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第六話 なんとかいたします。

 国家指定正規騎士団。


 この国における国軍や捜査機関と並ぶ国家的な危機や犯罪に対して迅速な解決を行う特殊部隊です。


 ディーンはこの国が始まって以来、#史上最年少で騎士の称号を得たなのです。


 確かに騎士団の規定の上では身分に関係なく、国家の危機を守ることが出来る優秀な人材であれば入団することができます。


 しかし。

 一般的な基準を遥かに上回る学力や法的な知識などあまりにも高水準の要求な為に平民どころか貴族家の人間でも、まず騎士には成れない。


 親族に騎士がいて専門の教育を幼少より受けてきた者が何度も試験に挑んでやっと訓練生となり、訓練生からさらに厳しすぎる試験に合格してようやく国家指定正規騎士の資格を得ることになるのです。


 それを平民の出で、当時十四歳の若さで、しかも執事の業務と並行しながら獲得した天才。


 いや、です。


 一切の不正をせず異常で過剰な努力と勤勉さで正当に、公平に、ディーンは騎士となり騎士でありながら私の執事でもあり続けています。


 そして、騎士団は国軍と捜査機関と並ぶ公安組織。


 つまり、有事の際での捜査権や逮捕権を持ち。

 拘束の為に戦闘を行う権限を有しているのです。


「……そんな若造が騎士なわけがあるものか、やれ」


 伯爵は呆れたような口調で、集まった方々をディーンへけしかける。


 ディーンは界隈では有名人なのですが、流石に技術革新推進派貴族にまでは届いていないようです。


 そして暴行傷害の教唆きょうさ……武器を向けて襲いかかった時点で殺人未遂も……、もう騎士のディーンが止まれる理由は一つもありません。


 ディーンは袖から出した組み立て式のこんを、一瞬で組んで構えて。


 目にも留まらぬ速さで、集まった人々の持った武器を叩き落とし無力化をしてから一撃で意識を奪っていく。


 私にはこういった戦闘行為の知識はありませんし、ディーンの動きが速すぎて正直見えてもいません。

 それに目の前で起こる暴力行為が怖くて立っているのがやっとなのですが、私はディーンを誰より信用しています。


 だからしっかり立って、見届けるのです。


 なんて考えている間に。


「確保、完了いたしましたお嬢様」


 あっという間に部屋にいた大勢の人々を無傷で拘束をしたディーンは、執事モードに戻り穏やかに報告する。


 流石といいますか……、私は相対的な比較対象を持たないので正直ディーンにどのくらい力量があるのかはわかりませんでしたが。


 幼少の頃よりディーンは。

 丸一日中腰のポーズで動かない修行や。

 鉄の釜で熱した砂を両の手で突いたり。

 大岩や大木に体当たりをし続けたり。

 ローゼンバーグ公爵夫人付き執事から手解きを受けたり。


 いつも傷だらけで顔をらしていましたが、段々と怪我が減り、綺麗な顔を見せるようになって、ディーンは騎士になりました。


「な、なんなのよあんたたちは……私をどうする気なのよ」


 私がディーンの勇姿に見蕩みとれていると、エリィ女史は怯えた様子で私に問う。


 怖かったですよね。

 犯罪行為に巻き込まれて、取り締まりの現場を目の当たりにしたのですから。異世界だろうとなんだろうとこれは非日常的な出来事なのです。


 確かに不安でしょう……、でも保護を受ければ国内の貴族に王家から周知され今回のようなことがないように抑止力が働きます。


 月に一度程度の面談と、先進的な何かを行う際には国家から予算も下りるようになります。

 特に今までの生活に極力影響の出ないように、というか異世界転生者の方を不用意に刺激しないように立ち回るはずです。


 故に私はエリィ女史を安心させるように、不真面目にならぬよう扇子口元を隠して真摯しんしに答えます。


「貴女には関係ありませんことよ、お気になさらないでください」


 私は尻もちをつくエリィ女史の目をしっかりみながら、そうべると。


「…………お嬢様、感じが悪く見えております」


 ディーンは私の後ろから気まずそうに、そうささやいた。 


 まあその後のことはあまり語るべきこともない……、と思っていたのですが。


 とりあえずランドール伯爵家を始めとした、異世界転生者保護法違反などを犯した貴族たちはディーンの活躍により淘汰とうたされ。


 エリィ・パールの保護も叶いました。

 これで問題は解決したと思われたのですが……。


 百二十年ぶりに現れた異世界転生者の方を、国家はどう扱って良いのか判断しかねるようで。


 現在王家や主要貴族の中で協議が行われており、父であるローグ侯爵はそれらの協議の議長を公平に務めていると聞きました。


 その協議の中で、まずエリィ女史にはこの国の文化や文明水準を過不足なく理解してもらい公平な目線を身につけていただこうという話になったようです。


 それもエリィ女史の生活に影響が出ないような範囲で学園生活の中、理解を深めていただく必要があるとのこと。


 学園内で異世界転生者の方に理解があり、公平な目線を持って特別修学制度生である彼女と接し、国内の文化や文明水準の基準値を知る者を彼女の身近に置きたいということになりました。


 


「エリィさん、貴女にはこれからこの世界における公平な目線を身につけていただきます」


 私は中庭のベンチでサンドイッチをかじるエリィ女史へそうべる。


 確かに公平に見て、私以上の適役はいません。


「な……っ、あんたみたいなに教わることなんて一つもないわよ!」


 そう言って彼女はサンドイッチを口に詰め込んで足早にその場を立ち去ってしまった。


 あ、あ、あ、……?


 この法を遵守じゅんしゅし、秩序と公平さを何より重んじるこの私が……?


 ショックでふらつくと、ディーンが私の肩を抱くように支える。


 現在ディーンは騎士団より異世界転生者関連の担当として私とエリィ女史に立ち会うことになり学園にも付いてきています。


「……お嬢様は公平で素敵ですよ。昔から変わらずに」


 私の耳元で、そうささやいた。


「よしなさい、ここは学園ですよ」


 私はそう言ってディーンを引き離し、真っ赤になった顔を扇子で隠す。


 というかディーンに比べたら私なんて普通のティーンエイジャーです。全然素敵ではありません。


 ディーンとは幼き頃からずっと一緒でした。

 私は彼のことがずっと大好きで、いつもどこかしら触れ合っているような距離で過ごしていました。


 仲の良い姉弟……いや兄妹のようだと微笑ましく見られていましたが、どうにも傍から見ても私が彼を好き過ぎるのがわかったようで。


 母から、私とディーンは身分の違いで彼とは結婚できないことを知らされました。


 私はそれを知って、ずっと泣きました泣き続けました。

 そんな泣きべそをかいていた私に。


。おじょうさま」


 幼き彼はそう言って、騎士になることを決めたのでした。


 騎士団で小隊長以上になり優秀な功績を持つ場合、


 その為、つまり私との婚姻を可能にする為だけの為に国家指定正規騎士団に入団することに決めたのでした。


 毎日毎日、鍛錬と訓練と勉強を繰り返し。


 私が病で倒れた際には……長時間に渡る手術を待つ間ずっと私になにかあった時、後を追えるように病院の前で首にナイフ当てていたり。


 その姿をローゼンバーグ公爵夫人の執事であるキッドマン氏に気に入られて弟子入りし、武術や執事としての心得を学び。


 史上最年少で騎士となりました。


 世にあるルールに則り、一切の不正もなく公平性の中で約束を守る。


 私はそれが、何より美しいと思いました。

 ディーンをより一層好きになりました。


 エリィ女史にそれを押し付けるつもりもありませんが、そういう美しさもあると少しだけ知ってもらいたいだけなのです。

 まあ……、とても難しそうですが……。


 ここからエリィ女史と行動を共にする機会が増え。


 ご先祖さまの記録に残る異世界転生者の方よろしく、私も散々トラブルに巻き込まれいき。

 その都度ディーンがトラブルを解決して功績を増やして。


 少しずつエリィ女史とも打ち解けていくのですが……。


 今の私はまだ、どうにも悪役令嬢だと思われてしまっているのでした。



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