斜陽街番外地、八卦池。
八卦の鏡の形をモチーフにした池だ。
そこには、スカ爺という爺様がいて、
いつも池のほとりで、なにやらたたずんでいる。
容貌は中国の仙人というものに近い。
はげていて、ひげが長くて、杖を一本もっている。
時々杖で八卦池をかき回しては、
うんうんうなずいたり、なにやら会話をしていたりするらしい。
八卦池は電網と繋がっているという。
電子の網からこぼれた迷子が、
時々八卦池を経由するらしい。
スカ爺はそんな迷子を導いていたり、
会話をしたりもしているらしい。
八卦池に、何かが届いた気配がした。
スカ爺は届き物を八卦池の中で開く動作をする。
杖でとんとんとクリックのようなことをする。
「シャンジャーか」
スカ爺は知り合いの名前をつぶやく。
電脳から出られない存在の風水師。
時々八卦池を経由して、さまざまのことをもたらす。
面倒なこともあるかもしれないが、それはそれだ。
今回は何だろう。
スカ爺は伝言を読んだ。
「胎内のイメージを作ったとな」
メッセージには、胎内のイメージを作ってみました、
胎内は水に近いところだから、
八卦池にも、すぐ馴染むと思います。
容量の空きがあれば、しばらく試してください。
追伸。最近怪獣が出たという情報が入っています。
斜陽街は大丈夫ですか?
そんなことが書いてあった。
スカ爺は八卦池の片隅に、
胎内の記憶を展開する。
水とかかわりがあるだけあり、
すぐに八卦池に馴染んだ。
今までの八卦池を壊すようなデータは入っていない。
なんというか、深度が増した。
そんな感じだ。
「シャンジャーもやりおるわい」
スカ爺は感嘆する。
電子の海で彷徨ったものが、
八卦池で安心することが出来るだろう。
それならばこのデータも悪くはない。
それに、なにやら予感がした。
「怪獣でござるか…」
スカ爺はつぶやく。
無論斜陽街に怪獣なんてものは出てきていない。
シャンジャーにその旨も入れて、メッセージに送る。
スカ爺は思う。
なにやら怪獣に関わりそうな予感。
漠然とした予感だ。
ゆっくり杖で八卦池をかき回して、
怪獣に関する情報を集める。
当然本物の怪獣なんかは引っかからない。
みんな空想上の怪獣だ。
テレビや映画で活躍する怪獣、
神話に出てくる怪獣。
終わりの獣という言葉がどこかからやってきた。
スカ爺はその情報たちをまた、散らす。
予感はある。
けれど確たる物は何もなかった。