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第99話

 この世界の中心に位置する最大の街タステ。四方から流れる河の行く末にはなにがあるのか。


 タステの中心に建つ建物。外から見れば城のように見えるそれは、人が住むことを想定されていないのだ。


 城の中は空っぽで、どこまでも続く奈落がある。四方の河の終着点、逃れようのない巨大な滝。光さえ届かない途中で、一人の老婆が光の玉に包まれ浮かんでいた。その玉からは純白の鎖が奈落の底まで伸び、なにかを吸い上げるように拍動している。


 老婆の名はイエーラ。このタステの頂点に君臨する魔法使いである。


 ただ、イエーラは数十年前からこうして光の玉に包まれている。


 この底には祭壇のある街と同じく神が封印されている。その神の力を、イエーラは長い年月をかけて吸い取っているのだ。



 ソーエンスから遠く、遠く離れた場所に一つの街があった。


 ドゥッツというのがこの街の名前だった。


 あれから、途中で寄り道という名のアオの修業を挟みながら、三日で着くはずが倍の六日かかってしまいようやく辿り着いたドゥッツの街。恐らくスイがいるのであろうこの街に辿り着くまで、気が気でなかったアオ。そのせいか、修業はかなり進み、姿を消したまま行動できるようになっていた。動いたまま使えるようになったのは、姿を消すのと元の世界にいる仙人との会話する術だけだが。


 だから早速アオ達はこの街の祭壇へ姿を消しながら向かうことにした。


 この街はアオの感想で言うと和の街だ。人の住む建物は全てが木造の平屋で、しかし全て足が付いており、高床になっている。近くにはこの世界を四分割する河が流れているからだろうか。


 服装も和服とまでは行かないが、丈の短い袴や振袖だったり、作務衣のような服装だった。


 観光地としても人気らしく、アオ達以外にも旅行者や旅人など人は多い。そしてその大体の人達がドゥッツに住まう人々と同じ服装をしている。


 アオはアサリナに抱きつきながら、箒で空を飛ぶ。正面からこの街に入らず、空からやって来たため、後で正面から入りなおそうと一応話し合っている。


「祭壇はー……あそこだねー」


 ドゥッツは、街の面積はソーエンスより大きい。そのため、街に入ってから少し飛ぶ必要があった。


 街への正面入口の正反対、その先に祭壇があった。街の中からは見えない。地上に近づくと、祭壇は急斜面のその先にあったのだ。


 斜面の先には、大きな湖があり、湖を半周囲うように建てられた建物がある。そしてその建物から中心へと桟橋が伸びている。


「下りるよー」


 アサリナは慎重に高度を落とし、建物へと近づく。いくら姿が消えているからといって、音まで消える訳ではないし、気配を感じるのに敏感な者にはバレてしまうからだ。


 入り口はどこだろうと屋根すれすれをふらふらと彷徨う。建物には、半分窓があり、もう半分には窓が無い。恐らく生贄は窓が無い方にいるのだろうと予想する。ただ、窓が無いということは、そこに立ち入ることができないのだ。


 一度急斜面の上にまで上がり、アオとアサリナはその場で伏せる。一応アサリナが魔法を使ってバレにくくしてくれているが、二人は声を潜める。


「あの建物壊して助け出す?」

「それは騒ぎになるよー? あんまり騒ぎ起こすと、ちゅーおーから来るだろうし」

「別にそれはいいんじゃない?」

「いやー……、逃げ切る自信が無い。それに、いなかった場合大変だよー?」

「うーん……じゃあどうしろと?」

「…………」


 アオの疑問にそっと視線を逸らすアサリナ。


「おい」


 結局、姿を消して潜入しか無いような気もするが、もし中でスイを見つけてしまったら、嬉しさのあまり術が解けてしまう。


 そんなことをしていると、ポツリと、雨が二人を濡らす。


「どうする?」

「一回街に行こー?」



 一度ドゥッツから離れ、今度は徒歩で正面から街に入ったアオとアサリナ。いつも通りとりあえず宿を借りる。観光地としても栄えているため、宿の数は多い。二人は街の外側に近い宿を探すことにした。


 そして宿を見つけ、部屋を借り、二人は早速どうしようかと話を始める。


「どーやって中を確認するかだよねー?」

「魔法でどうにかならないの?」

「あたしはそういうの苦手だからなー……」

「とりあえず、窓がある場所から確認してみる?」

「それがいーと思うけど、術解かないでよね?」

「それは……またその時」

「不安だなぁ……」


 やれることがあまり多くない。もしスイが生贄にされているのなら、生贄として捧げられる直前に助け出すこともできる。しかしアオはそれまで待てないのだ。だから早くスイを見つけ出そうとしている。


 雨は止む気配が無い、空をどんより灰色だ。この雨が生贄を捧げる日が近づいていることの証明なのだが、二人は当然それを知らない。

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