その後私は喜々としてお茶会の準備をサーヤ達と始めたのだ。
でも、せっかくマクシム様がお茶会に来て頂けるのだ。私も何か作ってみたかった。
サーヤと料理長に相談した所、クッキーくらいなら私でも作れるのでは無いかと言われたのだ。
私はお茶会のために、サーヤと料理長指導の下に、クッキーを焼いてみた。
焼くのは思ったよりも大変だった。微妙な火加減とかがあり、少し間違うと黒焦げになってしまうのだ。
でも型を切り抜くのは楽しかったし、焼くのは料理長がきちんと指示してくれた。
料理長が指示ししてくれたから見た目はまともに焼けたのだ。
私はほっとした。
クッキーを焼いた後は、中庭に机を出して、サーヤ達が準備してくれた。
マクシム様が何が好きなのかは調べる暇はなかったけれど、このクッキーなら食べてくれると思った。
私の主観だけど……
15時になったので、マクシム様とフェルディナントがやってきた。
私がマクシム様の前に行こうとしたら、その前にフェルディナントが立ち塞がって、
「カーラ様。今日はお招き頂きありがとうございます」
と挨拶してくれた。
「ようこそいらつしゃいました」
私が満面の笑みでマクシム様に微笑みかけようとしたけれど、前にフェルディナントがいてマクシム様はよく見えなかった。
「ああ、本当に楽しみにしていました」
フェルディナントが代わりに返事してくれた。
何もあなたのためにお茶会を開いたのではないわよ!
思わず私は叫びそうになった。
席は私の隣がフェルディナントでその横がマクシム様だ。
それは私が触れたらマクシム様が子犬になるかもしれないから、間にフェルディナントが入るのは判るけれど、あまりにも露骨すぎるのではないだろうか?
私は少し、むっとした。
「カーラ様。此度は私もお茶会の席に呼んで頂きありがとうございます」
マクシム様が私の正面からお礼を言ってくれた。その後、ニコリと私に微笑んでくれたのだ。
私は天にも昇る気持ちだった。
その笑顔でフェルディナントへの不満はどこかに飛んでしまった。
「いえ、私こそ、改めてマクシム様には私をお助け頂いた事を御礼申し上げます」
私はマクシム様にお礼を言ったのだ。
「カーラ様。何度も私とお茶したいと言って頂けて本当に嬉しかったのですが、色々と忙しくしていて時間が取れなくて本当に申し訳なかった」
マクシム様に面と向かって謝られると、それ以上は文句を言えなかった。
「こちらこそ、お忙しい所ご無理言って申し訳ありません。一度マクシム様をお茶会にお呼びして、お礼をしたかったので」
私はそう言うとサーヤに合図した。
サーヤ達侍女が香ばしい香りのするお茶と私の作ったクッキーを皆に給仕してくれた。
「ほお、これはうまいな」
マクシム様がクッキーを一口食べて喜んでくれた。
私はその言葉でここまで苦労した甲斐があったと嬉しくなった。
「そう言って頂けたら嬉しいです」
「このクッキーは姫様が焼かれたのですよ」
横からサーヤが教えてくれた。
「そうか、道理で美味しいはずだ」
「本当ですね。このクッキーは美味しい」
マクシム様の言葉にフェルディナントも頷いてくれた。
「そう言って頂けたら嬉しいですけれど、何か足りないところはございませんか」
「いや、こんなクッキーを食べたのは始めてだ」
「甘すぎずに丁度良い」
二人とも喜んでくれた。料理長の言うように甘さ控えめにして良かった。
私がほつとした時だ。
「おくつろぎの所申し訳ありません」
騎士の一人が断って入ってきた。
「どうしたの?」
「それが獣人王国からマクシム様にお客様がいらつしゃってまして」
躊躇するように騎士が報告した。
「そうなの?」
「今はマクシム様が休憩中でもう少しお待ち頂きたいと申したのですが、お客様はマクシム様の幼なじみだと言い張られまして」
騎士はとても戸惑っていた。
「誰が訪ねてきたんですか?」
困った様子の騎士にマクシムが尋ねていた。
「コーネリア・ポット様と申される令嬢で」
「おお、コーネリアが本当に訪ねてくれたのですか」
喜んでマクシム様が立ち上った。でも、コーネリアってどう考えても女性よね、私は少し不吉な予感がした。でも、ここで拒否する訳にもいかないだろう。
「お通しして」
私は少し不機嫌になったのを悟られないように騎士に合図した。
騎士に連れてこられた令嬢はとても可愛らしい令嬢だった。
「マクシム様!」
なんとそう叫ぶと令嬢はマクシムに駆けよって来たのだ。
そして、フェルディナントが止める間もなく、マクシム様に抱きついていた。
「コルネーリア! 元気だったか」
マクシム様はコルネーリアに注意することも無く、思いっきりその女性を抱きしめていた。
「「「えっ!」」」
その様に私達は驚いて二人を見た。
皆で見守る中で男女で抱き合うのはどうかとも思ったのだが、それ以前にマクシムは女性に触れられたら獣化するはずだった。
私の時は3分もかからずに獣化したのだ。
こんな可愛い娘に抱きつかれたらすぐに獣化するだろうと私達は危惧したのだ。
しかし、幾ら待ってもマクシム様は獣化することは無かったのだ。