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279.停戦

======== この物語はあくまでもフィクションです =========

============== 主な登場人物 ================

大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。降格中だったが、再び副隊長になった。現在、産休中。

愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。『片づけ隊』班長をしている。


斉藤長一朗理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。


増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。

高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。EITOボーイズに参加。

馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。

結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向の巡査部長。。

伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。

葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

高坂(飯星)満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。

仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。


高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。EITOガーディアンズ。

青山たかし・・・元丸髷署刑事。EITOに就職。EITOガーディアンズ。

馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。EITOガーディアンズ。

井関五郎・・・鑑識の井関の息子。EITOの爆発物処理担当。EITOガーディアンズ。

筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁テロ対策室からのEITO出向。EITOガーディアンズ。


守谷哲夫・・・SAT隊長。

名越撤兵・・・MAITOの隊長。

大上・・・ピースクラッカーの『枝』。


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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

== EITOガーディアンズとは、エマージェンシーガールズの後方支援部隊である。==


午前0時過ぎ。

Base bookにピースクラッカーの投稿があった。

「律儀だねえ、律儀だねえ、律儀だねえ。大事なことだから、3回言ったよ。ルールを守って。『主流派でない集団』は、整理しなくちゃね。ああ、すっきりした。」

午前11時。伝子のマンション。

EITOから『緊急でない』メールが来ていたが、高遠はメーラーを起動して確認した。緊急でないことは、タイトルがEmergencyなので、すぐ判断出来る。メーラーも『振り分け』をしている。

Base bookを起動して、ピースクラッカーの投稿を読む。

2人は、『協同長時間肉体労働』をした後なので、朝寝坊モードだ。

ブランチを食べながら、投稿を見た伝子は言った。

「ピースクラッカーにとって、気に入らない部下は『〇ンコ』なのか?」

「伝子。食べながら、下品なこと言うなよ。」「いいじゃない、クソババアのいない時は・・・。」

2人は、思わず玄関を見た。誰の気配もない。伝子の母親の綾子は、時々『くノ一』のように現れる。

「今朝未明の、木場の死体は、拘置所職員だった、って久保田さんのメールも来てる。手引きした奴も始末されたんだね。」

「流石に、ピースクラッカーも今日は休みだろうな。ま、もうその積もりだけど。」

「うん。何故かピースクラッカーは、アナグラムに拘るからね。2つも出したら、ネタ切れじゃないの?あ、今日の会議は?」

「午後1時から。お昼に筒井が迎えに来るってさ。」「また、言ってるだろうね、『元カノのパシリばっかり』って。」

「そうだな。パシリと言えば、なるべく自分の配下の懲罰はしたくない、って気持ちなのかな?案外紳士的って言う隊員もいるんだけど。」

食事を終えた伝子は、みゆき出版社に原稿をメールで添付して送った。

「こうやって、電子メールで済んでも、編集長はやって来る。暇なんだな。午後から編集長が来たら、EITOに出勤したって、言っといて。」「分かってる。」

伝子がゆっくりシャワーを浴び、支度を終えると、筒井がやって来た。

「高遠、カップラーメン、貰っていい?」

「500円。」と、伝子が顔を出し、言った。「高いな。」

午後1時。EITO東京本部。会議室。

「大文字君。君が移動中に、ピースクラッカーから『新しい指令』が来たよ。」夏目警視正は、笑いを堪えて言った。

「お宝は。」と言って、ピースクラッカーは、フリップを出した。

「お笑い しよらん」と書いてある。

「何、これ?」と、伝子が言い、「何か、台所で、ゴキブリに遭遇した時みたい。」と金森が言った。

「和子。言葉、選べよ。」と馬場がいさめた。

「いや、私も、そう思った。」と、伝子は言った。

「今頃、高遠君も解析を始めていると思う。一言だけ、発音しているが、これもヒントなのかな?」と、理事官は言った。

「多分。この文言に入れて言うと、アナグラムが成立しないのでしょう。出てきた、『解』に掛け合わせて考えないと。」

「理事官。夏目さん。今朝、学とも話していたんですが、ピースクラッカーも、何か曰くつきかも知れませんね。『平和主義者』でないにしても。」

「やむを得ない事情があるとか?そう言えば、身内の為に、というパターンが幾つかあったね、『枝』にしても、『幹』にしても。組織の一員になれば、宿命的ではあるが。」

午後2時。

小休憩を挟んで、皆が戻ると、マルチディスプレイの向こうに、高遠がスタンバイしていた。

「何か、関西弁っぽいから、総子ちゃんに尋ねると、大前コマンダーなら日常的に言う台詞だそうです。冗談はさておき、アナグラムの『解』は、『吉原 花魁』だと思います。」

「昔の遊郭か。今は風俗店になっているとか聞くが。草薙、イベントを調べてみろ。」

数分後、草薙は該当イベントを早くも見付けた。

「大吉原展、が開催されています。期日は、明日の5月19日まで。開館は、午前10時。場所は、東京芸術大学美術館です。見所は、ワズワース・アテネウム美術館から日本に里帰りする喜多川歌麿の『吉原の花』、大英博物館所蔵の喜多川歌麿や歌川国貞らによる数々の名作と書いてあります。」

「お宝って、そういう美術品ってことかしら?」と、あつこが言い、「多分な。しかし、また、場所を移動させられるかな?草薙さん。付近は広いですか?」と、伝子は尋ねた。

「さあ、詳しいことは、この地図じゃ分からないですね。何かこの辺、美術館や博物館が多いですねえ。でも、広い敷地ですね。」

「よし、明日午前10時。東京芸術大学美術館だ。訓練する者以外は、帰宅していい。これで、いいかな?大文字君。」

「しかるべく。」

翌日の5月19日、日曜日。午前9時半。東京芸術大学美術館。

EITOから、東京都を通じて、休館にしてあった筈だが、ネットの案内等を知らない人間達で溢れかえっていた。

そこへ、マイクロバスが数台、横付けして、男達が警備員達を含めて、見学客を館内に押しやり、出入り口にバリケードを設置した。男達は、見張り役に数名を館内に残し、エマージェンシーガールズを待った。

なぎさ達がやって来ると、男達を発見、なぎさは後手に回ったことに、臍を噛んだ。

「しまった、と思っているだろう?エマージェンシーガールズ。人質は館の職員警備員見学客を含めて、ざっと50人。ネゴシエイト(交渉)は不要だ。我々を倒せばいい。俺は、お前達が表現している『枝』の大上瑛士だ。お前が隊長か?」

「私は、副隊長だ。」「隊長は、どうした?」「体調不良だ、洒落じゃない。」

「成程。あんたの名前は?副隊長。「エマージェンシーガールズ2号だ。」

「成程。体調不良の隊長がエマージェンシーガールズ1号か。いいだろう。皆、実力を見せてやれ。」

驚いたことに、男達は銃や機関銃ではなく、鍬・鋤・鎌を持っていた。

農耕具ではあっても、使い方が上手ければ、立派な武器だ。『盾』の替わりにもなる。

接近戦が始まった。午前10時になっていた。

戦闘開始から1時間後。必死の攻防戦が続く中、出入り口付近に陣取っていた、集団のリーダー大上が、部下のハンカチと自分のハンカチを繋ぎ、鍬に挿して、空に向かって、拳銃で撃った。

マガホンを通して、大上は言った。「休戦、いや、停戦だ。エマージェンシーガールズ。」

大上の部下も、エマージェンシーガールズも闘いを止め、なぎさが近づいて言った。

「どういうことだ、大上。」「ひとつ聞くが、火事を消すのも、EITO、いや、エマージェンシーガールズの仕事なのか?」

「場合による。消火も避難誘導活動もすることがある。」

「そうか。ボスから停戦命令が出た。勝負は井お預けだ。東京国立博物館を知っているか?ここから東南に350メートル先だ。放火した奴がいる。恐らくエイラブ系だ。そっちを優先しろ。俺達は、引き揚げる。」

「分かった。握手はしない。じゃ、改めて。」「じゃ、改めて。」

双方とも想定外の事実だった。大上は、バリケードを解き、施錠を外し、中の部下にも声をかけ、退去した。

なぎさ達エマージェンシーガールズは、『東京国立博物館』特別展に急いだ。

到着すると。SATが必死に避難誘導を行っている。

「守谷さん、我々も手伝います。」と、なぎさはSATの守谷隊長に声をかけた。

「ありがとうございます。MAITOのオスプレイも、こちらに向かっているそうです。」

なぎさは、あつこのチームに避難誘導の手伝いを任せ、消せそうな箇所を探して、ウォーターガンやフリーズガンで火を消しにかかった。

高木・馬場達と、青山・筒井達は、消火栓を探して、ホースを繋いで、ホバーバイクで放水を始めた。

15分ほどして、MAITOが到着した。

「今から、消火弾を連続投下します。出来るだけ離れて下さい!!」

MAITOの名越隊長の声が、オスプレイのスピーカーから流れた。

燃えている箇所を、なぎさがインカムで、EITOのオスプレイ経由でMAITOのオスプレイに指示した。

30分後。展示物は、一部ショーケースと建物の入り口付近が破損したものの、展示物自体は、あまり影響が無かった。鎮火した。

名越隊長が、博物館館長と話している、なぎさに近づいて来て言った。

「燃え始める前に、タレコミがあったそうです。EITOの活躍も素晴らしいが、そのタレコミがもう少し後だったら、我々も間に合わなかったかも知れません。」

「同じく。」と、やって来た守谷隊長が言った。

「実は・・・。」なぎさは、『停戦』の経緯を話した。

「では、ピースクラッカーが放火予定を知り、あなた方に協力したことになりますね。」

「ええ。我々は『ていのいいパシリ』ですね。」と、なぎさは自嘲気味に言った。

「ここの展示物は、宗教的な展示物らしいから、案外、宗旨が関係しているのかも知れませんし、本来は『平和主義者』なのかも知れません。実は、前の闘いでも、闘いの場の変更を言ってたことがあります。」

「マフィアなのに、『平和主義者』ですか。とにかく、放火犯一味は別口と言うことですか?後で連携会議があると思いますが。」と名越は言った。

「ええ。エイラブ系組織だと思います。パシリと言ったのは、エイラブ系組織の『邪魔』を、我々を利用することで、排除しているからです。『停戦』と言った以上、我々を待ち構えたりしないでしょう。後片付けは協力しますよ。」

「了解しました。」

会場責任者らしき人物は、深々とお辞儀をした。

午後2時。EITO東京本部。司令室。

「よくやった。皆、直帰してくれ。」と、理事官は言った。

「宗教上の理由ねえ。しかし、ピースクラッカーは、何人のスパイを送り込んでいたんだろう?」

「理事官。案外、今回はハッキングかも知れません。『隠し音声』を使うこともある位だから、スパイに通信させていると考えるより、通信をハッキングして傍受しているのかも知れません。スパイに『虫の穴』を開けさせていたのかも。バックドアとかファイヤーウォールを説明するより、『虫食い』の方が分かりやすい、と私は思っています。衣装ケースや洋服ダンスに、うっかり防虫剤入れ忘れていると、虫食いがあったりするでしょう。虫の穴からハッキングするんです。」と、草薙は言った。

「僕も同じ意見です、理事官。やはり、ピースクラッカーにとって、ゲームなんですよ、我々と知恵比べをした上で、バトルする。ところが、無粋な奴らが邪魔をする。」と、マルチディスプレイの高遠が言った。

「で、我々は、パシリをやらされる。」伝子は大笑いした。

「ピースクラッカーという幹と体面する日が楽しみだわ。」

―完―







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