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7-7: A Fleeting Moment (束の間の時間)

横須賀のダイナーでのひと悶着の後、俺たちはゲーセンへと移動することになった。

明るいネオンに照らされた建物の中は、朝だというのに妙に賑わっている。

天変地異でどこもかしこも荒れ果てていて、屋内にしか娯楽はないのだ。

「賢くん、これやろうよ~!」

翠が俺の腕を引っ張り、バーチャルシューティングゲームを指さす。

その後ろで雷がふんっと鼻を鳴らした。

「なに~?雷ちゃんもやりたいの~?」

「べっつに!というか、私が参戦したら、1位が既に決まっちゃうようなものだから、つまらないでしょ?」

「言うね~♪でも、 勝つのはこの私だし~! 雷ちゃんなんて足元にも及ばないよ!」

「言ったわね。どきなさい。灰島賢。こいつを後悔させてやるんだから」

二人は早速筐体に向かい、火花を散らし始めた。

俺はその様子を眺めつつ、複雑な気持ちでゲームセンターの喧騒を耳にしていた。

雷や翠は、この日常をいつまで楽しめるのだろうか――そんな考えが頭をよぎる。

ピーターパンになれば、彼女たちは現実の世界から切り離される。

そうなれば、こうして一緒に遊ぶことも叶わなくなる。

「賢くん、どうしたんですか? 考え込んでる顔して」

美雪がこちらに近づいてくる。

その後ろでは、天草、水上ペアと、黒磯が2対1でエアホッケーで遊んでいた。

「いや、なんでもない」

俺は首を振り、目の前の二人を見た。

「やった~!私の勝ち~♪」

「あんた、このゲームやり込んでたでしょ!」

「へ~?聞こえな~い」

「こっちが初プレイだからって初見殺しばっかやってきて!不正よ不正!もう一回勝負なさい!」

翠も雷も、楽しそうに見えるが、その裏に隠された思いを知ることはできない。

夕方、俺たちは日本支部の寮に戻った。

談話室には柔らかいクッションが並べられており、どことなくくつろげる空間だ。

天草が先にソファに腰掛け、お茶を淹れていた。

俺たちが入ると、彼女はにこやかに手を振る。

「賢先輩もお茶飲みますか?」

「ありがとう。もらえるか?」

俺が答えると、遠野美雪と水上凪がソファに並んで座り、翠と雷は離れて座った。

「さて、次はどうするの? 緋野翠。10勝10敗10引き分け。もう外には行けないわよ」

雷が言いながら足を組み替え、クッションに寄りかかる。

その時、翠がニヤリと笑いながらクッションを手に取った。

「そうだね~。じゃあ、こうするのは?」

そう言うが早いか、翠が雷にクッションを投げつけた。

「何するのよ!」

雷がクッションを投げ返し、たちまち談話室はちょっとした戦場と化した。

そこへ、シャワーを浴び終えた黒磯風磨がタオルを肩にかけて談話室に入ってきた。

「おい、なんだこの騒ぎは……って、うわっ!」

黒磯の言葉が終わる前に、飛んできたクッションが彼の顔面に直撃した。

「黒磯、ナイスキャッチ!」

俺が思わず笑いながら声を上げると、部屋中から笑い声が広がった。

しかし、黒磯は黙ってクッションを拾い上げると、勢いよく投げ返してきた。

「このやろう……!」

翠がさっと避けると、そのクッションは天草結衣に向かって飛んでいく。

彼女は慌てて手を上げ、バリアを張ろうとした――

が、ここは現実世界。間に合わず、顔に直撃する。

「きゃっ!」

結衣が小さな悲鳴を上げると、再び部屋中に笑い声が響いた。

「わりぃ、大丈夫か?」

黒磯が少し心配そうに声をかけるが、結衣は顔を赤らめながら頷いた。

「だ、大丈夫……です。」

その様子にまた笑いが起こり、談話室はほのぼのとした空気に包まれた。

だが、そんな平和なひとときは長くは続かなかった。

突然、端末から甲高い警報音が響き渡る。

「なんだ?」

俺たちは一斉に端末に目を向けた。

画面には赤い文字で『緊急招集』と表示されている。

警報音は鳴り続けていた。

それはまるで、楽しい時間の余韻をかき消すように、鋭く、長い音だった。

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