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136 最終決戦の漆


 冥界四天王――いや、今は徳川四天王というべきか。

 全国の戦国武将を震え上がらせる4人の若者。だけど今はいつも通りのハイテンションとゆるーい士気で戦場へと走り出した。


 移動方法はもちろん海上走行。しかしながら前世から備わる圧倒的な武威を現世にてさらに高め、法威の技術も極めつつあるこの4人にとって、海面を高速で駆け抜けるなど容易なことこの上ない。

 輸送用のホバークラフトやヘリコプターも使わず、わしらがおったイージス艦と戦場の間、およそ800メートルを問題なく駆け抜け、そのままの勢いで戦場へと乱入した。


「まずは趙雲の戦場だ! みんな、もう少し左へ! うん、そう……11時方向だね!

 上杉・武田勢は海の方から援軍が来るゆえ、そっち方向を少し開けてくだされ!

 んでクロノス君! とりあえず渾身のやつ、いっちゃって!」


 わしの言を受け、4人は海上走行中にも進行方向を若干修正。それに続いて趙雲と闘っていた上杉と武田の兵が趙雲を囲む配置に穴を空ける。

 そこにそのままクロノス殿が突っ込み、渾身の右ストレートを構えた。


 とはいっても相手も歴史に名高い武将じゃ。

 高速で接近し、いきなり攻撃を仕掛けてきたクロノス殿に対し、趙雲は飛ぶ斬撃を数発放つことでクロノス殿に反撃を試みる。

 武威センサーから察するに、そのうち2発ほどは時限爆弾タイプの斬撃のようじゃな。

 先陣を切るクロノス殿がそれを回避した場合に、その背後にいる3人にもあわよくばダメージを与えておこうという意図が見て取れる。

 というかこの一瞬でそこまで画策する趙雲も、やはりなかなかのやり手じゃ。


 だけどそんな趙雲の思惑を上回るのが、本多忠勝たるクロノス殿じゃった。


「おっ! これが飛ぶ斬撃か! くおりゃーッ! ふん! ふん!」


 右手に込めた武威を法威でがっちり固め、襲い来る斬撃に殴りかかる。

 右ストレートどころか、そのまま左フック、右アッパーなど……いや、ここらへんのコンビネーションはよいか。

 何はともあれ、素手による殴打を繰り返すだけで、飛んでくる斬撃をすべて破壊しやがった。


「んな? なんだと!?」


 趙雲が驚くのも無理はない。だけどそれがこの遊撃部隊の先鋒を任せたクロノス殿の実力じゃ。

 実力というか……かつての時代においても群を抜くほどのとてつもない量の武威で体中を覆い、戦場ではかすり傷一つすら付けられたことがないという伝説を持つ武将。

 その武威の防御力はもはや道威による武威の鎧と大して変わらん。


 さらにはそのままの勢いでクロノス殿は趙雲との接近戦に入る。

 愛用の武器、涯角槍(がいかくそう)を駆使して襲い来る趙雲の攻撃を、四肢のみで防御――というかその間隙を狙ってボディブローを仕掛ける。


「うらうらうらうらァ! とう! ほいっ! おーりゃーッ! おらおらおらおらッ!」

「ぐッ……! かはッ! ぐッ! ぐほっ!」


 いや、なんというか、あれじゃな。勇殿は敵の武威の鎧を“削り取る”感じだけど、クロノス殿の攻撃はその鎧を“押し潰す”感じじゃ。

 武威の鎧ごと趙雲の内臓まで届く衝撃を与えておる。


 てゆーかマジか? これ、攻撃力だけなら華殿に匹敵するんじゃね?

 いや、一撃一撃の威力は華殿に及ばんかもしれんけど、巧みなコンビネーションによる攻撃をしっかり当てて、しかもクロノス殿の打撃が趙雲の武威の鎧に当たった後もしっかりとそれを押し込み、結果、地味ぃーな衝撃を内臓へと送っておる。


「ふーぅ!」


 まぁ、こういう連打はボクサーのごとく無呼吸状態で行うのがセオリーじゃから、30秒ぐらいで1度インターバルを取る必要があるんだけどさ。

 んでクロノス殿は一通りの殴打、乱蹴りを終えたところで後方へと跳躍。

 でも戦場に乱入したのはクロノス殿だけではない。


 いつの間にか趙雲の背後に回り込んでおったミノス殿がそのインターバルに合わせるかのように渾身の右フックを趙雲の背中の右側へ。

 ここには肝臓があるので、それを傷つけられると打撃を受けた瞬間だけでなく、後々めっちゃ痛みが続くんじゃ。

 んでいつもいつも敵の急所ばかりを狙うミノス殿は、やはりそういう攻撃を好む。まぁ、だからこそ戦場におけるミノス殿はいつも敵の返り血でバッシャバシャになってるんだけどさ。


 とはいえやはりこれも趙雲を戦闘不能に陥れるほどのものではなく、趙雲は悶絶しながらもよたよたと前へ足を進める。

 だけどこっからはファンタジー担当のカロン殿じゃ。

 服の中に仕込んでおったオオスズメバチやカブトムシ、クワガタなどなど……。

 それら幾十の昆虫を――しかも殺傷能力に優れた種類の昆虫をTシャツの袖やハーフパンツの裾から解き放ち、一度空中に浮遊させておった。

 そしてクロノス殿とミノス殿の攻撃が終わったのを合図に、それらを一斉に趙雲めがけて突撃させる。


 もちろんそれらの虫さんたちはカロン殿の武威が存分に込められておるゆえ、攻撃力はただの昆虫レベルではない。

 しかもカロン殿はその虫さんたちに事前に細かい指示などしておいたらしく、ハチの針やカブトムシの角、そしてクワガタのハサミが趙雲の関節部分に集中するような突撃を繰り出した。


「くっそう……はぁはぁ……うぜぇ連中だな……げほっ……っつーぅ……」


 うーむ。

 趙雲がふらふらしながら悪態をつき、でも内臓のダメージや関節の痛みに苦しんでおる様子も隠せない。

 あとこういう猛攻の時はジャッカル殿が少し後ろで待機して、敵の観察と味方の連携の穴をカバーする役目に回ったりする。

 とはいえいきなり3人が猛攻極まりない動きをしておったため、ジャッカル殿は敵の観察のみに注力しておったようじゃ。


 おそらくはここに来るまでの機内ですでに目を通しておったであろう、趙雲たちの戦闘スタイルに関する調査・分析結果。

 氏直がすでに作っておったレポートを……多分寺川殿あたりが4人に送っておいたのじゃな。

 なのでそれを見ておったクロノス殿たち3人は結局のところ一気に勝負に出ようとはせず、趙雲の内臓へのダメージの蓄積と、肘や膝など関節の動きを低下させることに目的を集中させたようじゃ。


 まだまだ続くであろう、敵武威の消耗戦。

 でもこれなら趙雲は今後もそれらのダメージに苦しみながら戦うこととなる。

 ゆるーいノリの徳川四天王の転生者たちだけど、その魂に宿るのはやはりあの徳川四天王であり、そういうとこは意外と冷静で的確な戦術を選ぶのじゃ。


「いや、でもあんた。やっぱなかなか強いよ。うちらの攻撃をたっぷり受けて、その程度のダメージだなんて」


 3人が趙雲の包囲を解くように、各々がさらに背後へちょこっと跳躍したタイミングで、ジャッカル殿がそんなことを言った。

 言ったんだけどさ。

 ついさっきまで敵味方の動きをじっくり観察しておったはずのジャッカル殿なんだけど、いつの間にか趙雲の背後に回っていて、そして趙雲の頭部に狙いを定めて、背後からかかと落としじゃ。


 もうさ、鬼か? と。

 いや、趙雲に同情してる場合でもない。


 かかと落としで今度は首に衝撃を受け、趙雲は地面に片膝をつく。

 つきながらも武器を振り回し、周囲の4人に斬撃を飛ばした。


「くっそーーーッ! くそどもがァ!」


 あっ、趙雲がキレた。

 でもそういう苦し紛れの“飛ぶ斬撃”は、やはりというか、当然というか――4人揃ってしっかりと回避された。


 んでもってここからさらにちょっとした小細工じゃ。

 まとめ役のジャッカル殿が少し大きめの声で他の3人に指示を出す。


「よし! フォーメーションB完遂! 次はフォーメーションのFで!」


 うわぁ……これ、実のところいくつかある4人のフォーメーションの中でフェイクとなるパターンじゃ。

 つまりは次に違うパターンの攻撃を行うと敵に思わせておいて、今さっき実行した攻撃と同じやつをもう1回、という本当にこざかしい罠なんじゃ。


「うぇーい」

「りょーかーい」

「おっけー」


 もちろん他の3人はいつものような緩い返事。

 対照的に趙雲は次に何が来るかと必要以上の警戒を周囲に向けるが、そんなちょっとした心理戦をしつつも、さっきと同じ攻撃へ。


 1分ほど経過し、4人の同じ攻撃が一通り繰り返された結果、趙雲の動きが明らかに鈍った。

 それを確認したわしは、無線に向かって伝える。


「あー、『BLOODY RED』? 『BLOODY RED』?

 趙雲に対するダメージは十分かな。なので戦場を変更で。

 次は今ちょうどカロン君の背後の方向に300メートルほど移動したとこね。

 そこに康高たちがいるから、そこの4人に割って入る感じで」


 だけどここで事件が起きた。


「おっ、りょーかーい!」

「んじゃ、あとは上杉と武田の皆さん、よろでーす」

「ふっふっふ。次はやっとお目当ての! 康君の初陣だァ!」

「そうだね。しかも勇君が“アレ”出してんでしょ? 楽しみだね!」


 カロン殿、クロノス殿、ジャッカル殿の順で無線から声が聞こえ……そして、最後のミノス殿の発言じゃ!

 おいッ! なにその言い方!? もしかして勇殿の電動ドリルの件って、4人は前から知って……えぇ!? えぇーッ??


「ちょっと待……! え? もしかして勇君の新技、もしかしてみんな……前から知って……?」

「あっ、光くーん? それ、今は関係ないからね。私語は謹んでいただく方向で! きゃははッ!」


 だけどわしの慌てふためいた感じの声は、ジャッカル殿によって無情に否定される。


 いや、待てと。こういう時だけ真面目ぶるなや。

 確かに今は戦いの真っ最中だけども!

 それより――なんというか! わしらの友情というか、付き合いの長さとか!


「いやいやいやいや! そこ重要だから!」


「あー、あー、こちらミノス。こちらミノス。次の戦場が見えてきました。これより対関羽戦に入りまーす。

 指揮官、石田三成は冷静にご指示をお願いしまーす。さっき秒単位で指示出すって言ってたよね! んじゃ私語は謹んで!」


 おーのーれーぃ!

 いや、確かにそうだけど! ミノス殿の言うことは間違っておらんけども!


「ちッ!」


 今度はわしが無線の向こうに聞こえるよう大きく舌打ちの声を出し、無線の向こう側からはその反応に気づいて笑う声が4人分。

 だけどもう時間はない。

 いや、時間はたっぷりとあるんだけど、笑い声が収まる頃には……いや、4人ほぼ同時に笑い声を抑え、雰囲気はいきなり真面目モードに入っておった。

 というか武威センサーから察するに、4人はすでに対関羽の戦場に到着したようじゃ。


「んじゃ今度はフォーメーションAで」


 関羽との距離が5メートルほどになったところで、まずはジャッカル殿による4人のフォーメーションパターンの指示。

 今回はあれじゃな。最もシンプルな形で、4人が関羽の周囲を均等に囲むパターンじゃ。

 前後は例によってクロノス殿とミノス殿。んで左右はカロン殿とジャッカル殿が抑える。


 これは関羽という敵を前に、しばしその攻撃力と防御力を調査してみようという時によく用いられる。

 歴史に名高い蜀の武将。その中でもリーダー格の戦闘力を持っているであろう関羽を相手に、ちょっとした警戒心の表れじゃ。

 まぁ、関羽の見た目は小太りのおっさんなんだけどな。


「うぉ! また新手ですかいな! しかもこれは……なかなかの動きを! くっ! まだこんな手勢が残っておったんですかいな!?」


 関羽がエセ関西弁っぽい言にて反応を示したけど、その声に反応したのは他にも3人おる。

 勇殿と氏直が即座に関羽と距離をとり、康高にいたっては突然戦場に乱入した4人に驚いておる虎之助殿の腰のあたりに左腕を回した。


「虎之助さん、いったん退避で! 巻き込まれちゃう!」

「え? うぉ!」


 そして康高はスタッドレス武威にて、虎之助殿もろとも関羽との距離をとる。

 入れ替わりでジャッカル殿たちが関羽に猛攻撃を仕掛け、周囲に後退した勇殿たちの声が無線に入ってきた。


「ふう。まさかみんながこんなに早くここに来るとは。でもこれで一休みできるね」


 勇殿の安心したような声が聞こえたので……いや、勇殿に問い正すのもやめよう。

 絶対に誤魔化されるだけじゃ。

 それよりこっちの戦場はどんな感じだったんじゃろうな。

 新技にて戦い続けておった勇殿は流石に疲労の色を隠せんようじゃ。


 でもスタッドレス武威と手持ちの武器でいつも通りな感じの戦闘をしておった康高と氏直は、さほど疲れておらんじゃろう。


「兄ちゃーん? 聞こえますかー?」

「聞こえてるよ。康高、大丈夫? いつもの訓練より戦闘時間長くなってるけど、体力的なものとか?」

「大丈夫だよ。氏直さんも。でも虎之助さんがちょっと疲れてるかも!」


 おぅ、そうきたか。

 いや、そうなる理由もわかるっちゃわかる。

 わりと自由に動き回る若手3人をフォローしながら戦う。

 これは流石の虎之助殿も苦労したじゃろうな。


「んじゃ、氏直は虎之助殿をいったん離れたところへ運んであげてくれ。武威も解除して完全に休めるように。

 その護衛役は氏直で。

 んで勇君も……そうだね。ここで一度氏直たちと一緒に戦場離れて、じっくり休もうか?」

「おっ、わかったよー。んじゃ、お言葉に甘えて」

「あっ、どっかのコンビニに入って飲み物とか勝手にもらっても大丈夫だよ。

 今店員さんいないし、そこらへんは利家殿がしっかり相手側と話つけてくれるはず」

「おぉ、それはすごいです! んじゃ弁当もいただいてよろしいので? それがし、若干の空腹が!」

「氏直? それもかまわんぞ。でもコンビニ探しと食料の調達は勇殿に任せて、おぬしは虎之助殿をしっかり休ませるのじゃ。その護衛な?」

「はっ! では勇多殿? おねがいします」

「もろもろりょーかーい。んじゃ光君? うちらこれにて一時離脱で!」

「うん、ご苦労さん」


 そんな会話をしつつ、勇殿たちの武威反応が戦場から離れていった。

 んで無線グループの管理アプリを操作し、康高を『BLOODY RED』に加える。

 同時にそちらの音量をオンにすると、信じられないような会話が耳に入ってきた。



「うーん。この人……関羽のおじさんは“同時多発型”だっけ? でもそれ放つときの1本1本の刃は威力あんまりなさそう。

 もういっそ防御用の武威を多めにしてそれを全身に纏えば、いちいち回避しなくてもいいような気が。

 回避めんどいよねぇ? 多分みんなもそれで大丈夫だよ?」


 まずは関羽の正面でその攻撃を受け続けていたクロノス殿による発言。

 いや、待てと。

 その斬撃によってこれまでどれほど多くの兵が戦闘不能に陥ったとでも?


 でもそんなクロノス殿の分析に、関羽の背後をとっていたミノス殿が賛同するように……。


「そーだねぇ。つーか斬撃の威力が4つか5つに分散するから、1本1本の刃の威力も分散するんだと思う。そうしないと4倍または5倍ぐらいの武威を消費するようなもんだし。それはさすがの関羽と言えどもすぐ武威が底をつく。みたいな?

 ふっふっふ。関羽のおじさん? 図星でしょ?」


「図星ですがァ! 図星だけども、まさかそもそもわいの斬撃をここまで普通に防御する4人組なんて!?」


「あぁ、やっぱり。んじゃそれ全部いちいち避けなくてもいいかもね」

「うん。ちょっと強めの面攻撃受け止めるぐらいの感覚でいこうか。ちょっとみんなで『押して』いこう!」


 最後は関羽の左右から残酷な笑みを浮かべているであろうカロン殿とジャッカル殿。

 勇殿たちがいなくなり、関羽から少し離れたところでぽつんと立っている康高同様、わしにも訳がわからん!


「え? マジで? しかも『押す』って?」

「うん、ちょっと激しく攻めることにするよ。光君? いっそのこと関羽のおじさんはここで一気に!」


 仕留めるつもりじゃと?

 マジかよ、おい。

 いや、それならそれで別にいいけども。むしろ嬉しい誤算というか、そんな感じだけども。


「康君もこっちおいで! 康君はこの敵の頭上をぴょんぴょん飛び越えながら、上から頭だけ狙って!」

「うん! わかった!」

「よし! んじゃ総攻撃で!」


 四方から攻める徳川四天王。そして頭上からは康高の攻撃。

 もう、本当に……。

 持久戦がどうとか――あとわしからの秒単位の指示とか、そういうのがどうでもよくなるぐらいの猛攻がジャッカル殿の声を合図に始まった。




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