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第64話 次回について

「お二人での作戦会議は終わりましたか?」


 綾乃と出てくるとアルは笑っていた。

 その代わりに、妙に京志郎がげっそりとしているのは気のせいだろうか。


「……ええ、まあ」

「それはよかったです。いろいろと……お話はしていないようですが」


 妙に含みを持たせるような言い方をしてくる。その意味を考えて、たっぷり数秒後にその答えに辿り着いた。どうやらアルは、自分の正体を綾乃に話したのかということを確認したいらしい。

 自分の正体を知っているのか知らないのかで、アルも動き方を変えてくるつもりなのだろう。

 京志郎はなんだか微妙な表情をしていたが、それ以上何か言ってくることはなかった。どうやらこの状況に関しては自分で解決しろと言いたいらしい。


「……そうですね。あくまでも今回は無理に頼んでしまったから、余計な心配をかけたくないんです」

「そうですか。でしたら、僕も桃花の意思に従いましょう」


 それはきっと「それは僕の方からは余計なことを言いません」という意思表示であるのだろう。

 京志郎がとても何か言いたげな目線をアルに寄越してくるが、アルはそんなものは関係ないようで、にこにこうなずいている。


「……だったら、会議に戻りましょう」


 桃花は自分の考えを読まれないようにしながらアルに促した。

 これ以上何かを言われてしまえば、とても厄介なことになる可能性があるからだ。


「ええ、そうですね」


 アルも何か言いたそうではあったが、それ以上は何もいうことはなく、そのまま話し合いに戻った。


「コンセプトは癒される王子様、ですか……えっと、素材に対してのアレルギーとか要望とかそういうことはありますか? 羊毛や毛皮がダメな人も結構いるので」

「そのあたりに関しては大丈夫です。ただ、化学繊維などで、例えば聞いたことのないような特殊なものを使う場合でしたら、一応のご相談を頂けると助かります」

「化粧品も同じ、ってことで構わへんな? お前のその顔塗りたくるんやったら、それこそいろいろ考えなあかんことが山積みやからな」

「ええ。いいですよ。ドーランでもメイクでも何をしていただいても構いませんから。その程度の信頼はちゃんと懐いていると私は断言しておきます」


 話し合いは滞りなく続けられている。特に京志郎とアルもちゃんと会話できているし、綾乃も先ほど言ってくれたように桃花が選んだのだから、それに従うということに反するようなことをするつもりはないらしい。

 だから、話し合いも驚くほどスムーズだ。

 特に今回の場合は編集者およびマネージャーとしての役割を、桃花とそして実質アルが握ってしまっているのだから、個人による裁量はかなり大きい。そのためかすぐに質問されても、それに対して答えることができるようになるのである。


「だったら、もう一度衣装合わせについて時間を取ってもらいたいんだけど……もちろん衣装とメイクのバランスを見なきゃいけないだろうから、このメンバーで。写真撮影のリハもしなくちゃいけないだろうし」

「うん。できれば写真とのバランスも見ておきたいからそれは嬉しいんだけれど……えっと、アルは、大丈夫ですか?」


 綾乃のいうことはもっともである。

 本来なら一度と言わずに何度か集まって、こうして衣装の合わせやコンセプトについて話し合いをしなくてはいけない。今回は人数が少ないからこそ、お互いの意見をすり合わせることがたやすいのだ。その代わりにすべてにおいて早めに対処しておかないと、少数精鋭なせいでマンパワーに頼ることができないというデメリットもあるのだ。


「ええ。桃花が望むなら構いませんよ」

「ふうん? そないに暇なんか?」

「そういう意味ではなくてあくまでも僕の目的は写真集の発売ですからね。それ以外のことについてわからな限り優先度を下げているだけです」

「……はっ、イヤな奴やな。やけど、そんなら可能な限りこっちは早めに教えてもらったほうがうれしいなあ。時間がある時はとれるけど、とられへん時はいきなり忙しくなるのがこの仕事やから」


 京志郎はスマホのスケジュール帳を見ながら答える。

 彼は色々と仕事を請け負っているせいか、やはり時間の見通しが立たないのだろう。だからこそ早めに教えて欲しいのだろうし、この仕事に関しての報酬だけでかなりの時間を生活して行くことができるほどの金額を支払っているわけではないことを、桃花も知っている。それでもこれを引き受けてくれたのは、アルに対して京志郎もかなり複雑な感情を抱いているからこそ、こうして桃花に協力をしてくれているのだと、よくわかっている。


「そう、なんですよね……綾乃はどれくらいの時間で一度集まりたいとかある?」

「衣装だからなあ……二週間後、とかでもかなり厳しいんだけど、それくらいとかでどうかな?」

「うん。じゃあそれで一度集まる感じにしようか」

「ふむ。だったら、もう一日、予備日を作っていた方がいいですね。何があるかはよくわかりませんだからこそ、そう言う時に困らないためにも、ちゃんとしておいたほうがいい。そうですよね、桃花?」


 アルがいきなりにこやかにそんなことを言ってきて、桃花もいきなりのことで驚いた。


「そ、そうですね!」


 だがそうやって返事をすると、アルは満足そうにうなずいた。


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