でも、学園で確認したい事があったのでお母様に頼んでいたのも本当だ。どうしても気になる事があったのだが、さっきの教会の人間たちが話していた内容でその疑惑はより一層深まっていた。
「まぁまぁ、パーフェクトファングクローちゃんなら大丈夫だよ!それより学園で調べることがあるんでしょぉ?今ならみんな騒いでるから早くそこに行こっ♪今、フィレンツェア様のこと見られちゃったら、まーた大騒ぎになっちゃうよぉ?」
「……確かに、時間が惜しいですね。話を聞いた限りでは本当ならフィレンツェア嬢は屋敷にいた方が良かったのに危険を承知でここへ来たということは、何かフィレンツェア嬢でなければ出来ない事があるからでは?それなら急いだ方がいい。それで、どこで何をするつもりなんですか?」
「実は────」
私のその言葉に、ルルとアルバートがぎょっとした顔を見せてきた。
「……どうして、そう思ったのぉ?」
ルルがすぐにいつも通りの笑みを浮かべて首を傾げたが、少しだけ何かを探るかのように目を細めているのがわかる。
「僕も、それはお聞きしたいですが……。本当に行くんですか?あの、あそこにはたぶん……」
アルバートは言葉を濁しているが、その態度が逆に私の考えが正しいと示しているように感じたのだ。
「それにね、ずっと気になっていたことがあるのよ……。あの時はそう思わなかったけれど、
いつもの密偵たちはお父様が
「ではフィレンツェアお嬢様、1時間後に騒ぎを起こす手筈になっていますのでその時に裏口でお待ちしております」
「うん、よろしくね」
こうしてエメリーたちと別れ、私は
「……この建物って、先生の許可がないと迷子になるんでしょ?どーするつもりなの、フィレンツェア様」
「本当はクロを使って誰か教師をおど……いえ、頼むつもりだったんだけど、今なら大丈夫だと思うのよね。さっきの学園長の狼狽えっぷり見たでしょう?たぶん今は建物に魔法を使っている余裕は無いんじゃないかしら」
「確かにパーフェクトファングクローちゃんの爪と牙ならめちゃくちゃ脅せそうだよね〜!それも見たかったかもぉ。あ、そうだ!今は代わりにセイレーンがいるしぃ、まだ建物に魔法がかかってたらあたしのことが好きそうな先生に魅了魔法をかけて案内してもらうのでもいいんじゃない?これでも年上に需要あるんだぁ〜!ほら、セイレーンも張り切ってるよ」
『面白そうだから、いいわよぉう』
「あら、そこまで協力してくれるの?もし魅了魔法のことがバレたらルルさんだって困るんじゃ……」
するとそれまで黙って私とルルの話を聞いていたアルバートが「……またあの金切り声を耳にするのはごめんです。あれくらいの魔法ならニョロと僕とで弾き返せるので案内しますよ」と頭を抱えていた。まぁ、確かにあの時のアレは酷かったけど……もしかしてトラウマにでもなっているのだろうか。
「んもう、意地悪ぅ!だからアレは、あたしに好意が全く無い人の場合にああなるだけなんだってばぁ!変態おじさんとかはあたしのこと興味ある目で見てくるんだよ?可愛いねって鼻の下伸ばしてくる先生もいるもん!」
「君という人はどこまでも……君からは淑女の欠片も感じられません、下品だ。よくそんなのでジェスティードを誘惑出来ましたね?」
「えー、ジェスティード様はこーゆーのが好きだったよぉ?それに浮気とは言え、一応健全なお付き合いだったんだけどなぁ〜。まぁ、チューはしたけど……あたし、まだ処女だし!」
「「んなっ?!」」
ぷくっと頬を膨らませたルルの爆弾発言にアルバートどころか私まで狼狽えてしまった。別に今更ジェスティード王子がルルとどんな付き合い方をしていたかなんて興味はないのだけど。ましてやこんな時に聞きたくない。それに、前世も合わせて恋愛経験なんて無いに等しい私にはそれ以上は刺激が強すぎる気がする。
「求められはしたけど、あたしってそんなに簡単な女じゃないのよ?いくら
そして一瞬だけ表情を曇らせると「…………もう、あんな目に遭うのは散々だし」と呟いたようだった。
過去の恋愛で余程嫌なことがあったのだろうか?セイレーンの魅了魔法があるのに……いや、どんな魔法だって万能では無いことはよく知っている。
それにしても、意外と(?)しっかりした考えのあるルルにもビックリだ。そして、それを聞いて首まで真っ赤になって固まっているアルバートにも違う意味でビックリである。……アルバートも私と同じで恋愛経験は無さそうだなと思った。