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7-8: ANAT Assault (ANAT襲撃)

警報音が耳をつんざくように鳴り響き、談話室の空気は一瞬にして緊張感に包まれた。

「これは……緊急クエスト…」

黒磯が端末を見つめ、震える声で呟いた。

俺は端末に目を落とし、そのクエスト名を確認する。

「クエスト名……『ANAT日本支部襲撃』……」

その言葉に全員が硬直した。

どんな状況なのかを頭で整理しようとするが、心臓が急に早鐘を打ち始め、思考が定まらない。

雷が舌打ちをしながら立ち上がる。

「とにかく行くわよ」

俺たちは騒然とした雰囲気の中、司令部へ向かうための専用列車に乗り込んだ。

列車は地下を走るため、窓の外には漆黒の闇しか見えない。揺れる車内で、重い沈黙が続く。

「ANATが襲撃されているだと?」

黒磯が険しい顔で呟く。「なんで日本支部なんだ……」

俺はその横顔をちらりとだけ見て、端末の詳細情報を確認した。

「なんでって、そんなの決まってるでしょ」と雷。

「矢神臣永――彼のアカウントが狙われているのよ」

「矢神さんが……」

天草が顔を青ざめながら呟いた。

雷は端末を握りしめ、低い声で続ける。

「矢神臣永は神逐かんやらいでアカウントが停止された。でも、まだ死んだわけじゃない。SENETで停止されたアカウントは、生命維持装置によって現実の体が保たれているから」

雷の言葉に、みなが生唾を飲む。

「でも、ゲームからログアウトせずアクセスを切ることもできない。つまり、その生命装置を破壊されれば、アカウント保持者は適切な処置が受けられず、いずれ死亡する」

「てことは、それ、矢神さんだけじゃない……」

水上が恐る恐る言った。

「ええ、SENETに囚われたままの人たち全員を殺すつもりだわ」

その言葉が響く中、車内に張り詰めた緊張感がさらに高まる。

「ふざけるな……!」

黒磯が拳を固めて叫ぶ。


列車が停車し、俺たちはアクセスルームへと駆け込んだ。

そこで出迎えたのは、慌ただしく動き回る職員たち。

端末や機材が並ぶ光景が、緊迫した空気をさらに強めている。

その時、スピーカーから龍崎司令の冷静な声が響いた。

「全プレイヤーへ通達。即時、アクセス準備に入れ。本クエストではゲートの防衛を最優先とする。繰り返す――ゲートの防衛を最優先とする!」

俺たちは顔を見合わせ、緊張を飲み込んだ。

「めずしいね~、防衛クエストだ~」

翠の口調はいつもどおり軽いが、その目は真剣だ。

「……行くぞ」

俺は立ち上がり、決意を込めて言った。

雷が薄く笑いながら言う。

「当然。返り討ちにしてやるわ」

「うん!絶対に守ろうね~!」

翠が頷き、頬をぺちっと叩き、気合いを入れる。

俺たちはそれぞれのクレイドルに向かった。

VRゴーグルを装着し、クレイドルに体を横たえる。

接続が開始されると、体が徐々に重力から解放されるような感覚に包まれた。

『|Login sequence starts《ログインシーケンス開始》』

英語の音声が響き、俺は深く息を吸い込む。

(矢神さん、他のプレイヤー、葉奈……みんなは、俺たちが守る!)

全身を鮮やかな光が包み込む。

次の瞬間、強烈な引力に引き込まれるような感覚――そして視界が一気に開ける。


目を開けると、そこは荒野にそびえ立つ古城だった。

6つの門を備えた巨大な城壁が広がり、その中央には鋭利な刃物のようにそびえ立つ塔。

 塔の頂上には、王の間があり、そこにゲートが設置されている。

「俺は……4の門の防衛か」

手首のアクセスパネルを確認し、指定された門へ向かう。 砂混じりの風が頬を打つ中、階段を駆け上がると、城壁の上には既に多くのプレイヤーたちが配置についていた。 門ごとに部隊が編成され、緊張感が漂っている。

「総員へ通達!」

鋭い声が上空から響いた。 振り返ると、塔の上に誰かが立っている。 彼女だ――白波梓だ。

梓は、砂埃で霞んだ太陽を背に俺たちを見下ろし、毅然とした態度で口を開いた。

「司令部の推測によると、敵の目的は二つ。一つは、矢神臣永のアカウントの完全消滅。そしてもう一つ――SENETに囚われた全ての人間を殺すこと」

その言葉が空気を鋭く切り裂く。 プレイヤーたちは無言で武器を握りしめ、表情が一層引き締まる。

「だけど、私たちには守るべきものがある。このゲートを破られるわけにはいかない。私たちが最前線でそれを防がなくちゃならない!」

彼女の声には迷いがなかった。 だが俺は、その言葉の裏に何か違和感を感じ取っていた。


――本当に信じていいのか……?


心の中に、ふと疑念がよぎる。


 ――敵を招き入れたのは、梓、おまえなんじゃないのか?


自分でもそんな思いを抱くことに嫌気がさしたが、完全には否定しきれない。

「任せてよ!絶対にやらせないから!」

その時、力強い声が場の緊張を破った。 

塔の横手から火が上がり、その炎の中から雷が姿を現す。 

槍を肩に担ぎ、不敵な笑みを浮かべている。

雷の視線は白波梓に向けられていた。

その目には挑発の色があり、言葉にはしないものの、彼女もまた白波を疑っているようだ。

「……信用してるんだからね。足引っ張らないでよ?」

雷がわざと軽い調子で言う。

「もちろん」 白波は淡々と返すだけだったが、視線がわずかに鋭くなる。

二人の間に短い沈黙が流れる。

だが、その緊張はすぐに白波が断ち切った。

彼女は静かに手を挙げ、高らかに宣言する。

その声が荒野に響き渡った。

「これより、ANAT日本支部防衛クエストをはじめる!」

号令と共に、俺たちは一斉に武器を構えた。

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