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第406話 胎内

斜陽街番外地、八卦池。

八卦の鏡の形をモチーフにした池だ。

そこには、スカ爺という爺様がいて、

いつも池のほとりで、なにやらたたずんでいる。

容貌は中国の仙人というものに近い。

はげていて、ひげが長くて、杖を一本もっている。

時々杖で八卦池をかき回しては、

うんうんうなずいたり、なにやら会話をしていたりするらしい。


八卦池は電網と繋がっているという。

電子の網からこぼれた迷子が、

時々八卦池を経由するらしい。

スカ爺はそんな迷子を導いていたり、

会話をしたりもしているらしい。


八卦池に、何かが届いた気配がした。

スカ爺は届き物を八卦池の中で開く動作をする。

杖でとんとんとクリックのようなことをする。

「シャンジャーか」

スカ爺は知り合いの名前をつぶやく。

電脳から出られない存在の風水師。

時々八卦池を経由して、さまざまのことをもたらす。

面倒なこともあるかもしれないが、それはそれだ。

今回は何だろう。

スカ爺は伝言を読んだ。

「胎内のイメージを作ったとな」

メッセージには、胎内のイメージを作ってみました、

胎内は水に近いところだから、

八卦池にも、すぐ馴染むと思います。

容量の空きがあれば、しばらく試してください。

追伸。最近怪獣が出たという情報が入っています。

斜陽街は大丈夫ですか?

そんなことが書いてあった。


スカ爺は八卦池の片隅に、

胎内の記憶を展開する。

水とかかわりがあるだけあり、

すぐに八卦池に馴染んだ。

今までの八卦池を壊すようなデータは入っていない。

なんというか、深度が増した。

そんな感じだ。


「シャンジャーもやりおるわい」

スカ爺は感嘆する。

電子の海で彷徨ったものが、

八卦池で安心することが出来るだろう。

それならばこのデータも悪くはない。

それに、なにやら予感がした。

「怪獣でござるか…」

スカ爺はつぶやく。

無論斜陽街に怪獣なんてものは出てきていない。

シャンジャーにその旨も入れて、メッセージに送る。

スカ爺は思う。

なにやら怪獣に関わりそうな予感。

漠然とした予感だ。

ゆっくり杖で八卦池をかき回して、

怪獣に関する情報を集める。

当然本物の怪獣なんかは引っかからない。

みんな空想上の怪獣だ。

テレビや映画で活躍する怪獣、

神話に出てくる怪獣。

終わりの獣という言葉がどこかからやってきた。

スカ爺はその情報たちをまた、散らす。


予感はある。

けれど確たる物は何もなかった。

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