いける。
まだ限界は遠くにある。
まだ、いける。
私は魔法研究をしている。
どのように魔法を構築すればいいか、
魔法の流れとその紋、
魔法陣に流れることでの魔力の増幅や、魔法発動の違い、
ありとあらゆる魔法の研究をしている。
私の身体には力がない。
だから、魔法を研究するしか私が強くなる道はない。
誰かを守れるほど強くなるためには、
私は魔法で己の限界を突破するしかない。
私は魔力を高めることをいくつも試した。
時折魔力が暴走して、
回復までに寝込むこともあった。
回復しきらないまま次の魔力増幅実験をして、
満身創痍になったこともあった。
魔法の研究をいくらしても、
発動させるものの魔力の値が低ければ、
魔法の威力も強いものにはならない。
魔力を限界まで高めておかなければならない。
さらに、その限界を越えていかないといけない。
魔法は、力のないものが持つものと思われている。
そうかもしれない。
私は力のないものかもしれない。
私は守れなかったのだ。
私は剣士と怪物討伐に出たことがある。
剣士は、腕に自信があるらしく、
私を守ると言ってくれた。
サポートしてくれと言ってくれた。
私は、できるだけサポートすると約束した。
しかし、怪物は予想以上に手ごわかった。
私は剣士のサポートを限界までした。
剣士は大怪我を負ってなお、
私に逃げろと言った。
私は泣きながらそれを拒んだ。
剣士は私をかばって、腕を片方無くした。
私たちは生きて戻れたけれど、
剣士の腕は失われたままだ。
剣士の腕は剣を振るうためのもの。
命をなくしたことにも等しい。
私は剣士を守れなかった。
すべては私の力がなかったせいだ。
私は魔法の研究に没頭し、
私の限界を突破しようとする。
もっと強くもっと強く。
私の限界はまだ遠い。
限界の、さらに上まで。
今度こそ守れるくらい。
魔法研究に没頭している私のもとに来客。
朦朧とした意識で出迎えると、
あの時と変わらぬ剣士がいた。
失われた腕には、篭手のようなものがついている。
剣士は、最近私が無理をしていると聞いたらしい。
ちゃんと食べて寝ているかと聞いてきた。
私は、そんな暇はないと答えた。
剣士はしっかり食ってちゃんと寝ろと強めに言った。
私は不満そうな顔をしたに違いない。
そんなことをしては私の限界を越えられない。
剣士は苦笑いしながら、
失われた腕についた篭手を指した。
これは魔力で動く義手らしい。
剣士は魔力がほとんどないので、
最低限の魔力で動かせるコツを教えて欲しいという。
上手く動くようになったら、また、剣を振るえる。
以前くらい剣の腕前が戻ってきたら、
また、一緒に怪物討伐に行こう。
この義手を動かせるようになることで、
剣士は剣士という限界を突破できるという。
その限界を突破するには、
魔法の研究をしている私の力が必要だということだ。
私は笑った。
限界を突破するのは、一人の力でとは限らない。
使える力をたくさん使って、
己の限界を突破するのもありなんだ。
私が強くなる道は、限界を突破する道は、
もっといろいろな道があるのかもしれない。
急に視界が開けたような気がした。
剣士は私の顔をしげしげと見ると、
やっぱり疲れた顔してるから、
とりあえず寝ろと促された。
私はその提案を受け入れて、
久しぶりに何の憂いも不安も焦りもなく、
穏やかに眠ることができた。
夢の中で、私と剣士は怪物と戦っていた。
ああ、あの時より私たちは強くなっている。
これは夢かもしれない。
でも、近い将来現実になるかもしれない。
私たちの限界はまだ遠いところにある。
まだまだ私たちは強くなれる。
今現在の限界を突破して、
さらに上の限界も突破できるような気がする。
まだ、いける。
私たちならばまだ上へといける。
穏やかな眠りの中で、私は確かに未来への希望を見ていた。
限界突破まで、ともに行こう。