(どうしてこうなった!?)
今の状況に俺は頭を抱えていた。宿の直前で急に現れた少年。この少年こそ昨日俺を助けた神族ブライト様だった。
彼は夕食に誘いに来たと言い、指をパチリと一鳴らし。それだけで俺達はその住まいである大神殿、その神族の間に跳ばされていた。ただ多少時間が早いが招待される事自体は織り込み済み。問題なのは、
『さあ遠慮する事はない。そこのスープなんかオレの口に合う程度には絶品だぜ?』
「……ホントだ。このスープめっちゃ美味いですよブライト様!」
『そうだろうそうだろう!』
何故かこの場にライまで一緒に来てしまった事だ。本来ならここに来るのは俺とヒヨリ、護衛のジュリアさんのみの筈だったのに。
「ライ坊ちゃんっ!? 神族様に対してそんな気安く」
『構わねぇさ。これは私的な夕食会。言葉づかいが気安い程度で罰しはしねぇよ。それにお前さんもそんなガッチガチじゃあ食事を味わえねぇぜ。寧ろそっちの方がオレは嫌だね』
そう言って笑いながら、給仕役の人が運んできた魚のムニエルを口に運ぶブライト様にジュリアさんは何も言えない。
そのまま和やかに豪勢な夕食会は進み、デザートにカットされた果物を摘まんでいると、
『さて。
そのブライト様の言葉に、どこか緩んでいた場の雰囲気が一気に引き締まる。
「あのぉ。その前に質問宜しいでしょうかブライト様?」
そこでライがゆっくりと手を上げ、ブライト様は何も言わず促す。
「え~と、そもそもオレ達何で夕食会に招かれたんでしょうか? とっても食事は美味かったんですけど何が何だか」
『何でって、勿論勇者の事で話し合いをする為だよ。……もしかして知らなかったのか? 親善大使団のトップなら当然知ってると思って連れてきたんだが』
『……はい。元々ライ君は親善大使の仕事のみに集中してもらうつもりでしたので』
勇者の事を聞いて顔色が変わるライを尻目に、そう不思議そうに尋ねるブライト様。それをヒヨリが静かに返すと、
『そうかい。つまり肝心の事は知らされていないお飾りって訳だ。そりゃあかわいそうになぁ。……だが心配する事はないぜぇライ君とやら。折角招いてやったんだ。途中退席させようなんて思っちゃいない。何なら事の次第を説明される時間ぐらい取ってやるさ』
そう言って椅子に頬杖を突きながら、ブライト様はこちらの様子をニヤニヤ笑って伺っていた。なんというか、
『うわあ……腹立ちますねアナタ』
『そう睨むなよ。これでも少しは親切で言ってんだぜぇ? どのみち完全な部外者じゃないならさっさと話しちまえって事さ』
ヒヨリが俺の気持ちを代弁するようにジト目で言うと、ブライト様はどこ吹く風でそう促す。そして、
「出発の時から、父さんや先生、ジュリアさん達がオレに隠し事をしているのは知ってた」
ライは軽く息を吐くと、顔を少し伏せてそうぽつぽつと語りだした。
「親善大使を任されたけど、ブライト様の言ったように父さんの名代でお飾りだ。それでも任されたからには全力でって思ったし、隠し事も何か理由があるんだと深くは聞かなかった。……でも、神族様が絡んでくるような話にユーノが巻き込まれてるなら聞かない訳にはいかない」
「ライ……」
「坊ちゃん」
そこでライはキッと顔を上げ、先ほどよりも力の籠った瞳でこちらを見る。
「どんな話を聞かされてもオレ、ひとまず最後まで黙って聞くって約束するからさ。話してくれよ。……お願いだ」
もうこうなってはてこでも動かないだろう。俺とジュリアさん、ヒヨリはそっと目配せをし、仕方なくこれまで裏で何があったのかを正直に話す事にした。
「そんな……ユーノが」
全て話し終えるとライの顔色が真っ青になっていた。無理もない。大切な家族が危ないと聞かされて動じない者は居ない。だが、
「大丈夫。そうならないように俺達はここまで来たんだから」
そう言って俺は、何も言わずに説明を横で面白そうに聞いていたブライト様に向き直る。
「これまでご清聴ありがとうございました。そして、ここでブライト様にお尋ねします」
俺は予言板を展開し問題の文章を提示する。そう。
「“三日後。聖国聖都にて、
これは暗に、その日ブライト様がユーノに危害を加えるのではと尋ねているに等しい。なんなら不敬とみなされて烈火の如く怒る事も考えていた。しかし、
『ほぉ。その内容なら確かにオレが怪しいな。実際昨日もお前さんがおねんねしている間、そこの超越者に聞かれたよ。近い内に勇者に危害を加えるつもりですかってな! だがなぁ……オレはこう返したぜ。最初勇者を見た時はそのつもりだったが気が変わったと』
ブライト様はテーブルの上の果物を一齧りし、口元を軽く舐めて薄く嗤う。
『覚えときな。
それは嘘を吐く必要がないという上位存在の在り方。何故なら神族の行動に、言葉に、そもそもヒトはまず逆らえないからだ。
その証拠と言わんばかりに、一瞬だけ強大な圧が放たれここに居る全員が顔色を変える。だが、
『そうそう。その事についてお聞きしたかったんですよ』
パタパタ。
たった一羽。その圧にまるで動じることなく、ヒヨリが俺の前に降り立った。
『最初見た時。つまりアナタは実際にユーノちゃんに会って、そこで何かあったから気が変わったという事になります。どんな神族の気が変わるような何があったのか、教えていただけませんかね?』
『……良いだろう』
ヒヨリの言葉にブライト様は少し考え、今度はグラスを手に取って喉を湿らせながら承諾する。
『軽い腹ごなしに語るとしようか。オレと勇者の……ちょっとした