「マスターこんばんは!」
「ああ結菜さん、奥でお待ちですよ」
私と愛花はバー蓮花に来ていた。先についていたらしい良平と栄が私たちに手を振る。
「初めまして。飯田栄、26歳の会社員だよ。よろしくね」
「初めまして、佐々木 愛花、23歳会社員です」
2人は軽く挨拶を交わすと4人席に座ってお酒とつまみを注文する。
愛花と栄はお互い探り合っているようだったが、嫌な印象はないようだった。
「栄さんはストーカーに狙われやすい体質って伺ってますけど本当ですか?」
私は飲んでいたカクテルを吹き出しそうになった。
あまりに突然確信をついたことを言うから驚いたのだ。
普通ならもっと仲良くなって話の流れで〜と言う聞き方の方がいいのではと思ったが、回りくどいことが嫌いな愛花らしいと言えばそうだった。
「愛花ちゃんは直球だね。うん。いつも狙われてる。今もバーカウンターに1人」
栄の言葉にも驚いた。まるで歴戦の戦士のような観察眼。
「え?なんでストーカーだと気づいたんですか?」
「あの子どこに行っても俺の視界に入るギリギリのところにいて俺のことじっと見てるから…」
「見張られながらマッチングして大丈夫か?」
良平が聞くと、栄は困った顔をした。
「愛花さんのことを思うと身を引いた方がいいいかなと思ってる。でも本当は愛花さんのこともっと知りたいなって思ってる自分もいるんだ。」
するとそこにいたストーカーの女の人が近づいてきて愛花にいきなり水を引っ掛けた。
「私がいるのに栄君に近づかないでよ!栄くんと結婚するのは私よ!」
“ゴーン”戦いのゴングが鳴り響いたような気がした。
愛花はカクテルを一気に煽るとその女性の胸ぐらを掴んで持ち上げたのだ。
「ああ!?迷惑かけておいて結婚だあ!?あんたはただのストーカーだろうが。迷惑かけんな」
みるとグーぱんしそうな剣幕だったので私は慌てて愛花を止める。
「愛花、殴るのはなしだよ。そろそろその子下ろしてあげないと怯えてる」
「これくらいでビビるならストーカーなんてするんじゃないよ」
愛花がそう言うとその子は慌ててマスターにお代を渡して走り去ってしまった。
たまたま店内には私たちしかいなかったからよかったものの。ヒヤヒヤした。
「マスターすみません、お騒がせして」
「いいえ。あの子をどう家に返すか考えていたところだったので助かりましたよ。ストーカーはうちの客ではないので」
蓮はそう言うと愛花に新しいカクテルを作ってくれた。
「これは頑張ってくださった愛花さんへのお礼です」
「え〜いいのに、でもありがとうございます。いただきます」
愛花は微笑んで蓮にお辞儀をした。
「すごいね。君、強いんだ…かっこいい」
ことの成り行きを見守っていた栄はポツリとつぶやいた。
どうも愛花の強さに心惹かれてしまったようだった。
「今まで近くにいなかったんだ。ストーカーと戦える恋人。俺の恋人になる人はきっと狙われるから今まで恋人を作らなかったんだけど、君だったら」
栄は愛花の手をとって頬を染めていた。愛花もまた栄のそんな急な行動に頬を染めていた。
(あ。これ上手くいったやつだ)
私はホッとした。どうやら2人は理想のカップルだったらしい。
良平をみるとウンウン頷いていて、この後は2人にまかせて良さそうだった。
「私は良平となのはちゃんに会いに行くからここで帰るね。マスターお代ここにおきます」
「はい確かに。また来てくださいね」
私と良平は2人並んで歩いた。この後は良平の家に行ってなのはちゃんと一緒に遊ぼうと思っていると、良平が突然私の前に立ちはだかった。
「良平?」
「お前謹慎中だろ。なんでこんな場所にいるんだ」
目の前にはなんと黒いマスクと前髪を下ろして目を隠してフードを被った累がいた。
「俺は結菜に会いたくて会いてくてたまらなかったのに。結菜は良平と一緒に飲んでたのか?」
かなり思い詰めた声音に私は心がザワザワしたが必死に今の状況を説明する。
「違います。今日は私の友達と良平の友達を紹介するために集まっただけです。2人で飲んでたわけじゃないんです」
「でもこの後良平の家に行くんだろ?結菜に俺って必要なの?謹慎中なのに俺だけが我慢しないといけないの?」
累のイケボは周りの気を引くようで立ち止まって会話を聴こうとする人もちらほら出てきた。
「累さん、黙ってください、あなたの声、人目を引くからここから離れましょう」
そう言って良平と私と累の3人はその場を後にした。
「俺がよく行く個室がある居酒屋があるからそこで話そう。それまで累、お前は口を開くな」
良平がそう言うと累はコクリと頷いて黙って私達について歩いた。
だが私は良平の隣を歩いた。今の塁が正直少し怖かったのだ。
なぜあんなにタイミングよく現れたのか。またストーキングしていたとしたら私との約束を破ったことになる。そのことについての罪悪感などはあるのだろうか。
そんなことをぐるぐる考えながら私は良平について歩いた。