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第115話 全てぶっ壊してやる

 おかしい

 トトはまだ、ここに来る時間じゃない

 フーカには以心伝心がある、だからこそトトには今回の作戦については極力詳しくは話していない

 ただ私達はそれぞれの居場所が分かるようにそれぞれ探知機を持っているだけで、糸をどうにかしながら私の元へたどり着くのは

 トトがここに来るのはもう少し先だ

 そのためにわざわざ色々根回ししたっていうのに

「……せっかく、ここまで追い詰めたのにこれでは台無しじゃないか」

 どんどんと冷気の逃げていく部屋のなか私は少し咎めるようにそうトトに言う

「知ったことかよ」

 だけどトトははっと吐き捨ててそれだけ言うと自身も部屋に入ってくる

「君は……もう少し後にここにたどり着いて……動けなくなったフーカに止めを刺す、そういう算段だったはずなんだけどなぁ」

 そう、しっかりとフーカが冷気で動けなくなった時人間である私は既に死んでいるだろう

 だからこそトトはその後にここにたどり着き、そしてフーカに止めをさす役目を果たしてもらうはずだったのだが

「……底無しのこともあったしきっと、アカネはまだ何か隠し事してるんだろうなって思ってちゃんとよく見てた、何を言っているのかよく聞くようにしてた、そうしたら……アカネはフーカを自分のほうに引き付けたいんだろうなって分かった、それなら、その先によくないこと考えてるんだろうなってことも分かった、一番は……アカネがそんな簡単に意味もなく分断されるような作戦は立てないってかんがえたからだ、だってちゃんと互いの位置が分かる発信器まであるんだ、だからアカネを信用したんだ」

 トトは、怒るでもなく、呆れるでもなく、ただ淡々とそう説明する

「そんな、分かりやすかったかな……だとしてもどうやってここまで? 糸の障壁とか、シャッターとか……いろいろあっただろうに」

 信用した、その言葉がどうしようもなくむず痒くて、わざわざそんなどうでもいいことを聞いてしまう

 本当は、まだ回復しきれていないフーカに早く止めを刺すように指示するべきなのに

「ああ、散々邪魔されたな、あまりにも邪魔だったからそんなもん全て無視して、アカネの信号が出てる場所に向かって壁を全部ぶち破ってきた、アカネの作ってくれたこの斧で」

 トトは言いながら手に持っているだけ大斧を強く振るう

 トトからリクエストされたこの武器の性能はただ二つ、頑丈さと、高い火力だ

「……そんな規格外な」

 だからそれに全てを割いて何か特殊な技能は一つも組み込んでいない

 だからといってここはシェルターで、壁だってそれなりに頑丈なのに、彼は一体どれだけのスピードで力をつけていっているのだろうか

「とりあえず、ここまで追い詰めたのはすごいと思うよ」

「っ……」

 トトは言いながら私の頭にポンッと手を置く

 それは私がよく子供達にするそれと同じだった

「だけどあそこまで……終わった後のことまで話しておいてまだ僕に黙ってこういうことしようとしたことには怒ってる」

「トト……」

 トトは、いつものように怒鳴るでもなくただ静かに、怒りを、自分のなかの憤りを伝えてくる

「でもまぁ、理由とか、言い訳とか、そういうのは全て纏めて後で聞いてあげる、今はせっかくアカネが作ってくれたこの状況を大切にするだけ」

「っ……」

 トトは言いながら自身の羽織っていたパーカーを脱いで私の頭の上から落とす

「僕のだから小さいかもしれないけどないよりましだろ、それ被って端っこで震えてて、後は僕が……引き受ける」

 そうして身体がかじかんで動けない私を引きずるように部屋の端まで連れてくるとトトは前に出て、斧をもう一度振るうと、構えた

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