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第190話 限界を突破せよ

いける。

まだ限界は遠くにある。

まだ、いける。


私は魔法研究をしている。

どのように魔法を構築すればいいか、

魔法の流れとその紋、

魔法陣に流れることでの魔力の増幅や、魔法発動の違い、

ありとあらゆる魔法の研究をしている。

私の身体には力がない。

だから、魔法を研究するしか私が強くなる道はない。

誰かを守れるほど強くなるためには、

私は魔法で己の限界を突破するしかない。


私は魔力を高めることをいくつも試した。

時折魔力が暴走して、

回復までに寝込むこともあった。

回復しきらないまま次の魔力増幅実験をして、

満身創痍になったこともあった。

魔法の研究をいくらしても、

発動させるものの魔力の値が低ければ、

魔法の威力も強いものにはならない。

魔力を限界まで高めておかなければならない。

さらに、その限界を越えていかないといけない。


魔法は、力のないものが持つものと思われている。

そうかもしれない。

私は力のないものかもしれない。

私は守れなかったのだ。


私は剣士と怪物討伐に出たことがある。

剣士は、腕に自信があるらしく、

私を守ると言ってくれた。

サポートしてくれと言ってくれた。

私は、できるだけサポートすると約束した。

しかし、怪物は予想以上に手ごわかった。

私は剣士のサポートを限界までした。

剣士は大怪我を負ってなお、

私に逃げろと言った。

私は泣きながらそれを拒んだ。

剣士は私をかばって、腕を片方無くした。

私たちは生きて戻れたけれど、

剣士の腕は失われたままだ。


剣士の腕は剣を振るうためのもの。

命をなくしたことにも等しい。

私は剣士を守れなかった。

すべては私の力がなかったせいだ。

私は魔法の研究に没頭し、

私の限界を突破しようとする。

もっと強くもっと強く。

私の限界はまだ遠い。

限界の、さらに上まで。

今度こそ守れるくらい。


魔法研究に没頭している私のもとに来客。

朦朧とした意識で出迎えると、

あの時と変わらぬ剣士がいた。

失われた腕には、篭手のようなものがついている。

剣士は、最近私が無理をしていると聞いたらしい。

ちゃんと食べて寝ているかと聞いてきた。

私は、そんな暇はないと答えた。

剣士はしっかり食ってちゃんと寝ろと強めに言った。

私は不満そうな顔をしたに違いない。

そんなことをしては私の限界を越えられない。

剣士は苦笑いしながら、

失われた腕についた篭手を指した。

これは魔力で動く義手らしい。

剣士は魔力がほとんどないので、

最低限の魔力で動かせるコツを教えて欲しいという。

上手く動くようになったら、また、剣を振るえる。

以前くらい剣の腕前が戻ってきたら、

また、一緒に怪物討伐に行こう。

この義手を動かせるようになることで、

剣士は剣士という限界を突破できるという。

その限界を突破するには、

魔法の研究をしている私の力が必要だということだ。

私は笑った。

限界を突破するのは、一人の力でとは限らない。

使える力をたくさん使って、

己の限界を突破するのもありなんだ。

私が強くなる道は、限界を突破する道は、

もっといろいろな道があるのかもしれない。

急に視界が開けたような気がした。

剣士は私の顔をしげしげと見ると、

やっぱり疲れた顔してるから、

とりあえず寝ろと促された。

私はその提案を受け入れて、

久しぶりに何の憂いも不安も焦りもなく、

穏やかに眠ることができた。


夢の中で、私と剣士は怪物と戦っていた。

ああ、あの時より私たちは強くなっている。

これは夢かもしれない。

でも、近い将来現実になるかもしれない。

私たちの限界はまだ遠いところにある。

まだまだ私たちは強くなれる。

今現在の限界を突破して、

さらに上の限界も突破できるような気がする。


まだ、いける。

私たちならばまだ上へといける。

穏やかな眠りの中で、私は確かに未来への希望を見ていた。


限界突破まで、ともに行こう。

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