『これは、あたくしでもキツイ……でございましてよ!まさかこんなにまでとは……今、魔力で中和を……!でも、あたくしだけではアルバートひとり分くらいしか……!』
アルバートの懐からニョロが顔を出すが、その表情も苦痛に歪んでいる。ドラゴンですらもこんなに苦しむなんて、セイレーンはどれほど強い精霊なのだろうか。
「僕はいいから、フィレンツェア嬢を……!」
『でもアルバート……!もしもあなたの魔力が触発されたら、また発作が……!』
そうしている間も、セイレーンの叫び声はビリビリと当たりに振動している。私の中の小さなフィレンツェアも同じように苦しんでいて意識が途切れそうになった。
これは、かなりヤバいんじゃないか……。
たぶん気を失ったら終わりだ。本能的にそんな気がしてなんとか意識を保とうと必死だった。だが、それでも限界が近づいてきたその時────ふわっと、ほんの一瞬だが苦痛が和らいだのだ。
「……え」
そして、それと同時にごちーん!!と何かがぶつかる音が聞こえ……セイレーンの“歌”が止まったのである。
「これは……なんとまぁ」
『た、助かったのでございましてよ〜』
アルバートとニョロがルルの方向へと視線を動かす。それにつられて私もルルとセイレーンの方へと顔を向けたのだが、そこにはなんとも想定外な光景があったのだ。
「……だから、落ち着きなさいって!パニくってんじゃないわよ、馬鹿セイレーン!」
『いたぁ〜い!!ルルったらひどぉいわぁ!』
ルルが拳を構えていて、セイレーンが頭を押さえながらその場に三角座りをしていたのである。
「あのねぇ、このメンツをよく見なさいよ?!セイレーンの魅了魔法は少しでもあたしに好意が無いと効果が無いってことはセイレーンがよく知ってるでしょうが!ジュドーは最初からあたしに興味なんかなかったし、あの黒髪の人なんか
『だぁってぇ!!もしかしたらルルに一目惚れしたかもしれないじゃなぁい!恋は一瞬なのよぉう?!そしたらわたくしの“歌”でルルの事を好きになるから、わたくしが覗き見してたのも許してくれるはずでしょぉう?!だって人間は……ルル以外の人間は、わたくしの見た目を気持ち悪いって言うから……わたくしの事を怒ってたら、きっともっと酷い事を言ってくるに決まってるものぉう……!』
「だからって、無理矢理過ぎだよ!それに怒られたくなさ過ぎてパニックになりながら歌うから、セイレーンの顔がすごいことになってたし!女の子は笑顔が大切って、いつも言ってるのはセイレーンでしょう?!ほんとに、世話が焼ける守護精霊なんだから────
『でもぉう「反省しなさい!」わ、わかったわよぉう!ごめんなさぁい……』
するとセイレーンはしょんぼりと下を俯き、シュルシュルと音を立ててその体を小さくしていった。最終的に手のひらサイズまでになると、ルルの手の上にちょこんと座ってこちらに顔を向けた。……口がへの字に曲がっているけれど、反省はしているのか目には涙を浮かべている。
『……あなた達の修羅場を覗き見してぇ、面白がってごめんなさぁい。だからぁ、わたくしをいぢめないでぇ……。お詫びにそこの気持ち悪い人間は治してあげるわぁ』
そう言ってセイレーンが羽をバサッと動かすと、淡い光がジュドーを包み込んだ。セイレーンが『これで大丈夫よぉ』と笑う。
「セイレーン、偉い!ちゃんと謝れたじゃん!いやーそれにしても、セイレーンがフィレンツェアに青くて変なオーラがついてるなんて言うからどうなるかと思ったけど結局はただの修羅場で終わったね〜!まさか悪役令嬢の修羅場を目撃するなんてほんと
そこまで口にして、ルルは「ヤバい」と言う顔をして私を見てくる。そして私はその言葉を聞き逃さなかった。
しかし私がそれをルルに問い詰める前にジュドーを探しに来た教師たちに発見され、学園へと連れてこられてしまったのである。そして男女別れた部屋に入れられ、後から話を聞くと言われたのだが……。
二人きりになった途端、もちろん私はルルに詰め寄った。例の発言の事もあるが