ、ガラス片の入った小さな籠が投げ飛ばされるのである。


 下手をすると命を落とすが、相手の命を奪う目的ではなく、そこそこ大きな怪我をさせ、撤退させるのが目的だ。


 そんな出入り口付近を抜け出すことはできるのか。


 罠の構造を知っているのだが、こうも暗いと無事で済むか分からない。


 アオがその先のことを考え、団長の部屋の前を無事に通り過ぎた頃だった。


 まずは一つ目の関門を突破した、そう僅かに安堵した直後――木の軋む音がすぐ背後で聞えた。


(マズい……⁉)


 アオは急いでドアがある側の壁に張り付き姿を消した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?