目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第178話 最終局面

「ここまでだっ!」


【ショウの攻撃 マテンロ―にダメージ355】

【マテンローを倒した】


 俺の渾身の一撃が、マテンロ―の残った体力を削り切った。

 ――手強い相手だった。


 俺達とマテンロ―達の戦いは、後から加わった二台のチャリオットも巻き込んで、四台による混戦へと発展していた。

 どのチャリオットも異なる所属。共闘など望むべくもなく、生き残ることと自分がトドメを刺すことを目的とした無慈悲な潰し合いが繰り広げられた。

 そんな苛烈な戦場の中、マテンローのチャリオットの動きは、俺の予想を上回るものだった。敵の標的にならないよう巧みに立ち回り、機を見ては果敢に攻める。その統率は、以前のキング・ダモクレス戦で見せた彼とは別人のように洗練されていた。

 マテンローの奴は確実に成長している――敵ながら、それが少し嬉しかった。

 そして二台が沈み、残ったのは俺達とマテンロー達。第三者の介入のない、真正面からの一騎打ち。

 マテンローも懸命に戦い抜いた。だが――勝利の女神が微笑んだのは、俺のほうだった。



「マテンロー……また一緒にやろうぜ」


 敗北した彼の姿はもう半透明になっており、もはや能動的な行動は取れず、返事もできない。でも、俺の声は届いているはずだ。

 マテンローは悔しさを滲ませつつも、どこか満足そうに笑ったような気がした。


 そして俺達は新たな戦場へと向かった――




 運営イベントは、いよいよ最終局面を迎えていた。

 マップ上に表示されたチャリオットを示すマークの残数――わずか三。

 そのうちの一つは、俺達だ。


「……ここまで生き残れるとはな」


 正直、自分でも驚いている。

 戦術的な位置取りで敵の包囲を回避し続けてくれたメイ。

 瞬時の判断で最適な回復を繰り返してくれたミコトさん。

 そして、俺とミコトさんを守り抜いてくれたクマサン。

 どう考えても、彼女達のおかげだ。


「ショウさんのおかげですね」

「そうだな。ショウ一人で何人倒してくれたことか」


 ミコトさんとクマサンが顔を見合わせ、うなずき合っていた。

 ……どうやら、評価はそれぞれ違うようだ。

 みんなにそんなふうに言ってもらえるのは、照れるけど……嬉しくもある。

 だが――その余韻に浸っていられる状況ではない。俺は気持ちを引き締めた。


「……いよいよ、最後の戦いだな」


 魔障嵐に侵されていない安全エリアは、王都の東に広がる草原だけになっていた。

 そして、その最後の聖域に、生き残った三台のチャリオットが集結しつつあった。

 最初に視界に入ったのは、ねーさん達のチャリオットだった。

 あのとき、ウリエルとラファエルの二台のチャリオットを足止めするために、後ろに下がっていった彼女達が――生きていた。

 むしろ、その二台を撃破した可能性すらある。

 そう思わせるほどの堂々たる姿で台座に立っていた。


「ショウ! やっぱり生きてたか!」


 まだ距離はある。けれど、ねーさんの元気な声が、風を越えて届いてくる。


「ねーさん達こそ! 無事でよかった!」

「うちを誰だと思ってるんだよ!」


 そのセリフに自然と笑みがこぼれる。

 そうだ。彼女はサーバー1と称されるタンクだ。そう簡単にやられるはずがなかった。


「ショウ! ルシフェルはどうした?」


 ねーさんの問いかけに、俺は親指を立てて応える。


「俺達が倒した」


 俺の言葉にねーさんがニカッと笑った。この人は本当にいい顔で笑う。


「ショウ、もう一台が見えてきたぞ」


 メイの緊張を帯びた声が耳に届き、俺は気持ちを引き締め、前方に目を向けた。

 ねーさん達ももう一台の敵に気づいたようで、同じように視線を向けている。

 俺達の視線の先、現れたのは――ソルジャー達のチャリオットだった。


「あの大混戦を生き残ったのか……」


 希望も込めて、彼らはあの砂漠の大乱戦で確実に沈んだと思っていた。実際、あのとき彼らは複数のチームに狙われていた。だけど、それでも生き残ったのだ。さすがは三大HNMギルドの一角。

 ねーさん達も同じく三大HNMギルドの一つだ。

 こうしたイベントにおいても、HNMギルドのメンバーが勝ち残ってきた現実を考えると、彼女達の実力や組織力は本物なんだと思い知らされる。

 だけど、残った三チームのうち、もう一つは三大HNMギルドの「片翼の天使」ではない。たった四人だけの小規模ギルド「三つ星食堂」の俺達だ。

 これはきっと誇っていい。

 俺は包丁を握る手に力を込めた。


 ――ここまで来たら、俺達が勝ちたい。


 その想いを胸に、接近してくるソルジャーチームを見据えながら、俺はねーさんに声を張った。


「ねーさん! ここは協力してまずソルジャー達を倒そう! そのあと、俺達とねーさん達で優勝を懸けた一騎打ちだ!」


 俺の申し出に、ねーさんはまた気持ちのいい笑顔でニカッと笑った。

 ……ねーさん。

 俺が彼女との繋がりを感じたとき――


「何言ってるんだよ、そんなのおもしろくないだろ。三つ巴の戦い、燃えるじゃないか!」


 ねーさんはギラリと獲物を狙う目で俺を見つめた。


「えっ!? ちょっ、ねーさん!?」


 ここで手を組めば、確実に二位までに残れる。だが、ねーさんは俺の提案をあっさりと蹴った。その隣では、シアが申し訳なさそうに手を合わせて謝っている。


 シア、君のせいじゃないよ!

 それにしても……ねーさんはやっぱりねーさんだった。

 ちっとも俺の思い通りには動いてくれない。

 でも、もどかしく思いながらも……そんなねーさんがとても眩しくもあった。


「見つけたぞ、最後の敵ども! 二台まとめて俺が葬ってやる!」


 前方からは楽しそうな声を上げてソルジャー達が迫ってくる。

 彼も彼で、俺とねーさん達が潰し合うのを狙う気は皆無だった。

 HNMギルドのギルマスっていうのは、こういう人達じゃないと務まらないのだろうか?

 だとしたら、小心者の俺には永遠に無理かもしれない。

 ……でも、この戦いだけは勝たせてもらう!


「来いよ! 『ヘルアンドヘブン』でもない、『異世界血盟軍』でもない、最高のギルドは『三つ星食堂』だってことを、ここで証明してやる!」


 こうして、魔障嵐が全周囲から迫る戦場で、三つ巴の戦いが始まった。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?