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第61話 百合に挟まる男の末路

「それでは処刑をはじめる」


 お役所の人が号令を掛けたので、3人の死刑囚のうち、若い男が引きずり出された。

 数人の職員の手によって。


 男は「いやだー!」と泣きながら喚き暴れることを繰り返していたよ。

 元々は、チャライ、女慣れした男なんだろうけどさ。

 涙と鼻水でぶっさいくなの。


 うぷぷ。


 その様子に、私だけでなく観客からも失笑が洩れた。


 そしてサッカーコートの中央のリング……センターサークルの前に連行される。


「さー、最期に言い残すことはある?」


 傍に立つ首切り役人役の咲さんが男に質問をした。


 男は


「し、知らなかったんだ! 百合に挟まる男は死刑だなんて法律が出来たなんてことは!」


 ……なんて。

 呆れた言い訳をする。


 咲さんはため息をつき


「法律の問題を知らなかったで許されるわけ無いでしょ。生まれ変わって人生やり直そうね」


「いやだー!!」


 全く。

 法律を舐めすぎだよね。


 私も呆れ果てて声も出ないよ。

 死んで反省して。


 そして


 もう絶対に助からないと骨身に染みて思い知った男は、泣きながら最期の言葉を残しはじめる。


「お、俺はあの互いのほっぺを引っ張り合って眠気に耐えていたふたりを、ふたりともNTRして俺の(ピー)を巡って取っ組み合いの喧嘩をするような……」


 それを受ける首切り役人役。

 咲さんが刀に水を職員の人に掛けてもらいながら

 男の戯言を聞き流している。


 そして咲さんが刀を大上段に振り上げ、構えると


 職員たちに押さえられ、斬首の姿勢を強制的に取らされた男は叫んだ。


「レズ卒業式をさせてやりたかっただけなのにー!!」


 それが男の最期の言葉になった。

 刀が振り下ろされ、首が飛んだ。

 首の皮一枚残して、首が飛んで行くことを防ぐ。

 おそらく咲さんならそれぐらい出来るはずだけど。


 今回に限ってはそれはしてはいけない。


 何故って……


「キックオフだ!」


 刎ねられてセンターサークル内に転がった生首を、左右で待機していたサッカーチームが蹴りつけて、サッカーをはじめたからだ。


 生首サッカーは阿比須町の伝統行事なんだよね。


 このサッカーはサドンデスで。

 どっちかが1点入れた時点で終了。


 そして負けた方が勝った方に、1万円罰金を払うんだって。


 だから双方真剣にやってる。

 メッチャ激しく生首を蹴り合っている。


「いけーっ!」


「俺は赤チームに賭けてるんだ! 負けたら承知せんぞ!」


 この試合で賭博やってる人が、お役人の視線をまるで気にせずそんなヤヴァい声援を。

 公の場で賭け事をやってますって言っちゃ駄目じゃん。常識ないなー。


 ちなみにこのサッカー。

 試合終了までは次の処刑は待機。

 僅かな間だけど、この世を去る前のひとときを味わうがいいさ。

 クソ女ども。


 次に処刑される予定の女が、真っ青な顔でガタガタ震えつつ試合の成り行きを見守っている。

 そしてあのアラフォー女性は全くの無表情。

 何も感じていないみたいだった。


 その様子に、私は思った。


 ……悪党だけど、すごい胆力だよね。

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