よし、やっちまえ野郎ども。我が名は後方保護対象他力本願時之ランデオルスなり。皆の者かかるのじゃ! ぶおぉ~~。
心の中でほら貝を鳴らしていると、実際にその通りに動いてくれた。自分の願いが現実に起こりえたので驚いて「え?」と声に出してしまったのも致し方ないだろう。
もしかして声に出していた? と若干不安にもなった。
髭爺さんはちっさい紅い刀身の小刀を取り出したかと思えば、一振りすればその切っ先から業火の斬撃が飛び出し、ゴブリンを消滅させていく。
すげぇ。しかもふわりとフードが浮いたときに見えたご尊顔、かなりのイケオジだ。けれど敵がいると分かればその後の馬車なんてお構いなく。一発でぶち壊すド阿呆っぷり、俺忘れねぇからな。
俺を咄嗟にゴブリンの一撃から守ってくれたお兄さん。彼が一歩動くと、何故かそこに首を晒すように飛び込んでくるゴブリン。勿論剣でスパッと軽く振るだけで、首と胴体がポップコーンのように弾ける。
しかもそれの回転数が半端ない。まるでダンスでも踊っているかのように華麗なステップ。その度に碧い髪が揺れる。爽やかなストレートヘアーニキ、かっこいいな、許すまじ。
そして隈のおっさん、こちらはその辺に落ちている石ころを投げると、ブオンという風切り音と共に、目で追えない程のスピードで飛んでいった石つぶてがゴブリンの頭を破裂させながら何体も貫通させていく。
でも俺には分かる。そんな化け物じみた身体能力してるけど、その隈、仕事で疲れてるんでしょ? 大丈夫、俺はあんたのこと認めているよ。ちなみに隈が無くなったら整っている顔が明るく見えるのでアウト。ちなみにこのアウトはスリーアウト目なのでチェンジです。
そんな三人が加わってから、さらに一団は安定してゴブリン狩りに勤しんだ。
「はぇ~、流石にもう大丈夫そうだね」
見るからに狩野効率も打ち漏らしも減っていっている。
安全圏になれば、こんな俺でも多少は勇気が出てくるもので、俺は考えていた魔法の実践にすることにした。
えーっと、まずは魔力糸をゴブリンの方に伸ばして、首に巻き付ける。あんまりきつく巻き付けると、ゴブリンなら大丈夫そうだけど、力の強い魔物だと、暴れられて簡単に千切れてしまうので、実践を意識して、軽く巻き付ける。
これで多少動いてもアソビがあるので、簡単には千切れない。
はい、ここで着火。
導火線のように、バチバチと燃えて魔力糸を伝っていく。順調に対象に近づいてはいたものの、結果として、自分に向かっているとバレた瞬間に、短い足で踏みつぶされ、魔力糸が千切れてお釈迦になった。
むむ、そうなるか。
見た目でバレるのは問題ないとして、勢いだよな。早く炎が伝っていけば避ける前に巻き付いた部分だけでも火傷にすることは出来るだろう。
火傷を舐めてはいけない。あ、いや物理的な意味じゃなく。
風に吹かれただけでも違和感ましまし、何かが触れようものなら過敏になった肌に痛みが走る。
戦闘中にそんな素振りを見せれば大きな隙になる。ちなみに俺は攻撃手段が乏しいので、その隙を活用する術をまだ見つけていません。
と、考え事をしていると、先ほど魔力糸を巻き付けたゴブリンが導火線の発生元の俺を見つけた。
「ギャウガウ!!」
あからさまに怒ったぞという、地団駄を踏んで、俺の方へ向かって走り出した。
「水球」
“ちゃぽん”
危ないな~。今考え事に集中したいからちょっと、待っててよ。
小さなビー玉サイズの水球を作って、正確に相手の口と鼻の中に入れて、拡張、固定。
ゴブリンは苦しみ藻掻いて、自身の首や口の中を掻きむしる。
頑張って口の中から水を吐き出そうと試みているが、口内の筋力がどんなもんかは知らないが、流石にそこまでの力は無いようで、しばらく苦しんで、緑色の顔をさらに深くさせてコテンと倒れた。
ん~、やっぱり魔力糸を可燃性の物であるイメージをして、こうボウって感じで燃え上がらせることが出来ればいいんだよな。
あ、でも、モンスターに直撃するまではスピード重視、その後はなるべく燃え続けるようにした方がいいのかな?
やっぱりこの辺は試してみないと分からないよな、実践あるのみかぁ。あ、「水球」
「おい、見ろよあの子供。恐ろしい魔法使ってやがる」
「あぁ、しかもあんな正確な魔力操作、どんな人生おくったらそうなるんだよ」
最小限に、効率的に、殺すだけ。ランデオルスの使っている魔法はそんな魔法であったが、正確無比な魔力操作と確固たるイメージを要するため、使い手が少ない魔法の一種であった。
そんな魔法を考え事の片手間にしているランデオルスもまた、他の魔法使いから見れば、恐ろしい化け物のように見えていた。
かくして、壊れた馬車に同乗していた五人の活躍により、終わりなきように思えたゴブリン軍団との戦いは、次第に収束に向かっていった。
魔物の死体を放置すると、新たな魔物を呼ぶため、全員で火葬の準備をしていると、村に向かっていった冒険者たちが帰って来た。
こちらとは違い、少し顔が暗い。流石に間に合わなかったのだろうか。