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第98話 転校生は問題児・彼が奪われたモノと彼に与えられたモノ

■その98 転校生は問題児・彼が奪われたモノと彼に与えられたモノ■


 お散歩から帰って、主達がご飯の準備をしている間に、双子君達や先生組は順番にお風呂です。戸惑う佐伯君を、双子君達が半ば強引に引っ張って、一緒に入りました。着替えは、笠原先生が家から勝手に持って来ました。


 夕飯も、皆で頂きます。佐伯君の引っ越し祝いと、歓迎会です。主のお父さんお母さん、桃華ももかちゃんのお父さんお母さんも一緒です。ローテーブルに、更にテーブルを繋げました。今夜のお料理は、主と桃華ちゃんだけでなく、お母さんコンビも腕を振るいました。


「佐伯君、ようこそ我がファミリーへ。今日はバタバタで、大変だったでしょ?たくさん食べてね」


 桃華ちゃんのお母さん、美世さんが料理を大皿から取り分けてくれました。


「はぁ… どうも」


「シャキッとしない奴だな?」


 目の前に置かれた料理を見ながら、佐伯君は生返事です。主のお父さん、修二さんが佐伯君の反応に少しイラっとしています。修二さん、目が三角になっていますよ。仕事が終わって、目つきの悪さを隠すための伊達眼鏡を取っているから、その目はとっても怖いです。


「午前中に、三鷹みたかにキツイ一打を受けましたからね。ショックが強すぎたかもしれませんね」


 笠原先生がビールの缶を開けて、大人組のグラスに注いでいきます。


「そんなに凄いの?」


 主のお母さん、美和さんも料理を取り分けながら聞きます。


「肋骨にヒビ入ったしね」


「ふーん、ヒビね…」


「「「「「ええっ?!」」」」」


 未成年組のお茶を注ぎながら、梅吉さんがケロっと答えました。あんまりにもサラッとだったので、美世さんも流すところでした。未成年組と、お母さんコンビは思わず声を上げて、佐伯君を見ました。


「防具なしで、あんな一打受けたんだから、1~2本はいくでしょう。あ、学校帰り、ちゃんと医者行ったから大丈夫。安静にしていれば、そのうち治るよ。な、佐伯。

 ちょうどよかったよな、テスト前で部活もないから。し・ば・ら・く、ちゃ・ん・と、大人しくできてラッキーだよな」


 梅吉さん、佐伯君の前にお茶を置きながら、力強く言いました。


籠手こてじゃなくて、良かったじゃない。それ、下手したら手首骨折でテスト受けられなかったって事でしょ? 良かったわね」


 美世さん、確かにそうかもです。


「そうね、肋骨でよかったわね。でも三鷹君、また反省文?」


「気を付けないと、教育委員会から怒られちゃうわよ」


「あのね、怒られたのは、俺。教育委員会じゃなくて、学年主任だけど」


「「お疲れ様―」」


 美和さんと美世さんに労われて、梅吉さんはガックリと肩を落としました。


「もしかして、怪我したの初めて?」


「怪我させるのはいつもだけど、するのは初めてだ」


 桃華ちゃんが聞くと、佐伯君は素直に答えました。なるほど、それで大人しかったのか。と、主と桃華ちゃんは納得しました。


「今日は色々と頭が追いつかない事があったと思いますが、最後にもう一つ。

 黙っていても、そのうち分かることですし、その『そのうち』が、貴方が問題を起こしていつもの様に『示談』にしなければいけない時だったら最悪のタイミングなので、今、言いますね」


 食卓の準備が済んで、さぁ、食べよう! といったタイミングで、笠原先生は爆弾を投下させるようです。皆、飲み物の入ったグラスを片手に、笠原先生を注目しました。


「佐伯君、ご両親と連絡が取れなくなりました」


 笠原先生、爆弾投下です。思っていたより、強烈な爆弾です。主も桃華ちゃんも、言葉がありません。


「詳細は、調査中です。なので、本日から成人するまでの間ですが、梅吉が佐伯君の『未成年後見人』となります。簡単に言いますと、『親の代わり』ですね。

 学校はご心配なく。転入手続きの段階で、卒業までの学費等は全て支払われています。衣食住も確保できているので、貴方が心配することは、生活費ですね。このアパートに住めば、食費を払えば3食作っていただけます。栄養バランスもバッチリで、量もあるので満足できます。なので、生活費もアルバイトで何とかなるでしょう。

 今日、商店街を回りましたが、数件、アルバイトを募集していましたね。

『示談』しなければいけないような行動をとらなければ、しっかり生活できますよ。

 住居についてですが、後継人の梅吉の家は年頃の女性が二人もいるので、俺が三鷹と同居して部屋を開けようとしていたんですが、オーナーからNGが出ました。未成年を一人で住ますなと。三鷹の部屋は、俺も梅吉も仕事で使っていますし、そもそも個人情報を漏らさないようにと、あの部屋に集まっていますので、消去法ですね。なので、とりあえず、同居は卒業まで続きますので、よろしくお願いします」


 なるほど、あのお散歩には、ちゃんと意味があったんですね。主と桃華ちゃんは、うんうんと頷きました。


「じゃあ、明日から、佐伯君の分もお弁当ね。好きなものは? アレルギーは? 嫌いなものが入っていても、頑張って食べてね」


 主、ボーゼンと聞いていた佐伯君に、遠慮なく聞きます。


「… アレルギーと、嫌いなものはない。好きなのは、納豆」


 あまりにも、主が普通に聞くので、佐伯君も普通に答えました。


「わー、スゴイ。偉いなー。龍虎りゅうこ聞いた? ちゃんとピーマン食べれる人は、大きくなれるんだよ。三鷹さんや、梅吉兄さん、笠原先生も大きいでしょう?」


 言いながら、主は美和さんがあえて双子君達のお皿に入れなかったピーマンを、大皿から取って入れました。


「お父さんだって、ピーマン嫌いだけど大きいじゃん!」


「嫌いなモノを無理やり食べる時のストレスの方が、成長に悪いよ」


 双子君達は文句を言いながら、お皿に入ったピーマンを睨みつけました。まぁ、サラダの、千切りにされたのが2切れなんですけれどね。


冬龍とうりゅう、もっと子供らしい事、言いなさいよ。

 佐伯君、普通の洗濯はご自分でどうぞ。剣道着はまとめて洗っているから、出してくれれば洗うわよ。素振りをしたければ、庭でどうぞ。

 あと、秋君は水島先生の飼い犬だけれど、勝手にアパートとこの家をうろちょろしているから、踏まない様に気を付けてね。

 さ、食べましょう。お腹、ペコペコ~」


 桃華ちゃんは早口でそう言うと、両手を合わせて目を瞑りました。桃華ちゃんに促されて、皆も手を合わせて…


「いただきます」


 楽しい楽しい夕飯の始まりです。佐伯君も、肋骨の痛みや両親の事、これからの生活が気になるようでしたけど、あんまりにも皆が普通で、ご飯がとっても美味しかったので、そのうち料理や皆との時間を楽しみました。





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