その日の夜もカーラは俺を胸に抱いて寝てくれた。
俺はとても幸せだった。俺は柔らかいカーラの胸に包まれて、このままカーラの暖かい胸の中で寝ていたい……
いやいやいやいや、だめだ!
今日こそはフェルディナントの所に忍び込んで、なんとしてもフェルディナントの本心を知らないと!
一昨日はカーラと一緒に寝てしまったのだ。昨日はカーラの胸の中がとても居心地が良くて、俺はカーラの胸から抜け出せなかったのだ。
でも、明日はフェルディナントが来る予定の日なのだ。
今日はこのまま、寝ていてはいけない。
俺はこのままカーラの胸の中で一緒に眠りたいという誘惑から、首を振って理性を総動員して、なんとかカーラの胸の中から抜け出したのだ。
カーラの寝顔はとても可愛かった。
何としてもカーラを守らないといけない!
俺は改めてそう心に誓ったのだ。
さて、どうやってこの部屋から抜け出ようか?
俺は考えた。
俺がこの前、部屋から抜け出て国王のところに忍び込もうとしたところをサーヤに見つかってから、警備体制が厳しくなったのだ。
カーラ部屋は、中庭に面したところに出入りできる大きなガラス窓の扉があったのだが、立たなくて良いのに、その前に一人歩哨が立つことになったのだ。それ以外には本来の出入り口の扉の所に2人の騎士が歩哨に立っていた。
今までは中庭に面した大きなガラス扉を開けて出入りしていたのが、それが出来なくなった。
とするとどこから出るかだ。
カーラの部屋に隣接しているサーヤの部屋は論外だった。近寄るのも止めた方が良いだろう。
とすると風呂場の窓か? でも、あれは小さくて出るのも隙間が狭くて困難だし、丁度、中庭に歩哨に立っている兵士の目がつくところにあるのだ。出にくい上に出たところを騎士に見つかったらしゃれにもならない。
後はどこがあるんだろう?
俺は眉間にしわを寄せて考えた。
そして、ふと見上げた天井に排気口みたいなのがあるのが目についたのだ。
でも、その場所は高くて俺じゃあ届かない。
どうしようかと思った時だ。天井のすぐ下まである棚が目についた。
そして、丁度その棚の上に切れ目のような物が見えて、少し隙間が開いているのだ。あの板は動かせるんじゃないかと思ったのだ。
今度はそこにどうやってその下まで行くかだ。
棚はカーラの衣装棚で引き出しが一杯ついていた。うまくやれば天井近くまでいけるんじゃないか?
俺は試しに一番下の引き出しを少し動かしてみた。
俺の力でも少し強くしないといけないが動いた。これならいけるかもしれない。
俺は引き出しを階段状にしてみた。
そして、ゆっくりと上に登っていったのだ。一段ずつ確実に。
そして、なんとか一番上までたどりついたのだ。
俺はほっとした。ここまで結構力を使った。子犬にとって引き出しを開けるのは結構重労働だったのだ。
そこで少し休憩をすると、隙間のある天井の下に行った。
今度はこの板を動かさないといけない。
取りあえず、俺は飛び跳ねて天板にぶつかってみた。
でも、びくともしない。
もう一度。
トンと音がして、少しだけ板が動いた。
今度は飛んで前足で捕まってみた。やっと、俺が通り抜けられるだけのスペースが開いた。
下を見るとカーラはすやすやと寝ている。
出たままにしている引き出しがとても目立っていた。
引き出しは戻すのが面倒だから出しっぱなしにしていたのだ。
サーヤが途中でやってきたり、カーラが途中で起きたら気付いて、大騒ぎになるかもしれないが、そんなに時間はかからないはずだ。カーラは寝るのが早いからフェルディナントは、まだ起きているはずだ。
俺は急いで行こうと天井に飛びついたのだ。
そして、なんとか天井裏に潜り込めた。
そこから急いで走り出した。
屋根裏は建物の梁があって部屋ごとにしきられているが、天井裏なので、隙間は一杯開いていた。空気の流れを作る換気の意味もあるんだろう。
フエルディナントの部屋とカーラの部屋は廊下では直接の行き来は出来ない作りになっていたが、天井裏では繋がっているはずだった。
前にいろいろ探るついでにフェルディナントの部屋の大体の位置も頭には入っていた。
俺は大体の位置を目指して駆けた。
途中で足が隙間に落ち込んで入り込んでヒヤッとしたが、そこは侍女の控え室みたいで、今は誰もいなかった。
それからは慎重に走ったのだが、今は子犬になっているので、体重の重さで天井板が、抜ける心配をする必要は無かった。
目標近くまで来て、後は俺は犬の嗅覚を頼りにフェルディナントを探した。
でも、中々部屋は見つからなかった。
いい加減に焦りだした時だ。たばこのきつい匂いが俺の鼻をついた。
誰だ? こんなたばこを吸うやつは?
でも、この国の国王は吸わないから、基本的に役人も吸う人間は少ないのだ。宰相でさえ、国王の前では吸わない。俺はこんなきついたばこを吸う人間を知らなかった。
俺は興味がわいて、その匂いのする部屋に近づくと、かすかなフェルディナントの匂いもしたのだ。
ドンピシャだった。
「殿下。陛下はアレイダ嬢との間の進展はどうなったと気にしておられました」
俺はその言葉を聞いて驚かされたのだった。