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招待-本質-

 ーパインクトに来て、今日で4日目。いよいよ明日、『手掛かり』の回収を行うというこの日に俺は艦隊の旗艦ユイセランに来ていた。

「ーおはようございます、ハウ中将」

「おはようございます、エージェント・プラトー。すみません、朝から呼び出しまって…」

「お気遣い、ありがとうございます。ですが、元々今日の朝の『トレーニング』をやらないつもりだったので問題ありませんよ」

 少し申し訳なさそうに言う中将に、俺は首を振る。まあ、昨日の時点で完璧だったし明日の

 本番は『スタート』がかなり早いから、今日は1回だけやると決めていたのだ。

 そんな時、昨日の昼にハウ中将に招待されたのでこうして朝からこちらに来ていた訳だ。

「良かった…。

 ーあ、どうぞお掛け下さい」

「はい、失礼します」

 すると、中将はソファーに座るように言ったので一礼してから座る。…にしても、レセプションオフィスまであるとはな。

 今、俺が居るのはユイセランにのみある『レセプションオフィス(応接室)』だ。こういうタイプの戦艦についてるとは思わず少し驚いていた。

「ー…っ。どうぞ」

 そんな感想を抱いていると、ふとルームのコールシステムが起動し中将の前にエアウィンドウが展開した。すると、中将はキリッとした表情と声で許可を出す。


「ー失礼します。ティーをお持ちしました」

 直後、ドアは開き食堂スタッフがティーセットを載せた実用性重視なカートを押しながら入って来た。

「…どうぞ」

「ありがとうございます」

「どうもありがとうございました」

 そして、スタッフは中将と俺にそれぞれティーカップをそっと置き一礼と挨拶をしてからルームを出た。

「…(あ、なかなかイケる。)。…ふう。

 ーさて、そろそろ『招待』の真意を教えて頂けますか?」

 とりあえず、美味しいティーを一口飲み一息付く。…そして、本題に入る事にした。

 実は、『そこ』だけボカされていたのだ。しかし、中将はなんとなく『大事な話』のような気配を纏っていたので朝にも関わらずこうして来たのだ。

「…分かりました。

 ーまずは、改めてになりますが『ゲスト』達の事についてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」

 すると、中将は心からの感謝の言葉と共に深く頭を下げた。…その態度に、俺は疑問を抱いた。

「(…何でだ?)

 お役に立ててなりよりです。…まあ、半分は『自分達』の為ですが」

「それでもです。…そもそも、『それ』だって巡り巡って『トオムルヘ』の為ではありませんか」

「…確かに、そうですね(…え、まさか、『そういう事』なのか?)」

 完全な善意ではない事を告げるが、中将は真っ直ぐな瞳で返して来る。…それを見て、1つの予想が浮かんだ。

「…ハハハ、流石エージェントですね。やっぱり、『気付いて』しまいましたか。

 ー…そうです。私は『トオムルヘ』と決して無関係ではないのです」

 すると、中将は観念したように俺の予想を肯定した。…ユリア副隊長が含まれていないって事は、この人だけ関わりがあるのか。


「…実は、私は以前『前政権時代』のトオムルヘに『不可抗力』的な事情で訪れた事があるのです」

「…っ!(…やっぱり。)…『不可抗力』な事情とは?」

「…貴方も知っているかと思いますが、『トオムルヘ』は共和国の友好星系である『ナイヤチ』の近辺にあります。

 そして、当時…『大体18年前』くらいの時。共和国の士官スクールの学生だった私はスクールの授業の一環でナイヤチに向かっていました。

 …その道中、私達を乗せた定期船は突如発生した『ワープホール』に飲み込まれ数日後にトオムルヘに流れ着いたのです」

「…っ!?(…あれ、ちょっと待て。…確か、『例の廃ビル』もー)」

 昨日の報告から『いつから廃ビル』だったのかを割り出していたが、どうゆう訳かその年代と被っているのだ。…いや、どう考えても無関係ではないだろう。

「…あの時は、本当『星』になるかもしれない状況でした。

 何せ、数日最低限の宿泊機能と備蓄しかない船で寝泊まりした後やっと通常の宇宙空間に出たと思ったら、そこは非加盟星系で、しかもタイミングの悪い事に巡視船に発見され即座に戦艦が飛んで来たんですから」

「(…うわー、無駄に迅速~。…しかも、言葉が通じないから余計にヤバいよな…)…それは、災難でしたね……」

「はい…。…ですが、『その時たまたま』定期船に『トオムルヘ語』を話せる方が居た事でなんとか遭難である事を先方に伝えられ、そして直ぐに外交官のディノー氏をはじめとした政府の方々が動いてくれたおかげでなんとか保護に切り替わったのです」

 中将は、当時を思い出したのかやや冷や汗を流した。…一方俺は、早速とある部分に引っ掛かかる。

「(…一見すると『非常に運が良かった』系の話しだが、果たして『そんな偶然』あり得るか?…なんか、『その人物』とゲスト達の『命の恩人』は同一人物な気がして来た)…あ、そうなると中将とディノー氏は知り合いだった訳ですか」

 何となく、そんな予想を抱きながら思った感想を口にした。


「…恥ずかしながら、最初は同一人物だとは気付く事は出来ませんでした。そればかりか、名を騙る不届き者とさえ思っていました…。

 本当、貴方と『かの船』が居てくれて良かった。…でなければ、きっと私は命の恩人達に非道い扱いをしていたでしょう」

 すると、中将は少し落ち込んだ。…つまり、それだけ容姿や印象が激変していたという事だ。

 多分、加齢だけなら面影くらいは残っていたのだろうが長年の避難生活で、食生活や睡眠の乱れ、身だしなみも整える余裕なんてない上に過度の精神的不安が重なった結果だろう。

「(…というか、そんな状況の中良く全員今日まで『無事』でいられたな)……。…本当、お役に立てて幸いです。

 …けれど、どうしてその話を私に?……ひょっとして、中将殿も私達に『何か』伝えたい事があるのですか?」

 そんな中将に、俺はなるべくにこやかに話す。…そして、話しの中で向こうの意図を察し

 ていたのでそれを聞いてみた。

 すると、中将はしっかりと頷いた。

「ええ。

 ーその前に、エージェント・プラトーは『その事故』の事をどこまで知っていますか?」

「……。…えっと、確かー」

 俺は直ぐに記憶のサルベージを行い、当時のデータニュースを口にする。



 ー当時、定期船の遭難事故は帝国領域のみならず連盟中で大きなニュースになっていた。…まあ、『安全な航路』を通る『安全な船』が遭難したんだから当然だが。

 そして、事故発生からおよそ2週間後。連盟の合同捜索部隊はナイヤチの真逆の位置にある…我が故郷、『グリンピア』外周で定期船を無事に発見した。…のだが、その事のニュースには幾つか引っ掛かかるポイントがあった。

 例えば、『クルーと乗客は全員意識を失っており遭難中の記憶が無い』だとか、『定期船のログも遭難中の期間のみ消えていた』だの、とにかく明らかな『隠蔽』の気配があったのだ。



「ー…とりあえずは、私が知ってるのは世間のは人達が知っている事と大差ないですね」

「そうですか。…ならば、事故後公開されたニュースが『事実をすり替えたモノ』とという事をご存知ないですね」

「…っ!(…やっぱり)」

 すると、中将は前々から抱いていた考えを肯定した。

「ーそれでは、当時私が『何』を見たのかお話ししましょう。

 尚、これから私が話す内容は『機密事項』になるため貴方のクルーと遊撃部隊メンバー以外には、決して話さないで下さい」

「了解です」

 中将の注意に、俺は気を引き締めるのだったー。

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