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第333話 閃きの材料




「無我夢中だったから断言は出来ないが、恐らく俺は広げた魔砂マジックサンドを触覚の代わりにして全てのバンブレとフィルの動き出しを感知し、攻撃を避けた……のだと思う」


 俺は問いかけに対してハッキリとした答えを返せなかった。それでもフィルは何故か納得したようで満足そうに頷いている。フィルは場外にいるリリスへ少しだけ目を向けた後、すぐに俺の方へと向き直り質問を続けた。


「なるほどね、技の原理は理解できたよ。ただ、もう1つだけ聞かせて欲しい。ガラルド君が技を閃く事が出来たのはリリスさんの声掛けがキッカケかな?」


「着想を得られたのはリリスのお陰だな。やたらと耳に突き刺さるリリスの叫びは聞く度に色々と考えさせられるんだ。特に今回のリリスは俺に気付きを与えたかったみたいだしな」


「……その気付きとやらを聞かせてもらってもいいかな?」


「漠然とした言い方になっちまうが、今までの経験全てが技の閃きに繋がったと言えるだろうな。俺は女神長サキエル様にスキル鑑定をしてもらう前は全然スキルを理解していなかったし、鑑定後も自分なりに工夫を重ねながら使ってきた。攻撃、移動、防御、隠密、牽制、挙げだしたらキリがないが、1番のきっかけは過去視で見たシルフィだと思う」


「シルフィ母さんがきっかけだって? 詳しく聞かせてくれないか?」


 フィルは戦闘中なのを忘れているのかと思うぐらい熱心に尋ねてきた。『シルフィ母さん』という言い方からも俺よりよっぽど母親の事をリスペクトしているのが感じられる。


 この試合は真剣ではあるものの、あくまで訓練の一環だ。今この瞬間だけは勝敗を忘れてフィルの熱意に応えるべきだろう。俺は自分の考えを精一杯整理してから問いに答える。


「過去視を通して俺はシルフィが魔砂マジックサンドを戦闘以外に使っている事を知ったんだ。元々、目の見えないディザールを補助したい気持ちから生まれたスキルらしいからな。シルフィは怪我の治療にも魔砂マジックサンドを使っていたが、残念ながら今の俺には繊細に砂粒を動かす技量はない。だから現時点で俺がやれる範囲の真似事をしてみようと思ったんだ」


「なるほど、確かに自身の周囲十数メードに魔砂マジックサンドを浮遊させるだけなら繊細なコントロールは必要ないね。それでも広範囲に砂を拡散するぶん魔量の消費は激しそうだけど」


「ああ、フィルの言う通りだ。だから早めに決着をつけさせてもらうぜ。魔砂マジックサンドよ、敵の動きを感知し、俺を導いてくれ――――行くぞ! レッド・モード!」


 俺は走りながらでもバンブレを感知して避けられると信じ、全力でフィルに向かう。フィルは今できる精一杯の連撃を繰り出してきているが俊敏さと感知を備えた今の俺ならギリギリのところで避けられるはずだ。


 俺の服に掠るほど、際どい連撃が四方八方から飛んできて地面と空気を強烈な破裂音と共に叩いている。さっきよりも鋭さを増したバンブレに恐ろしさを感じつつも、俺の集中力は高まる一方だ。


 俺は少しずつ距離を詰め、フィルが振り抜いたバンブレを横跳びで回避する。同時に拳へ回転砂を纏わせて突き出す。


「隙あり! レッド・インパクト!」


 俺の拳に久々の手ごたえが響き渡る。赤く熱せられた回転砂はマグマの渦と言わんばかりのエネルギーをフィルの横腹に炸裂させる。


「ぐあああぁぁっ!」


 煙とうめき声を上げながらフィルが遠くへ転がっていく。だが、単発で終わらせるつもりはない、追撃を加えて逆転しなければ。俺は動きが鈍くなったバンブレの間をレッド・ステップで駆け抜けて追い打ちをかける。


「まだ終わりじゃないぜ! オラオラオラァッ!」


 俺からの追撃を受けるのはマズいと判断したのか、フィルは手に持っていたバンブレを捨てて、グリーン・セスタスで防御を固めた。それでも俺がやることに変わりはない。俺はひたすら赤き拳撃を繰り出し続ける。



――――ガラルド1点追加! 合計6ポイント!――――



――――ガラルド1点追加! 合計7ポイント!――――



 シリウスが連続でクリーンヒットをコールして俺達の点数は7―6となり、遂に逆転することができた。7本のバンブレから繰り出す鞭の連打ヘヴィ・レインは2度と出させるつもりはない。


 このまま俺が押し切って、魔量の尽きる前に10ポイントに到達して勝利してみせる。心の中で強く念じながら順調に拳撃を繰り出し続けていた――――が、フィルの後方から何故か突然強い魔力を感じ、俺は思わず後ろへ下がってしまう。


 その魔力の正体は単にフィルの後方へ設置されていただけのバンブレだった。しかし、強い魔力を纏ったバンブレは俺ではなくフィルの体を叩いて遥か上空へと打ち上げてしまった。


 俺はフィルが間違ってバンブレを暴走させてしまったのかと思った。シリウスも自滅のような打撃を見てクリーンヒット判定を下していいのか迷っているようだ。


 だが、俺はすぐに自滅ではないと確信する事となる。何故なら打ち上げられたフィルは遠く離れた瞬間に笑みを浮かべていたからだ。


 俺はフィルが上空から何か攻撃を仕掛けてくるのではないかと警戒しながら腕を構える。しかし、フィルは10秒以上経っても上から落ちてくることはなかった。何かの植物を利用して浮遊しているのだろうか?


 武舞台から30メードほど真上の位置で停止しているせいで手元や魔力の波動もよく見えない。サンド・ホイールを飛ばしてみてもいいが距離がありすぎる。このまま放ったところで近距離技やレッド・テンペストに劣る威力の技を放っても魔量の無駄遣いになりそうだ、ここは大人しく出方を伺おう。


 俺とフィルが睨み合ったまま沈黙の時間を続く。先に動き出したのはフィルだった。フィルは両手をゆっくりと動かし、魔力で紋章の様なものを描くと大声で呼びかける。


「次に仕掛ける攻撃で決めさせてもらう! ガラルド君を真似るような手を打たせてもらうが許してくれ。僕は兄弟に負けたくないんだ!」





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