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Chapter7 - Episode 30


『まずアリアドネ。此奴は渡す物があるらしい』

「あー……再戦エリア設置用のアイテムかな?」

『恐らくそうだろうよ』


蛇がそう言ったと同時、水面から水球が浮かび上がる。

その中には、綺麗な蒼色をした宝石のようなものが浮かんでいた。


――――――――――

『瞬来の水源球』

種別:ボスクエストアイテム

等級:特級

効果:埋めた場所を中心に、ボスとの再戦エリアを配置する事が出来る

   1度使用したら砕け散る

   ※『惑い霧の森』中層以降にしか設置できません

説明:『かつて独りだった捕食者は死して尚、贄を望む』

――――――――――


「うん、いつも通りの奴。他は?」

『そうさな、何でもここは今不安定らしいぞ』


イタチザメの言葉?を通訳してくれる蛇によれば、現在このボスエリア周辺は魔力のバランスが崩れてしまっていて不安定……放っておくと、周囲の『惑い霧の森』が魔力に耐えきれなくなり崩壊してしまうかもしれないとのこと。

先程から水面から立ち昇っている光の粒子も、新たに出来た余剰エリア……つまりはこの『神出鬼没の地下湖畔』が現在進行形で空気中に魔力として溶けていっているからに過ぎない。

それが外に出て、『惑い霧の森』の性質と混ざり合い……敵性モブと化す。

恐らく、先ほど倒した新種達はそうして出来てしまった言うなればバグのような存在なのだろう。


「んー……って言ってもなぁ……ちょっと待って」


正直な話を言えば、私個人が解決できる範囲の話ではない……はずだ。

この場で私に対してこんな話をしてくる以上、何かしら出来る事があるのだろうが、パッとは思いつかない。

掲示板にもそれらしい話をしているモノはなく、最終手段……というよりは最後の望み的な意味で、メニューウィンドウからダンジョンの管理画面を表示する。

殆ど開いていないために色々と新しい項目が増えているような気がするが無視をして、それらしいものを探していくと、


「ビンゴ。これか」


『ダンジョン構造管理』。

私が『神出鬼没の地下湖畔』を管理する事になったからなのか、『惑い霧の森』に繋ぐ形で管理しているからなのか。それともその両方か。

トリガーは分からないものの、この項目から現在のダンジョン内の構造をある程度弄り回せるようだ。

勿論、ボスエリアへと繋がる道を弄って別の位置にする事も可能。

……中々便利ではあるけど、考えないと変な事になりそうではあるなぁ。


ウィンドウ内に表示されたのは、『惑い霧の森』の立体マップだ。

上層、中層、深層と3つの階層に分かれているそれを見てみると、現在上層に存在しているボスエリアは1つ。『白霧の森狐』のエリアだ。

そして中層は何もなし。

深層は『白霧の狐憑巫女』と『瞬来の鼬鮫』の2つのエリアが存在している。

そして勿論警告マークも表示されていた。


「あーはいはい。1つの階層に対して1つまでしかボスエリアを置いちゃダメって事ね」


その警告マークをタッチしてみると、『許容魔力量を大幅に超過しています』という文章が表示され、どちらかのボスエリアを移動させねばならないという文言も追加で出現した。

迷う必要もない為、『神出鬼没の地下湖畔』を移動させようとすると……またも警告。

内部に居ると次元の狭間に落ちてしまう可能性がある為危険である……らしいため、イタチザメに手を振って別れた後、【羨望の蛇】と共に外に出てから中層に移動を開始させてみる。

すると、だ。


「おぉ……消えてった……」

『ふむ、中々に面白いものだな。我もダンジョンが構造変化するのを見るのは初めてだ』

「あ、蛇さんでもなんですね」

『我をこうして外に出して雑談するような輩が過去にほぼ居なかったとも言うがな』


私達が先ほどまで居た地底湖へと繋がる階段、鳥居ごと消え去ってしまった。

中層に移動させたのは私だが、こうして綺麗さっぱり消えてしまうと本当にイタチザメは安全に移動出来たのかと心配にはなってしまう。

それを確かめるためにもと、【霧式単機関車】を使い中層へと私達も移動を開始した。



『惑い霧の森』は3階層に分かれているとは言え、その全てが地続きと言ってもいいダンジョンだ。

その中でも中層に分類されるエリアは上層、深層に比べ狭く、2つの階層の特徴が混ざり合った……いわば切り替わり地点。

上層で見られる敵性モブから、深層で見られる敵性モブ、そしてそれらが勢力争いをしていたり、共生していたりと『惑い霧の森』の中では一番騒がしいエリアとも言える。


「おぉー……よかった、ちゃんとあった……」

『自身が移動させたのに何を言ってるんだ貴殿は……』

「いやいや、こういうのってちょっと不安になるんですよ」

『分からんでもないが……』


そんなエリアに単機関車で乗り込んだ私達は、そのままに新しく『神出鬼没の地下湖畔』を設置した位置へと移動し、すぐさま中へと入っていく。

先程侵入した時と同じように階段を降りていくと、『瞬来の鼬鮫』が空中に転移を繰り返しながら私の事を待っていてくれた。


「ふぅー……これで終わりかな?」

『これで全部らしいが、早めに先程受け取った球を設置してくれると助かるそうだぞ?』

「あぁ、再戦。ボスだから意識の同調とか出来るらしいし……そういう事だよね?」


私が問うと、肯定するかのように空中に転移する。

これは良いペットが出来たかもしれないな、と思いつつ。

サメがこれでいいのかと少しだけ心配になってしまった。


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