お昼休み。
私は一学期同様、お久しぶりのA子さんら取り巻き達と昼食を共にしている。
こうして久々に揃うと、何だか安心するというか、また学園へ通う日常に戻ったのだという実感が生まれてくる。
「それにしても、驚きましたわね。まさか、メアリー様があのフローラと仲を深めていらっしゃったなんて」
「ええ、とても意外でしたわ」
「でもまさか、クロード様やキース様とも仲がよろしいなんて思いませんでしたわ」
「本当ですわ! 一体、どんなマジックを使ったのかしらね」
しかし話題は、今朝の一件について。
みんな私とフローラの関係が気になって仕方ないようだ。
その気持ちは理解できなくもないが、久々に再会した子もいるというのにずっと会話がこれというのも……。
もっと夏休みに行った場所とか、美味しかった食事や色恋話とか、そういう思い出話をみんなで共有したいところだけれど、生憎話題は私とフローラのことでずっと持ちきり状態なのである。
「まぁ、色々ありまして」
「色々と申しますと?」
とりあえず、話題を変えようと思い適当に言葉を濁すも、何故か全員が私の言葉に食いついてくる。
そりゃ、夏休みの思い出話よりも優先度の高い話題なのだ。
きっとみんな、私たちの間に何があったのかについて根掘り葉掘り聞きたいのだろう。
だってこの子達はみんな、元々フローラに対して良く思っていなかった子達なのだ。
それこそ、私と一緒にあの時取り囲んだ程度には……。
だから場合によっては、彼女達の私に対する印象にも関わる話題なのかもしれない。
全員ふんわりと笑みを浮かべてはいるけれど、その裏にある感情は違うかもしれないと思うと、少し怖気づいてしまう自分がいた。
もうフローラとのことは隠すつもりもないけれど、かといって彼女達と疎遠になりたいわけでもないから――。
「別にどうということはないわ。わたくしがクロード様と街を歩いている時、偶然会ったのよ」
だからここは、素直に事実だけを答える。
クロード様に街を連れられた結果、偶然フローラと出くわしたというのは紛れもない事実。
まぁそれ以前からフローラと密会をしていたわけだけれど、今は余計なことは言わないに限る。
「えぇ!? そうだったのですか!?」
しかしみんなは、何故か驚きの声をあげる。
ただ街で会ったという話をしただけなのに、何をそんなに驚くことがあるのだろうか……?
彼女達の反応に全く理解が追い付かず、私も内心困惑するしかなかった。
「それで、どこへ行かれたのですかっ!?」
「どこって……普通にパン屋さんよ?」
「パン屋さん!!」
行先がパン屋だと聴いただけで、何故か大盛り上がりとなる取り巻き達。
キャーキャーと何を嬉しそうにしているのか、やっぱり理解が追い付かない。
もしかして、今若者の間でパン屋ブームが起きていたりするの?
確かにあそこのパン屋さんは、本当にどれも味がピカイチだったけれど……。
「それだけですか!?」
「え? ええ、そうね」
あの日、フローラとはパン屋さんでご一緒しただけ。
クロード様とはもっと色々回ったけれど、今その話は関係ない。
……いや、待てよ?
もしかして彼女達はもう、私とフローラの馴れ初めの話はどうでもよくなっているのではないだろうか?
そのうえで、私がクロード様と過ごしていた話題に興味が移っているのだと考えると、彼女達の反応にも合点がいく。
つまり彼女達の興味はもう、完全に恋バナへとシフトしているのだ。
――勘違いはあったけれど、余計なことは言わなくてよかった。
他にも一緒にカフェへ行った話などすれば、きっと余計に噂になってしまうから。
私は別に構わないけれど、クロード様にご迷惑をおかけするわけにはいかない。
だから不要なことは、やっぱり極力話さないに限るのだ。
「王子様とお忍びデート……憧れてしまいますわぁ」
「ロマンよねぇ」
「あーあ、私も一度でいいからエスコートされてみたいものですぅ」
こうして話題は、それぞれの理想の恋バナへと移っていき、フローラの話題はすっかりどこかへと消え去ってしまっているのであった。
クロード様と私は、みんなの知るように婚約関係にある。
もしこのまま学園を卒業することになれば、私はクロード様とそのまま結ばれるのだろうか……?
今更になって、そんな先の見えない将来のことを考えている自分がいるのであった。