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12-6: Crack of the Mask(仮面の裂け目)

「……やるしかねえ!」

俺は拳を鳴らしながら、目の前の持国を睨んだ。

ヤツは、まるで“人間”じゃなかった。

感情の波が一切ない。瞬きすら極端に少ない。

立っているだけなのに、圧がすごい。

呼吸の音も気配もない。あるのは、ただただ不気味な沈黙だけ。

「威勢だけじゃ勝てないよ」

低く、無機質な声。

その瞬間だった。

地面が――鳴った。

「っ……!」

足元に、淡く輝く六角形の陣が浮かび上がる。

視界が歪む。重力の軸がずれるような感覚。

立っているだけなのに、世界が傾いていく。

「……やってくれんじゃねぇか!」

とっさに跳び退き、崩れた岩を踏み台にして空中で体勢を立て直す。

着地と同時に拳を構えた。

「これは……“位置”をズラす術か……?」

「惜しいね」

持国の瞳がわずかに揺れた。

「正確には、“お前の反応を、数フレームずらす”能力だよ」

「……は?」

「君が“当たった”と思った瞬間には、もうそこにはいない。

 あらかじめ“予測した場所”に逃げる。

 あくまで、君の反応だけをズラしてね」

「めんどくせぇ言い方すんな!!」

言ってる意味はわかった。

……それがまたムカつく。

攻撃を当てる直前に“タイミングだけ”歪ませて、スカさせる。

つまり、理屈じゃどうにもならない“感覚”の世界。

「はっ! 上等だよ!」

バーニングナックルを起動。

両腕から噴き出す蒼い火花。拳が、赤熱する。

オーバーヒート寸前の出力で、全開だ。

「熱拳・フルバースト!」

踏み込んで、右拳を叩き込む――!

だが、

「ッ……すり抜けやがった!?」

確かに見えてた。間合いも完璧だった。

でも、すり抜けた。いや、“外した”感覚にさせられた。

「どこ狙ってんの?」

涼しい顔で、持国が背後に立っていた。

「“手を伸ばしても、届かない”ことの絶望を、ゆっくり教えてあげるよ」

「わりぃけど……教えられるのは苦手なんだよ!」

視線を外さず、俺はまた拳を構える。

悔しいが、今のままじゃ勝てない。

スピードもパワーも通じないんじゃ、どうすりゃいい……?

――考えるな。感じろ。

考える前に、動け。

俺は腰を落とし、低く突っ込む。

持国が応じるように動く。今度は奴が滑るように突進してきた。

「っぐ……!」

左肘が脇腹に突き刺さる。肺から空気が抜けた。

そのまま視界が横にブレる。回転蹴り――ッ!

「が……っあああ!」

地面に叩きつけられる。砂と血が混じった味が口に広がる。

肋骨、イってるかもしれねえ……

「……クソ……!」

それでも、這いながら立ち上がる。

拳に力を込める。

「負けてたまるか……!」

拳にエネルギーを集中。火花が走る。

再起動だ。

一か八か、全出力。

「バーニングナックル・チャージモード――オーバードライブッ!!」

両拳が、真紅の炎に包まれる。

まるで溶鉱炉を両腕に抱えてるみたいだ。

「ぶっ飛べええええっ!!」

踏み込んで、狙うは胸元。最大出力の右ストレート。

拳が、奴の肩に――食い込んだ!

「よしっ……!」

手応えがあった。今度は“ズレ”を越えた。

だが。

「やるじゃん。でもね――」

音もなく、俺の背後に立つ持国。

もう一人いる、みたいな感覚。いや、違う。

「おまえの認識、いま1フレーム遅れてたよ?」

「なっ――」

ドガッ!!

背中から、何か硬いもので叩かれた。

意識が飛びかける。地面を転がる。

視界がブレて、何も見えない。

「がっ……は……!」

口の中に、血の味。腕が、動かない。

燃焼限界を超えて、バーニングナックルが暴走してる。

「残念だったね」

足音が近づく。

笑っている。口元だけで。

その余裕が、憎い。

「“頑張ってる感”は伝わってきたよ?」

「……っ……」

力を込めようとするけど、もう腕は上がらない。

拳は、ただの鉄の塊にしか感じられなかった。

「こんなとこで……終わるのかよ……」

まだ、やることがある。

あいつらが……戦ってる。

なのに、俺は――ここで――。


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