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135 最終決戦の陸


 ところでなんかあれじゃな。この場所と戦の規模が源平による壇之浦の決戦みたいになってきたな。

 わしも血が騒ぐ。騒ぐけど……


「三成様……? なんか興奮してません? ダメっスよ? そんな両腕で戦場に行っても足手まといに……」


 ちっ、豊久殿に気付かれてしまったわ。しかも叔父である鬼ジジイと似たようなこと言ってきやがった。


「それにこの戦いは今現在、三成様の統率なしではどうにもならなくなってきたっス。いろんな勢力が参加して、味方の戦力配備の調整が複雑すぎっス……叔父殿がいればこの流れで出雲への誘導作戦に移行できるかもっスけど……。

 とりま敵も回復したっすから気持ち入れ替えて、また消耗させる戦いに戻らないと」


 うむ、確かに。それならば仕方あるまい。

 というか確かにそうじゃな。

 すでに各所にて激しい戦いは始まっておるけど、ここは1から戦いを始めるぐらいの気持ちで敵武威の消耗戦を行い、その間に何か手立てを考えるのがいいのかもしれん。

 豊久殿、意外と前向きというか、わしにそういう切り替えを促すあたりもなかなかに心強いな。



 と、隣に座る男の横顔をチラ見しつつ、んでもってその姿に頼もしさを感じつつ、わしはさらに別のモニターへと視線を移す。

 こちらは上杉・武田勢が趙雲と無難な戦いを始めておった。

 上杉景勝殿と武田勝頼殿がおるその戦場。そしてその2人に追従する上杉・武田勢の中でも屈指の使い手たち。

 そういった熟練の上杉・武田兵と若い趙雲との戦い、といった感じか。



 ところで実のところ、勝頼殿も結構な武将だったのじゃ。かつての時代に一気に勢力を強めた織田勢を相手にし、その勢いを止めるどころか抵抗むなしく滅ぼされてしまったけど、その直前までは父親である信玄公より最大勢力範囲を広げたりしておる。

 父親が偉大過ぎるし、上杉との数度にわたる戦いは歴史上なかなかに有名な戦ゆえ勝頼殿は過小評価されがちだけど、時代が時代なら親子2代で関東甲信地方に一大勢力を築いたであろう。そんな武将なんじゃ。


 んで、もちろんこの局面においても勝頼殿は非常に頼りになる戦力じゃ。

 こっちもこっちで上杉勢と武田勢が趙雲を挟む感じで配置し、それぞれの連携がそれぞれを邪魔しないようにしておる。

 一緒に戦ったことがない2つのグループがいきなり本番で十分な連携をしようなどという無茶は最初から諦め――そしてわしらが……いや、あかねっち殿率いる各勢力が戦闘開始当初から集めていた敵の情報をしっかり理解し、その情報を最大限に活用する形でじっくりと趙雲を消耗させておる。


 こっちは……もう何も言うまい。

 そもそも無自覚に法威を会得しておったと思われるこの2勢力はそれも十分に駆使し、これからもこのように静かな戦いを続けるじゃろう。

 こちらの主力が回復して目覚めるまでの時間を稼ぎつつ、かつ趙雲の武威を削るのには十分じゃ。



 んでそんな3つの戦場をモニターや武威センサーにて観察すること1時間ほど。太陽が西に沈み、自衛隊のヘリコプターによる強力なサーチライトを遠方から当てての夜間戦闘へと入った。


「なんか……各戦場が問題なく戦って……むしろこっちは暇っスね」

「うむ、そうじゃな。でもそれもよき事。今はじっくり見守るのがわしらの責務じゃ」

「そうっスね。小さな異変は見逃さないように……逆にそろそろ敵味方のどちらかに変化が起こりそうな……。

 経過時間が長くなればなるほど、それも大きな異変になりかねない。むしろこっからが要注意っスね」

「あぁ、確かに……しっかり集中しようぞ」


 あと、わしの隣に座っておる豊久殿。

 ちょいちょいわしに話しかけてきて、その口調は相変わらず軽いノリだけど、そこから放たれる言は冷静で、かつ現状をしっかりと捉えておる。

 そしてそれをあえて口にすることで、わしとの意思の疎通? 共有? そういったものも試みるのも忘れない。


 やっぱりこの男も島津の鬼ジジイの背中を見て育っただけあるな。

 法威を覚え、戦闘能力としてもトップクラスになれば、それこそこの国屈指の有能な武将になりえる若者じゃ。



 そんなことも思いつつ、わしは両腕をプラプラと。

 頼光殿から最近教わった法威による簡易治療。でも内臓の類とは違い、比較的構成が単純な両腕の筋肉や肩の骨の細胞はその回復力が早いようじゃ。

 いや、わし医者じゃないし、そこらへんはよくわからんけどさ。

 でも車酔いから回復する時ほどの集中力も必要ないし、戦場に意識を向けながら傷のあたりに武威を駆け巡らせるだけで回復の実感が得られる。

 しかも時間も十分にかけておるから、その回復は順調。


 なにはともあれわしが福岡の空港から離脱してすでに5時間ほど経っており、傷の痛みも引き、可動範囲は徐々に広くなってきた。

 それを確認するためわしは両腕を上げたり肩をぐるぐる回してみたけど、8割程度は回復した感じじゃな。



 そしてそんなわしが思うのはやはり戦線加入。

 主に関羽を攻めている康高たちの援護に行きたいんだけど――それは果たして今のこの状況に必要か? 大きな流れでこの戦いを見たときに、今わしという戦力は戦場へと行くべきか? という疑問。

 そしてまたの場合、この感情は康高たちの戦いに混ざりたいというわしの私情ではないのか? という自問自答をここ数十分、心の中で繰り返しておる。


 でもそれを口にしたらまた豊久殿から怒られそうなので、わしは静かにモニターを見つめる。

 武威センサーにも再度意識を集中させ、戦場に異変がないことを確認した。


 だけどこの時たまたま武威センサーに意識を再集中させたことで、他の戦艦にちょっとした異変が生じておることに気づく。


「ん?」

「どうしたっスか?」

「いや、大したことではない。というかいいことじゃ。他の戦艦で武威が動き始めておる」



 この頃になると一度戦線離脱しておった者たちが続々と復活をし始めておったのじゃ。

 島津や毛利、そして長宗我部の兵がおよそ30。

 これはおそらくわしと吉継がここに到着する前に、すでに戦線から離脱しておった者たちじゃな。

 もちろん武威の回復は十分ではない。でも身体的な――そして精神的な回復をした者から起き上がり、艦内をうろつき始めておる。


「おっ、それはおそらく自分みたいな早期離脱組っスね」

「じゃろうな。でも、うーむ。さてさて……どうするか?」

「といいますと?」

「うむ。現状では各戦場がしっかりそれぞれの役割を果たしておる。果たすというか、果たし続けておる」

「はいっス。時間稼ぎと武威削り。上杉勢と武田勢がちょっと武威削りのペース遅い気もしますけど、時間稼ぎはしっかりこなしているし、離脱者も出してないっス。

 逆に吉継様の方はなかなかに攻勢っスけど、戦闘の激しさから察するに残りの体力と武威の方が心配っスね」


 おっと。今度は解説者になりおった。

 というか豊久殿、わしのように武威センサーの類は持っておらんのに、モニターから得る情報だけでかなり正確な分析をしておるな。

 やはりこやつ……なかなかのキレ者でもある。


「そうじゃな。織田勢は相変わらず両方の役目をしっかりこなしておるとみてよかろう。

 でも対趙雲、そして対関羽の戦場には援軍を送ってもいいのかもしれん。

 上杉・武田勢には攻撃力に富んだ人材を。そして吉継たちのところには狡猾に時間稼ぎをできる熟練の兵を」


 だけどさ。


「んじゃ決まりっスね! 我々が趙雲にとどめを刺しにいくっス! 猛攻撃を仕掛けるっスよ!

 んで今復活してきた他の船にいる戦力を全部関羽のところへ! あははッ!」


「待て待て!」


 こやつ! ちゃっかり戦場に戻ろうとしやがった!

 しかもその声を合図に、わしらの少し後ろで待機しておった豊久殿の部下たちも立ち上がって……っておい! 勝手に行こうとするな!


「そこの者たち、座れ! 豊久殿も! おぬしらはこの後の偽装撤退戦の指揮をする役目があるじゃろ!

 なんでいきなり……っておい! 討ち死にするつもりじゃな!? だからそれは許さないってば!」

「ちっ……バレたっスか……」


 舌打ちしやがったぁ!

 しかもこの感じ! さっきからやけに多弁になったのって、もしかしてわしに誘導尋問的なもの仕掛けておったなぁ!?


「舌打ちすんな! 凹むじゃろ!

 あと『バレたっスか……』じゃないわ! あっぶねぇ。いや、もうそれは諦めろというておるじゃろ!

 それよりおぬしはここで待機じゃ! この後の指揮をしないと!」

「うー、わかったっス。んじゃ、復活した戦力の方はどうしますか? そのまま戦場へ?」

「そうじゃな。それらの兵を一度ここに呼んで……本人たちの意向も聞いたうえでグループ分けを……」


 ただ武威センサーで感じただけでは測れない、それぞれの兵の特徴。

 といってもそう難しく考えることでもなく、“攻撃力”と“持久力”のどちらが得意かを二択で問い、それでどっちの戦場に送るかを決めるだけ。

 それだけで十分じゃ。


 いや、それだけでは説明が足りんな。実のところ、武威センサーから感じるこの者たちの武威もなかなかに質が高い。

 戦闘開始当初において、関羽たちという正体不明な敵を前に各勢力は豊久殿同様率先して強い者から戦闘に当たらせ、そして早期の離脱を余儀なくされた、という者が結構おるようじゃな。

 だから今現在、改めて相手の道威をしっかりと理解させれば、この兵たちをどちらの戦場に送ろうとも、それなりに役目をこなしてくれるであろう。

 それを武威センサーで感じつつの、あえての二択を問うだけ。万全を期す感じじゃな。

 24時間以上戦っておった華殿や頼光殿一派、そして三原が規格外だっただけで、この復活組でも十分に戦えるんじゃ。


「んじゃ復活して動けるようになった兵はこっちに来てもらいますか?」

「あぁ、そうじゃな。でも寝起きの腹ごしらえぐらいはしてもらってもよかろう。20分後にここに来るように伝え……って氏直がいないんじゃった。わしが各々の戦艦に伝えるから、ちょっとそこのノートパソコンとってくれ」

「ほいっス」

「サンキューじゃ」


 そしてわしは豊久殿からノートパソコンを受け取り、それを操作する。

 無線通信のグループを戦場から艦隊の各船長へと切り替え、復活した兵に食事と戦闘準備をするよう伝えてもらった。


 一方でノートパソコンを見たついでに、武田・上杉の兵の復活組と源平の復活組が随時本州側の起点となる基地へと送られておることも確認した。

 こちらは寺川殿が本州側で部隊の編成や配置を行ってくれておるようじゃ。具体的には山陽地方の各所にそれらの兵を配備し、中国山地を防衛線としてそこに随時兵を送る感じじゃな。

 これならば出雲へ向かおうとする関羽たちが山陰地方――つまりは日本海側の経路を選択せざるを得ない。


 そんな戦力の配備に加え、あと総理大臣たる利家殿による民間人の避難。

 これもすでに始まっており、陸上自衛隊と警視庁・警察庁がフル稼働で山陰地方の住民を瀬戸内海側へとどんどん輸送しておる。

 万事抜かりはない。


 抜かりはないんじゃが……やはり気になるのは“黒幕”の存在じゃ。

 そもそもわしらはここからさらに何時間も持久戦を行うこととなっておる。

 というか決定打に欠ける現状では、持久戦を余儀なくされる。


 だけどまた“黒幕”からの超常現象的な支援があったら、厄介なことこの上ない。

 そう考えるとやっぱ気が滅入るな。

 この際、同時並行でその黒幕についての調査と討伐部隊を編成し、そっちを潰す方針も打ち立てるか?


 と思ったんだけどさ。


 織田家と康高の戦線加入から1時間半ほど経ったぐらいかな。

 復活組が食事と戦闘準備を終え、わしらのおるイージス艦へと集合。

 各々から軽く戦闘傾向の得手・不得手を聞き、現場への戦力配分を調整し終えたあたり。新たな戦力がそれぞれヘリコプターへと乗り込み、わしが改めてドローンからの映像と武威センサーにて、現場の分析をしておった時じゃ。

 無線通信に乱入者が現れたんじゃ。


 乱入者というか……これ、多分わしの武威センサーの最大範囲と無線の電波の範囲がほぼ同じだったからか?

 無線の声と同時に、わしの武威センサーの範囲によく知っておる反応が4つ。いや、さらには最近新しく覚えた武威反応が1つ。



「光君、おっつー」



 ……



 ……



「あれ? 聞こえてない? おーい、光くーん! 俺だよー! ジャッカルだよー!」

「無線の設定は……合ってるよね。んじゃ聞こえてんじゃん? おーい! うちら戻ってきたよー!」


 最初の声は……自分で名乗ったからいいじゃろう。ジャッカル殿じゃ。

 んでお次はクロノス殿。


 いや、待てと。

 おぬしら、地の果てでサッカーの大会中じゃろ? と。


「え? なんで? いや、もしかしてこれ、インターネットの方の通信アプリ? ドーハからインターネット経由で?」

「おっ、光君の声が聞こえた。んじゃ設定合ってるね。でも、光くーん? 違うよー。自衛隊の無線通信だよー!」


 なんでじゃ? なぜにわしらの無線にジャッカル殿たちの声が……!?


「え? うそ? なんで? ジャッカル君? あと……ということは他の3人も?」


「ふふふ。そうだよ。みんないるよー!

 戻ってきたよー。今、日本の領空? とか言うエリアに入ってきたとこだよー。だから軍事無線を繋げられたんだよー!

 日本がピンチなんでしょー? 助けに来たよー!」


「え? あっ、いや……サッカーの大会の方は?」


 だけどわしの問いに対してはご機嫌よさそうなジャッカル殿に代わり、今度はミノス殿の声が返ってきた。


「こちらミノス! こちらミノス! ふっふっふ。サッカーの大会は大丈夫だよ。

 ドーハでさ、大規模な爆破テロがあったんだよね。んで、そのせいで大会は一時中止。

 後日、他の国……第三国で続きが行われることになったんだよ」


「ば、爆破テロ?」


 確かに中東ではそういうことも起こりうる。

 でもドーハのあるカタールはそんな中東諸国の中でも格段に治安が良く、政情も安定しておる。

 そんな国でいきなりの爆破テロ?


「そう、爆破テロ。だから決勝トーナメントは中止になったんだよねぇ。まっ、こういうのは仕方ないよねぇ。あはは!」


 いや、待て。

 なんかミノス殿の雰囲気おかしくねェ?

 あとこんな時期にいきなりそんなことが起きて、サッカーの大会が中止になって……んで4人揃って戻ってくるって……?

 色々とタイミングが良すぎねェ?


 そしてわしの脳裏に浮かぶ1つの懸念事項……というか1つの犯罪の匂い。

 つーか、ミノス殿から犯罪者の気配じゃ!


「もしかして……やった……の?」


 爆破テロ――それと同様の現象とみなせる破壊行為。

 武威を使った街角での破壊……。


「ん? なんのこと? あははッ! 光くーん。証拠もなしに友達を疑うのはよくないよ」


 おいぃいいぃ! その言い方がすでに犯人じゃ! 絶対にこの4人じゃろ!

 何してんじゃ!? そんなことするか、普通!

 てゆーか、えぇ!? 日本に戻ってくるためにわざわざそんなことして、大会延期させたとか!? マジか!?


「うそでしょ……? そんなことしてまで……」


 んで頭を抱えるわしの言に、今度はカロン殿じゃ。


「あははッ! だから『そんなこと』はしてないってば! 疑い過ぎ!

 でもなんかホテルで待機してたらテラ先生から連絡来てさ。こっちがなかなかヤバい戦いになってるとか!

 しかも康君も戦場に出る予定だとか! そんなん、放っておけないじゃん?」


 ちなみにわしは今、軽く誘導尋問を仕掛けたんだけど、カロン殿はそれもしっかりと否定もしつつ……。

 てゆーか、絶対に認めないつもりじゃ。

 さすればそれは仕方なし。

 あと、やっぱりこういうのには寺川殿が裏でこっそり絡んでおる。そういうのもやはりウザい!

 わしに一言言えよ!


 でも……でも、くっ! この4人の援軍は心強い! ……のも否めん! くっそ!


「んじゃサッカーの方は後日、別の場所で続きを?」


 そんでもってまたまたミノス殿じゃ。


「そだね。光君と勇君がまた活躍してくれれば問題ないよ! 浅山さんも入れて3トップ態勢でいくパターンも考えてるしね!」


 なんか嫌な提案じゃな。


 だけど……


「ね? 浅山さん?」

「え? あ、あぁ。でもそれはいいとして、俺がいきなりこんな戦場に……? 果たして……役に立つのか……?」


 うむ。わしがさっき4人の武威に気付いたと同時に、さらに反応を示した5人目の武威。つまるところ、それは浅山殿じゃ。

 まぁ、浅山殿もどこかしらの戦闘に加わってもらってもいいのかもしれん。

 現世では戦闘経験に乏しいのかもしれんが、前世のあやつはあやつで“浅井長政”という武将だったことに違いない。


 だけど、その浅山殿の声に反応する無線がもう1つ。


「ほう、長政もきたと申すか。くっくっく」


 なぜかわしらの会話を信長様が聞いていて……てゆーか信長様寝てたはずじゃ? いつ起きたの?

 しかもなんか嬉しそうなんだけど!


「では長政はこちらの戦場によこせ。いいな、三成? 次の“一撃”を放つ前に、少したわむれを……ふっふっふ。

 ふーぅ、ふーぅ」


 そして無線を通して響く信長様のよくわからん息遣い。

 いや! それ、BL!

 って信長様、めっちゃ興奮してるやんけ! そんなに楽しみか!?


 ってか戦場でなにを始めるつもりじゃ!? この空撮映像とか、日本各地の勢力がいろんな場所から見てんのじゃ!

 さすがにヤバ過ぎじゃ!


 しかもそれを聞いた浅山殿の反応じゃ!


「えぇ! ちょ、いきなりはご勘弁を! ま、まだ心の準備が……それに俺、そっち系の経験は……あの……まだ……」


 うーむ。浅山殿?

 それ……そういう雰囲気のセリフはダメだって。

 攻めとか受けとか……そういうのはわしにはよくわからんけど、おそらく――いや、間違いなくそういう雰囲気を醸し出すと、むしろ信長様は喜ぶ。

 そして信長様の欲求を高ぶらせてしまう。

 浅山殿はそこらへんをよくわかっておらんようじゃな。


 さて、どうしたものか。

 そもそも前世であんなことをした浅井長政殿を血気たぎる織田勢の戦場に向かわせるなど、ネギを背負った鴨さんをぐつぐつ煮込んだ鍋に放り込むようなもんじゃ。

 下手をしたら戦いのどさくさに紛れて家臣の誰かに殺されかねない。


 でもそれが信長様の要求とあらば、仕方あるまい。

 あっ、でも今の浅山殿は信長様のお気に入りだから、家臣の皆様もそんなことはしないか?

 んじゃ、そういうことで。


「はっ、ではそのように!」

「え? いや、ちょっと待ってくれ、光成! 俺、そういうつもりで来たんじゃ……! って、えぇ!? そんな!? いきなり戦場で!?」


 何はともあれ、まぁ、浅山殿には早速生贄になってもらおうぞ。

 この戦いに参陣してくれた信長様に対するせめてものお礼じゃ。


「あっ、ところで浅山殿? 他の4人に代わってくだされ。いい加減さっさと! いろいろ諦めて!」

「おいぃ! ちょっと、待……いや、ジャッカル!? まだ話が! って、うぎゃッ!」

「はいはいー。こちらジャッカル、こちらジャッカル! 無線代わりました! なんちゃって」


 おそらく無線の向こう側では浅山殿が何かしらの暴力を受けて悶絶しておる。

 そういう悲鳴っぽい叫びと、打撃音。そしてそういう武威の反応がわしに伝わってきたけど、それはどうでもいいとして。


 問題はそもそもこの5人がこのタイミングで無理やり戦場に戻ってきたということ。

 いや、別に戦力的には――そして戦術的には非常に嬉しいんだけどさ。


「あぁ、マジかぁ……マジで戻ってきちゃったの……? いや、助かるんだけど……」

「そう、マジマジ! んで俺らはどうすればいい? 今ちょうど博多の上空だって。どこらへんで飛び降りればいい?」

「あっ。じゃあ本州と九州の間の海に自衛隊の戦艦いっぱい浮いてるからさ。そこ目指して降りてきて。僕、今イージス艦にいるから、近くの船に上がって船員さんに聞けばこっちにこれるはず」


「おぉ、イージス艦まで出てんの! すげぇ!」

「だね! 俺も乗ってみたい! てゆーか船内に入れてもらって、急旋回してもらおうかな! その船の機動力ってすごいんじゃん!?

 くぅー! 人生で1回は体験してみたいやつだ!」


 無線の向こう側、ジャッカル殿の背後から何やら興奮した感じのカロン殿と、あとよくわからん願望を口にしたクロノス殿。

 鉄道マニアの――じゃなかった。時刻表マニアのクロノス殿がまたよくわからん趣向のブレをしておるゆえ、そこにもしっかりツッコミたいけどそれをしておる余裕などない。もちろんイージス艦の旋回機動能力を体験してもらっている場合でもない。


 それとさ。ミノス殿な。


「んじゃうちらこれから個人用の無線機に切り替えるから、連絡はそっちでよろ! 光君、今ノーパソ確認できる? いつも使ってる通信制御用のアプリなんだけど?」

「あっ、うん。って今、新しい無線通信のグループが表示されたね。そっちで設定してくれた?」

「うん。無線グループのGかな? わかりやすいように名前つけといたから。

 部隊名『BLOODY RED』。それがうちらの無線のグループということで! 今後はそっちに連絡を」


 直訳、『血のような赤』。

 こういう戦場ではいつも返り血でびっしょびしょの真っ赤っ赤に染まっているミノス殿が設定したんだろうけど、怖すぎじゃ。

 いや、これもいちいちツッコむ気にはなれん。


「わ、わかった。んじゃ後でこの船で!」

「りょーかーい!」

「オッケー!」

「んじゃ後で!」

「おっ、みんな見て! 下の海に戦艦の明かりがいっぱい! 多分あのうちのどれかだから、とりあえず飛び降りよう!」


「え? ちょっと待て! パラシュートは? えぇ!? そのまま飛ぶんか!? いや、俺、高所恐怖症……っておいぃ! 引っ張るなぁ! マジ無理! マジ無理だって!」

「浅山さん! 大丈夫ですってば! 着地の瞬間に足に武威を集める感じで! 下手に怯えて落下中に無駄な動きすると、頭から落下しますよ!

 体が反転しないように、両腕広げてバランスとるの忘れないように!

 それと船の甲板と海面のどっちに着地するかわかんないですから、武威の加減だけ間違えないでくださいね!」

「え? あ、えぇ!? 無茶言うな、ジャッカル!? それ、難しすぎるだろ!」


 そして無線を通してスカイダイビング中のハイテンションな4人の叫び声と、悲鳴にも似た浅山殿の叫びが響く。

 だけど浅山殿だってトップアスリートの類であり、その魂には浅井長政の勇猛さも持ち合わせておる。怯えながらも空中で態勢をしっかり確保し、10数秒後に無事に近くの海面に着水した。

 もちろん冥界四天王の4人も同様に近隣海域の各所に着水し、ほどなくして5人はわしらのいるイージス艦へとたどり着く。

 んで船員殿に促されるまま作戦指令室に入ってきて、とりあえずはわしといつものような軽い挨拶を交わした。


「うぇーい!」

「おっつー!」

「お疲れー!」

「てゆーか1日ぶりー!」


「うん、よく来てくれたよ、みんな。浅山殿もかたじけない」

「あ、あぁ、うん。はぁはぁ……スカイダイビング、めっちゃ怖かった……まだ心臓がバックンバックンいってる……はぁはぁ」


 だけど今は戦いの真っ最中。

 それぞれがすぐに真剣な表情へと変わり、わしも4人に今後の作戦を伝える。


「よし! んじゃみんなは遊撃部隊になってもらうね。各戦場を行き来して、それぞれの味方部隊を助ける感じ。

 僕が分単位……いや、状況によっては秒単位で指示を出すから、よろしく!」


「わかった。うっしゃー!」

「暴れてやるぞー!」

「徳川の戦いを!」

「うん、みんなにうちらの強さを見せてやろう!」



 意気揚々とした命か四天王の叫び声がイージス艦の艦内に響き、4人は戦場へと向かった。



 あと――ここから先はR指定になってしまうので詳細は言えないけど、浅山殿に関してのみ、対張飛戦を繰り広げている織田勢の戦場へと行ってもらった。




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