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第42話 話し合い

3人は良平の行きつけの落ち着けそうな個室のある居酒屋に入るとさっきの話の続きを始めた。


「ねえ、結菜に俺って必要なの?俺がいなくても毎日楽しく生活してるみたいだけど」


 累は深く傷ついたような表情をして私を問い詰める。

 確かに私は毎日変わらない生活を続けている。一方累は少しやつれているようだった。


「俺はいつでも結菜に会いたいけど、結菜の安全を考えて我慢していたんだ、だけど、どうしても会いたくて結菜の終業後に後をつけたら良平くん達と飲みに行って。2人で出てきた…」


「それは紹介した友達同士がいい感じになったから気を利かせて出ただけです!」


「口ではなんとでも言える」


累は頑なだった。私と良平の仲を疑っているようで、話は堂々巡りになってしまっている。

(どうしたら累を安心させられるのかしら)

 私がう〜んと考えていると良平がイラついた様子で累に言った。


「お前は自分のことばかりだな。結菜が普段と同じ生活を送れているのは喜ばしいことだろ」


「それは…」


良平の正論に累はおしだまる。元々この1ヶ月は累の謹慎もあるが、私の身を守るためでもあるからだ。それを変装していたとしても会いにきたら台無しだ。


「お前はいつも自分本位だからそこが気に入らないんだ。少しは結菜の身になって考えてみろ。やっぱりお前には結菜を任せていられない」


「良平!でも累さんは私に会いたくて…」


「だからダメなんだよ。LIMEで連絡取り合えるんだからテレビ電話するなり工夫して1ヶ月乗り越えればいいだろ?それをせずに会いに来るってどれだけ身勝手なんだよ。それもどうせ会社から後をつけてバーから出てくるの待ってたんだろ?」


 言われて気づいた。あの場所にあのタイミングで現れるのは待ち伏せしかないからだ。


「うん…。結菜のこと驚かそうと思って、だけど女の子と一緒に出てきたからタイミング逃して、今まで待ってた」


「累さん…そんなこともうしない約束なのに?」


 私は悲しくなった。あれほど約束したのにこんなにあっさり約束を破られたこと。確かに累は不安定なところがあって、そのことも含めて愛しているが、今回のことは少し心に引っかかった。


「とにかく誰かの目に留まる前にマネージャーに迎えにきてもらって家に帰れ。結菜は俺が送って帰るから」


 累は無言で合原のLIMEにメッセージを送っているようだった。


「連絡ついた。これからこっちにくるって。2人のことも車で送るからここで待つようにって言われた」


「わかった。じゃあそれまで飲むか。累。俺もお前の気持ちがわかないわけではないよ。会いたいっていう気持ちが止められないこともな。でも…それでも…相手の幸せを願うのが本当の愛じゃないのか?」


「…そうだな。君は正しい。いつもそうだ。良平くんはいつも…」


 累は黙って苦しそうな顔をする。今回の軽率な行動を反省しているのだろうか。


「累さん、私も累さんが苦しい時に一人だけ楽しく過ごしていてごめんなさい。私ができることは1ヶ月待つことだけだったから…甘く考えていました」


「結菜ごめんね。俺反省してるから…どうか俺のこと捨てないで…」


「捨てるなんて…そんなことしません」


(累さんはメンタルが弱りまくっているなあ。心配)


「累さんが私のこと好きでいてくれること嬉しいです。でも、2人が一緒にいることがよくないことなら、私…」


それ以上言葉が紡げない。別れた方がいいだなんて、言いたくなかったけれど、このままの関係でいるのは難しいことは分かりきっていた、


「あの、累さん、私達距離をおきましょう。ちょうど1ヶ月の謹慎中ですし、LIME もしない。合わない。後をつけたりもしない。ね?」


「そんな!俺には結菜が必要なんだ」


「だからですよ。このままずるずる今の付き合い方を続けていたらきっとお互いダメになってしまう。一度リセットする必要があると思うんです。わかってください…」


 累は仄暗い表情をしていたがポツリと言った。


「結菜が望むのであれば…俺は待つよ。結菜のことずっと…待つ」


良平はその会話を無言で聞いていたが、言った。


「俺は結菜のことが好きだけど、お前達が距離を置いている間は絶対に手は出さない。これは約束するから安心しろ」


それを聞いて累は泣きそうな悲しい微笑みを良平に向けた。


「君は本当に良い人間だね。俺もそうありたかった」


 累はそういうと日本酒をちびりと飲んだ。

 累の執着やストーキングは幼児期のトラウマからきていることを知っている私は本当に彼を突き放すことをするのが気の毒だった。だが、あまりにも常軌を逸しているため、離れるべきだった。

 累も私と出会わなければこんなことにはならなかったかもしれないから。そう思うと累が気の毒になった。


「累さんごめんなさい」


「結菜…謝らないで。悪いのは俺だから。言いたくないこと言わせてごめんね」


累は力無く微笑んでまた少しお酒を飲んだ。


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