イタヤは雷を呼び出す人間に向かって一気に駆けた。杖を叩き斬ろうとした瞬間、暴風が吹き荒れ、吹き飛ばされる。
「っぐ、クソッ!!」
壁に激突しそうになるが、体勢を変えて壁を蹴り、着地した。
「どこかに風魔法を使っているヤツがいるね」
ウリハは回りを見渡して言う。サワが探知盤を見て近くの反応の方を指さす。
「向こうの方に一つあります!!」
その方向には高い建物があり、確かに上には怪しげな人影があった。ウリハは黒い人影を斬り捨てながら走り、高く飛び上がる。
宙を飛ぶウリハを今度は雷が襲う。
「避雷針!!」
サワが避雷の魔法を飛ばし、建物の壁に突き刺し、ウリハに当たらなかったものの、近付けずに一旦引く。
黒い人影が次々に湧いて出て、それらを切り裂きながらウリハとイタヤは背中合わせになる。
「ウリハ。いっぺんに叩いた方が良さそうだな」
「あぁ、任せたよ!!」
「サワ、援護を頼む!!」
「了解、お兄ちゃん!!」
イタヤは雷魔法使いに、ウリハは風魔法使いに向かい、それぞれ飛び出した。
サワがイタヤには避雷針を、ウリハには魔法の弾幕を放つ。
避雷針が落ちた場所をジグザグに避けイタヤは雷魔法使いに近付き、剣で杖を真っ二つにし、その所有者を思い切り蹴り飛ばした。
それと同時にウリハは魔法の弾幕に紛れて高く飛び、宙でくるりくるりと回転し、風魔法使いにかかと落としを決める。
気絶した者は明らかに服装に似つかわしくない腕輪をしていたため、おそらくそれが裏の道具だろうと空に投げ、剣で一刀両断した。
王都の中は混乱状態だった。天変地異で隠れる場所を追われた人々が走って助けを求めている。
そんな人間たちを、無慈悲にも黒い人影が襲いかかっていた。
「くそっ、このっ!!」
兵士が剣や槍で応戦する。人影はさほど強くはないが、いかんせん数が多すぎるのだ。
アシノ達も黒い人影を片付けながらムツヤを追いかける。その道中逃げ遅れた人間と亜人が壁に追い詰められていた。
「だれかー!!! 誰かたすけてー!!」
子供がそんな叫び声を上げる。モモは剣を構えて走った。
「待てモモ!!」
「モモちゃん! 待って!!」
アシノとルーの言葉を振り切り、剣で人影を斬り捨てながらモモは助けに入る。そこへもう一人走る者が居た。
大剣を振るい、一度に多くの人影を消し去る。モモは振り返り、言葉が出た。
「ち、父上!!」
見間違えようがない。モモの父、ネックが剣を振るっていた。
「モモ。成長したな」
一瞬だけ嬉しそうな顔を見せ、また険しい顔に戻る。
「もう、お前には背中を任せられそうだ」
「えぇ、父上!!」
「アシノ様!! この者たちは私が守ります。どうかお急ぎ下さい!!」
ネックにそう言われ、アシノはモモをチラリと見る。
モモは無言で頷いて返事をした。
ネックが居るということは、トチノハも到着したのだろうとアシノは察する。
そして、親子には言葉を掛けずに、アシノはムツヤの後を追い、モモ以外の仲間たちも走り出した。
「さて、やるか」
ネックは身体強化の魔法を使い、大剣を軽々と振り回す。
「負けませんよ、父上!!」
モモも黒い人影を次々と斬り捨てた。
「今のうちにお逃げ下さい!! どこか建物の中に避難を!」
逃げ遅れた人々にモモは振り返って言う。
「あ、あぁ、助かりました!」
人影の注意をこちらに向けて、モモとネックは戦った。
飛びかかった人影をネックは袈裟斬りにし、そのまま勢いを付けて走り、別の人影を下から斬り上げる。
モモは剣を突き刺し、引き抜く。横薙ぎに斬り、後ろから襲いかかった槍持ちの人影が出す一撃を無力化の盾で受け止め、カウンターを入れる。
そんな調子で戦っていたが、人影は数が減るどころか、逆に段々と増えていった。
「モモ、まだいけるか?」
「えぇ、まだまだ!!」
その返事を聞いてネックはふっと笑う。
「っく、魔人はどこに居るんだ!!」
サツキは双剣で黒い人影を斬り捨てながら言った。
「マジこれどうなってんだ!?」
クサギも魔法で人影を蹴散らす。カミクガは素早い動きで応戦していた。
「!! サツキちゃんあれ!!」
カミクガは城の上空を指さす。そこには空を飛ぶ魔人メボシが居た。
「城に戻る!! アイツを潰さなくては」
サツキパーティは城に向かって走り出す。時を同じくしてイタヤ達も空を見上げる。
「アイツが魔人か……」
イタヤが呟くと、ウリハが人影を魔法で殲滅した後に言う。
「それじゃ倒しに行くかい?」
「あぁ、行くぞ!!」
イタヤパーティも城へと走り出した。
魔人が現れた城では戦闘が始まろうとしていた。
「少し、遊びますかな?」
地表に降り立った魔人メボシを兵士たちが取り囲む。
「一斉掃射!!」
近衛兵長のカミトが叫ぶと同時に、無数の矢と魔法の弾幕がメボシ目掛けて打ち出される。
だが、残念な事に傷一つ負わせられなかった。今度は反撃が来る。
右手を前に突き出し、くるりと一回転するメボシ。その手からは光線が放たれていた。
一瞬の間を置いて、円状に爆発が起き兵士たちは爆殺され、バラバラになった死体がそこら中に落ちた。
士気がこれ程まで無いぐらいに下がる。カミトは氷の剣を構えて突撃をした。
後ろでは近衛兵の魔女であるイズミが魔法の雷を放つ。
武器すら構えずに、メボシはカミトの剣をひらりひらりと避けていた。
「その程度ですかな?」
メボシが手をカミトの腹に当てる。
「それでは、カミトさん。さようなら」
そう言うと同時に、カミトの体は爆発し、跡形もなく消え去ってしまった。