目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第195話 宝石の本当の価値は

お目が高いと何度も言ってきたけれど、

本当に宝石の価値をわかっている人は、

なかなかいないものだなと思う。


さて、私はとある宝石商。

宝石をカットして形にしたところまでのものを売り歩いている。

この宝石に装飾をつけることにより、

さらに価値が増すというものだ。

大きな宝石などは、

貴族や王族と呼ばれるものであったり、

あるいは大富豪と呼ばれるものであったり、

そんなものたちが地位を示すようなものに仕立て上げられる。

いわゆる、権威の装飾品であり、

それにふさわしい宝石が必要というわけだ。

大きな宝石は価値があり、

さらに、美しくカットされたものには価値があり、

濁りのないものに価値がある。

また、特定の光をあてると不思議な色に輝くものも価値がある。

宝石はそれだけで希少性が高く価値があるけれど、

私は特に価値のある宝石を取り扱っている。

私の宝石を見せると、

皆口々に素晴らしいという。

お目が高いと私は言う。

皆、大きさや輝きなどを褒めたたえる。

そのうえで、宝石に価値をつけて買い求めていく。

私の宝石の本当の価値がわかっていないなと私は思う。


私の持ち込む宝石は、

別の世界とつながっているものだ。

大きな宝石の中に世界があり、

その世界を意のままにできる力を持つことができる。

ある意味、神になれるものなのだ。

この世界の王族や貴族や大富豪などで満足しているものには、

この宝石の本当の価値がわからない。

この世界を意のままにしていると思っているようだけど、

この世界すら、誰かの宝石の中の世界であることに気が付いていない。

世界は無数の宝石の数ほどある。

宝石の中には世界がある。

選ばれたものだけが、宝石の中へと行ける。

宝石に選ばれたものは、

尽きることのない幸福を感じることができる。

全てが満たされ、何不自由なく、心地よく、

全ての望みがかなえられる、

そんな、完全な世界が約束される。

宝石の価値はそこにある。

輝いているだけの宝石だと思うのならば、

本当に輝かしい幸福が見えていない。

宝石の中の世界に選ばれていないのだ。


私は時々、この世界の適当なところに宝石を転がす。

宝石商としての取引の場で、

高額で取引されていないので、

落ちている宝石は、

おそらくはガラスと勘違いされることと思う。

私はそれを狙っている。

この世界を動かしていると信じ込んでいるものではなくて、

私の宝石の本当の価値を見出すものが、

宝石に選ばれることを願っている。

この世界も狭くはないから、

それこそ確率は低いかもしれない。

宝石は価値を知るもののもとに行くべきだと私は思っている。

この世界では、勘違いしたものにしか宝石が行かない。

ならば私は宝石と出会わせるために宝石を転がす。

運命というものがあるとするならば、

宝石に選ばれたものが宝石を拾うかもしれない。


私も縁があって宝石商をしている。

宝石の中の世界を渡り歩いて、

いろいろな世界の宝石を転がしている。

宝石の価値を知るものはやはり少ないけれど、

本当の宝石の価値を知り、宝石と結ばれたものは、

その世界で幸せになる。

私は完全に宝石の価値を知れたわけではない。

宝石それぞれに違う世界や価値があり、

それらすべてを縁で結ぶことはできない。

だから宝石は面白い。

私は無駄に長い命を持て余して、

宝石と誰かを結ぶことをしている。

それが私と言う宝石商の仕事であり、私の楽しみだ。

私の命は、宝石が完全に劣化して壊れるくらいの長さがある。

いろいろな世界の種族を見てきたけれど、

このくらい長く生きる種族はあまりいない。

私は長い命を楽しく過ごすべく、

宝石の世界を渡り歩いて、

宝石と誰かを結ぼうとしている。


長く生きているといろいろなことがある。

宝石と結ばれたものもいた。

真の幸せを手にしたものもいた。

その場に出会えると嬉しいものだ。

次はいつそんな幸せに出会えるだろうか。

宝石の価値をわかってくれる存在を求めて、

私はのんびりと宝石商を続ける。

まぁ、時間はいくらでもあるんだ。

巡り巡って誰かに行きつくこともあるだろう。

宝石は、転がっていくものだからね。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?