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第101話

秘密裏に行われた綾小路家と伊集院家との繋がりの解消。

祥子の婚約破棄騒動でホテル内はざわつき。

それでも新しいパートナーとなった司が登場した事でその場は収められた。

紫龍家と綾小路家の新しい関係の始まりはその場にいた参加者を驚かせる。

紫龍司からの愛の告白。

それに驚きを持って応えた祥子の姿はイベントとして魅力的だった。

その場にいた紳士淑女達は皆拍手を持って二人を祝福。

形はどうであれ司は認められたのである。

新しい二人の始まりはその場での挨拶からで。


「まさか紫龍君が、なぁ。

私は伊集院君との関係が発表されるものだと」

「いやはや私もそう思っていました」

「イヤイヤお恥ずかしい。私もです」


ものの数分前までは庄司との婚約が発表されるはずだった。

塗り替えらえた現実はそれだけでは終わらない。

庄司と祥子の関係が周囲からはあまり期待されていなかった証明ともいえた。

表向きは上手くいっている伊集院家と綾小路家の繋がり。


「愉快な事にもなりましたな」

「あそこまで両家がうまく行っているのであれば婚姻関係は必要ありますまい」

「その通りですなぁ。

で、あれば当家の娘を伊集院家にと思うのですが。

年齢も近しいですから」

「おぉ…それは良い考えです。

素晴らしい関係を築けるかもしれませんなぁ」

「実は今日のパーティーに参加させるべく連れてきておりましてな?」

「おやおや…それは。実は私もなのです」

「ほう…なるほどこれは偶然が続くものですな。

実は私も娘を…」


伊集院家は今の所は順調なのだ。

そしてホテルの開業。

レジャー施設の建設を続ける景気の良さを見せつけている結果。

今の庄司の妻と言う立場に納まりたいと考える家は多い。

そして婚約者となるはずだった祥子が司の手を取ったこと。

それは他家の娘達が庄司にアプローチをする事も許される事を意味していた。

それぞれの家の思惑が交差する中、祥子との婚約が発表されなかった時点で、

もう庄司には別の意味で逃げ道は無かったのである。


壁の花として佇んでいる事も許されない。

少しの暗がりでも目立つように着た光沢のある真っ白な燕尾服。

それが今はとても憎かった。

それこそメインの舞台から祥子を伴って出るはずだった。

そのつもりだった庄司の最高の瞬間は既に過ぎ去り司を見送るしかなかった。

けれどその場でじっとしている訳にもいかず。

作られてしまった地獄のPVの映像が入った記録媒体を壊して。

何とか気持ちを落ち着けて開場には裏口から人知れず入場しなおし…

後は主催者の一人として時間が来たらパーティーの終了を告げるつもりだった。


「おかしい。

どこで私は間違えたんだ?

だって紫龍だぞ?紫龍が何で私に牙をむくんだ?

そんな事はある訳ないし…

あってはいけない事だろう?」


その答えを返してくれる人はいない。

いないが…

壁際の目立たない所で止まっている事は庄司が着ている物が許してくれない。


「どうしてっ…こうなっている」


庄司が一人で考えていられたのはそこまでだった。

パーティーは続く。

綾小路家の娘にスポットライトが当てられて情熱的な告白があった後なのだ。

勿論伊集院家としてもスポットライトが当てられる事になってしまうのだ。

それこそ司の用意しておいた罠ともいえる事。

パーティーの主催者に名を連ねるのだから逃げられない庄司の立場。


「お久しぶりね!庄司様♡さぁこの素晴らしい夜を楽しみましょう?」

「ええそうよ。庄司様がまさかお相手を決めきれてないなんて知らなかったわ。

私を選ばせてあげる」

「私と一緒にパーティーを最後まで楽しみましょう」


その3人の女性を見て庄司は後ろに下がれるのであれば下がりたかった。

見知った顔の3人組の女性陣。

それは庄司にとっての付き人となり取り巻きの様な立場だった。

庄司の為の女とでも言えば良いのか。

綾小路家との正式な繋がりが出来るのだから仕方ない。

庄司を諦めさせられた女性達だった。

勿論将来庄司と結婚できると思っていた女性達だ。

こうもふってわいたチャンスを逃すほどおとなしくもなかった。

彼女達には知らされていたのだ。

今日は祥子との婚約があるから諦めろと。

涙を呑んで家の為に別れたのだ。

遊びとして付き合っていた女性達であったが祥子と結ばれないのなら話は違う。

庄司と結婚して遊んで暮らす。

その為ならどんな事だってできる女性達なのであった。

きつめの化粧に悪臭に近い強すぎる香水の匂いそして傲慢な態度。

家を背負っていながらその意味を理解できない者達。

勿論遊びでならノリのいい彼女達との相性はとても良いのだが。

将来の伴侶として考えるのならありえない。

祥子の様に慎み深く庄司を立てる様な者ではなく。

ただひたすらに庄司に要求を押し付けてくる。


「そ、そうだね」


反射的に口に出して肯定はしたものの直ぐにでもこの場を離れたかった。

けれど彼女達の口は止まらない。


「「「そーよ!」」」

「ちゃんと私達を楽しませなさいな」

「そうしたら結婚もしてあげるからね」

「嬉しいでしょ?喜びなさい」


三者三様に庄司を牽制しながらぐいぐいと迫ってくる。

少々の苛立ちを覚え庄司にはとても面白くないし面倒な事この上ない。

もうこれ以上は付き合っていられないとさえ思う。


「い、いや大丈夫だから…」


どれもこれも庄司にとっては全くもっていらない女性でしかないのだ。

数分前までは祥子を正妻に納めて愛人として有珠を囲う。

そこに里桜と楓を連れて来させればそれ以上の女は庄司に不要なはずだった。

全員が全員御しやすく従順で自身を褒めたたえてくれる素晴らしい集団が出来る。

だからもう遊んでやった女達などいらない…

必死になって否定したかったが。

グッと二の腕に両腕を絡ませて胸を押し付けてくる彼女達。


「だって婚約しなかったじゃない?」

「そしたらうちらも身を引いてやる必要ないもんね」

「いい加減にさぁ?逃げんの辞めなよ…私達も怒るよ?」


何かの間違いだ。

直ぐにでも修正できるはず。

出来なくちゃおかしい。


「ちがうから…婚約は発表…する…か、ら」


庄司の言葉に力はなく。

ぐいぐい押してくる3人から浴びせられる言葉から逃げられない。

そして庄司にとっては最悪のタイミングで演出がスタートしてしまったのだ。


「ま、まずいっ!時間なのか?」

「どうしたのよ?」

「なにもまずい事なんてないでしょ!」


決して狙っていた訳ではない。

けれどタイマーと音楽が時間になったら流れるように設定されていたのだ。

これは庄司が無理に望んで入れたパーティーの最後を彩るイベントだった。

同時に機密にも抵触する事であった事から庄司自らが用意した物でもあった。

解除権限が無いために始まってしまえば止めるのは庄司にしか出来ない。


「と、とめろっ」


必死に中断させようとしてもそれを中断する方法は庄司にしかわからない。

それは伊集院家の将来図。

中断するには舞台袖にあるコントローラーを使わないといけなかった。

今からではそこまで走って行って止める事も出来ない。

それは会場の照明と連動する形で用意されていて。

周囲からパンパンパンと音が鳴りながらライトが点灯する。

強めの光が庄司を照らし着ている燕尾服は光を乱反射させる。

それは余計に光り輝く事になりステージ衣装の様に庄司を目立たせる。

舞台から離れていたにも拘わらず庄司には否応なしに視線が集中する事になった。

燕尾服の首元に複数付けられた高性能マイク。

それらは的確に庄司の周囲の音さえも音を的確に拾う事になっていたのだ。

開場のスピーカーに直結するように繋がれたのだ。

それこそひそひそと話す事も出来ず庄司達の声が会場に響き渡る事になる。




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