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第51話 さいくつの物語 氷晶は溶かして採掘するようだった

リュウのこと、邪なものをそろえること、陽の国のこと、

不安要素はいくつもあるが、

俺たちはとにかく氷晶の採掘現場に向かった。

まずは、黒の国の皆に耳かきを行き渡らせること。

そして、耳の呪いをちゃんと取り除くこと。

そちらの方が先決だ。

まだ起きていないことを考えても仕方ない。

俺は生粋の耳かきバカだから、

難しいことを考えるようにはできていない。

耳かきを作って、耳をかいて、みんなを助けられればそれでいい。

俺が考えきれないことは、みんなの力を借りればいい。

ただ、俺を助けてくれて、いろいろなことを考えてくれる、

リラがひどい目に遭う可能性を考えると、

やはりいまいち冷静になれない。

頭のどこかで、どうにかできないかという、

焦りのような感覚が出てきてしまう。

俺はなんとなく、リラが特別なのではないかと思った。

ただ、恋愛というのとは違うと思う。

性的目線ではなく、一番大切な相棒として、

リラを大切に思っているのだと感じる。

俺が異世界にやってくるきっかけであったリラ。

俺の耳かきを支え続けてくれた相棒。

一番大事な存在。仲間。

この異世界においては、家族よりも強い絆の関係かもしれない。

愛と言えばそうかもしれない。

なんとなく、男女というものを越えた関係と俺は感じている。

この関係は、やはり相棒なのかとも思うが、

もっと強い関係を指し示す言葉を俺は知らない。

俺はリラを特別だと思っていて、

リラがひどい目に合うようなことを回避したいと思っている。

どうしたらいいかは、いまだに答えが出ない。

耳かきバカは難しいことを考えられない。


俺たちは黒の城から山道を歩く。

道はぬかるんでいるが、ある程度整えられているようだ。

寒波がなくなった後、雪が溶けて、

そのあとで歩けるように整えられたのだろう。

山には生き物の気配もする。

もしかしたら、白の国に逃げていった生き物も、

戻ってきているのかもしれない。

白の国の方に、黒の国が落ち着いた旨の報告も行っているかもしれない。

白の国でも安心をしてくれればいいと思う。

山をしばらく上り、建物が見えてきた。

近くには、馬のような生き物たちが車につながれている。

馬よりもだいぶ足腰強い生き物に見える。

この異世界の生き物なのかもしれない。

建物から、案内を任されたらしい現場担当者が姿を現した。

氷晶は、この山の奥で採掘されて、

この建物で成型した後、馬のような生き物の引く車で運ばれるらしい。

成型と聞くと金属のようだと俺は感じたが、

現場担当者が言うのには、

氷晶は熱で溶かして形を変えることができる素材であるらしい。

採掘も熱を使って切り取っているらしい。

それだけ聞いていると、採掘の様子が全く想像できない。

現場担当者は、俺たちを案内してくれるらしい。

氷晶はたくさんあるので、黒の国の皆に耳かきを作って欲しいことと、

核となっている永久氷晶も、ある程度使っていい旨の連絡が来ているらしい。

そちらに案内しますと、現場担当者は歩き出した。

俺たちも後に続いた。


採掘現場は、キラキラした氷晶で輝いていた。

氷晶自体が透明なのと、

少しの明かりで乱反射して余計キラキラとして見える。

採掘の通路に、結晶のようなものがはみ出すようにある。

これが新しくできた氷晶であるらしい。

永久氷晶を中心にして、

氷晶があちこちに伸びていくように出来上がるものであるらしい。

採掘のための通路に、新しくできた氷晶ができていて、

その氷晶を採掘したり、あるいは、奥のほうまで行って、

もっと純度の高い氷晶の採掘もできるらしい。

氷晶は、時間が経つとともに結晶が大きくなって、

大きくなった結晶は純度が高いらしい。

通路にはみ出している結晶は邪魔になるので採掘して取り除くとして、

採掘現場の奥の方にある大きな氷晶の結晶などは、

わざと成長させていたりもすると言う話だ。

純度の高い氷晶は、熱を遮る力が高いらしい。

寒いことがある黒の国の建築素材としては、

寒さを遮るものとして、純度の高い氷晶が使われるとのことだ。


俺たちは採掘現場をある程度進む。

採掘している作業員がいた。

かすかにあたたかい気配がある。

何かを燃やしているようだということまではわかった。

ただ、燃やしてどうしているかはわからない。

俺たちは案内されるままに近づいていく。

細い金属の線のようなものに、

ランプがつながれているようなものを持っているようだ。

ランプのようなものはそれなりの火力があるように見える。

細い金属の線は、火力のあるところから伸びているように見える。

金属の線を氷晶にあてると、

力を入れていないように見えるのに、

するすると切断されていく。

どんな仕組みなのだろうか。

これが熱で溶かすということなのだろうか。

「この金属の線は、ニードリアンの髪です」

現場担当者が説明する。

ニードリアンの髪は、一番熱に強く、強度も高く、しなやかであるらしい。

黒の国で氷晶を採掘をするのに使うには、

ニードリアンの髪を熱して氷晶を溶かして切り取るのが一番であるらしい。

また、ニードリアンの王族の髪は、

髪の中が空洞であり、

その髪は、医療に使うことができるという話だ。

いわゆる俺の感覚で言う注射針でいいかもしれない。

耳の呪いがはびこる前は、

ニードリアンの髪が伸びる度に、

黒の国に届けてもらっていたらしいけれど、

耳の呪いがはびこってからは、

どの国も疑心暗鬼になったり、争いが絶えなくなったりして、

青の国も黒の国を敵とみていて、困っていたらしい。

青の国が落ち着いたことで、

黒の国にニードリアンの髪が届けられるようになり、

採掘もはかどるようになってきたし、

医療にもニードリアンの髪が回るようになったという話だ。

寒波がやってくる前までは少し落ち着いていたらしいが、

先日の寒波はかなり堪えたらしい。

採掘の作業員たちも山で何とかしのごうとしていたらしい。

採掘用のこのランプの火で暖を取ったりして、

身を寄せて寒波が去ることを信じていたらしい。

大病院や黒の城だけでなく、

黒の国にはこうやって寒波に耐えていたものが、

たくさんいたのだなと改めて思う。

とにかく、ニードリアンの髪を熱することにより、

氷晶を熱で溶かして切り取って採掘していく。

切り取られた氷晶は運び出されて、

現場の入口にあった建物でどうやら成型されるらしい。

想像だが、熱を加えて形にするのだろうなと思う。

形になったら、馬のようなものの車に乗せて運ばれるということらしい。

俺の感覚としては、ガラスと水晶と、断熱材が、

いいとこどりをした感じかもしれない。

とにかく異世界の素材だなと理解した。


俺は、作業員の隣にやってきて、

耳かきのために氷晶をもらいたい旨を伝える。

話は通じているらしく、

採掘のための道具を貸そうかと言われた。

俺はこのまま耳かき錬成をする旨を伝えて、

氷晶に手を当てて、耳かき錬成を発動させる。

錬成時点で氷晶の強度も増すようにしてみた。

氷晶はもともと成型するような素材であるから、

素材の性質さえわかれば、素材の精製、成型、耳かきの形づくり。

全てが耳かき錬成で一瞬だ。

氷晶を精製してできた耳かきは一瞬でたくさんできた。

全てが透明でキラキラとしている。

現場担当者は耳かき錬成に驚きつつ、

たくさん作られるのでしたら、こちらにも氷晶がありますと、

さらに奥に案内した。

俺は氷晶の耳かきを作りながら、

時空の箱に氷晶の耳かきを仕舞い、

採掘現場を奥に進む。


難しいことは後回しだ。

まずはみんなのために耳かきを作ろう。

結局俺は耳かきバカだ。

人助けに耳かきを作るしかできない。

その耳かきがこの世界を救えるとしたら、

耳かきバカも捨てたものじゃないと思う。

やれるだけ、やろう。

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