けれど鈴の事だ。きっとすぐには受け取ってはくれないのだろう。そう、クリスマスのプレゼントのように。
「鈴さん、つけてくれているんですね」
何気なく鈴の腕を見ると、そこにはしっかりと腕時計がしてある。
「あ、はい。これ、とても便利なんです。外に居る時には特に重宝しますよ! ありがとうございました、千尋さま」
「いえいえ、どういたしまして。良かったです。一つでも気に入る物があって」
「一つだなんてとんでもないです! ただその、私はどこかへ出かける事が滅多に無いので、頂いた洋服や着物を着ていく場所が無いのです……だから着ていないだけで、決して気に入っていない訳ではありません」
「そうですか? ではそのうち社交界に一緒に参加しましょうか」
「……え」
「社交界なんて滅多に参加しませんが、着飾った鈴さんを見られるのなら、悪くないかもしれません」
そう言って笑った千尋を鈴はじっと見つめてきて頬を膨らませる。
「冗談ですか?」
「おや、よく分かりましたね。すみません、冗談です。私を呼びつけるような家などありませんから」
曲がりなりにも千尋はこの地の神だ。そんな無礼な家はない。爵位が高い家は千尋が何者かを大抵知っているのだから。
「お誘いを受ける事はあるのですか?」
「ありますよ。ですが、どこも一度だけです」
「そうなのですか?」
「はい。そういう時は雅が偉い方に一報を入れるのです。そうしたら二度とお誘いはありません」
「……なるほど」
そう言って鈴は何かを理解したかのように頷いて小さく微笑む。
「何故笑うのですか?」
「あ、いえ。社交界に千尋さまが出ると、その美しさにきっと皆さん驚かれるのだろうな、と思ってしまいました」
「褒めてくれるのですか? ありがとうございます。今までは容姿で凝視される事も多くて嫌気がさしていましたが、これからは私の美しさに驚いているのだと思うことにしましょうか」
冗談めかして言うと、鈴は真顔で何度も頷いた。そんな様子がおかしくて思わず千尋は笑ってしまう。
「冗談ですよ。ああ、ようやく手が温まってきましたね」
「はい。何だか全身がポカポカしてきた気がします。これも神通力ですか?」
そう言って鈴は首を傾げて千尋を見上げてくる。そんな鈴を見て、また勝手に体が動きそうになるのを千尋は必死になって抑えて言う。