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第3章 異変

1、温かいご飯

 大学2年生の夏休み、僕は高校時代の元カノである天羽夏音と偶然再会した。そこで互いの気持ちが再び重なったため、もう一度交際することになった。いわゆる復縁というやつだ。


 彼女と再会してから一週間、付き合い始めてさらに一週間と、たいした時間は経過していないのに、彼女が隣にいるという感覚はすぐに僕のもとに戻って来た。二年前まで当たり前だった感覚。でも今は、その時から成長してさらに美しくなった彼女がそこにいる。


「そういえばさ」


 僕の家で彼女が作った豚肉の生姜焼きと、お味噌汁、白ご飯を食べながら僕は彼女に尋ねた。温かい家庭料理の味付けが、僕の舌を優しく包んでいる。


「夏音はいつまで京都にいるの?」


 少し味の濃い生姜焼きは、白ご飯と一緒に食べると絶妙にマッチしていた。


「うーん、多分今月末までかなぁ」


 猫舌な夏音が、味噌汁に息をふーふーと吹きかけるのをやめてそう答えた。


「今月末? そんなに長くこっちにいるんだ。てか、友達のところに遊びに来てるんだよな。ずっと僕の家にいて大丈夫なのか?」


 そう、夏音は僕と付き合い出してから一週間の間ずっとこの家に泊まっている。でも、彼女は中学校の友達に会うために京都に来たと言っていた。そんなに長い間友達のことを放っておいて良いのだろうか。


「元からずっとその子の家に泊まる予定でもなかったから大丈夫よ」


 彼女はお味噌汁を食べることを一旦諦め、ご飯とおかずに手を伸ばす。自分でも出来が良かったと感じたらしく、とても満足そうな笑みをこぼしていた。


「そうか。それなら良いんだけど」


 彼女の言うことが、僕にはどうしても腑に落ちない。

 そもそも、京都にいる間友達の家にずっと泊まるわけでないとすれば、彼女はどこに泊まるつもりだったのだろうか。


 僕と再会したのは偶然も偶然だし、ましてどこか宿泊施設に泊まるとすればかなりの宿泊代がかかるため、あまり現実的じゃない。

 僕はこれらの疑問の全てを彼女にぶつけてみたかったが、些細なことまで気になって詮索するようなことはしたくない。


 彼女の方も、あまり触れてほしくない話題なのか、それ以上何か僕に対して言ってくることもなかった。

 黙々とご飯を食べる夏音。少しだけ気まずい空気が流れる。僕は咄嗟にテレビのリモコンに手を伸ばし電源を入れた。


 さして見たい番組があるわけでもない。適当に流行のバラエティ番組に切り替えておく。

 二人してその番組を何となく見ながら食事を続けた。時々彼女がふふっと声を上げて笑ったり、出演者の発言にツッコんだりして、その場も和やかになった。


 時間が経つにつれ、お味噌汁から湯気が立たなくなると、夏音はようやくお椀を手にしてそれを啜り始めた。温かい方が絶対に美味しいはずなのに、猫舌の彼女は少し冷めてしまった味噌汁を美味しそうに何度も口に含んだ。


「友一、明日はどうする?」


 味噌汁を食べ終えた彼女が僕にそう訊いてきた。

 この夏僕らが一緒にいられる時間は限られている。だからこそ、二人でいられる今は一日一日の予定を大切にしなきゃと互いに思っていた。


「えっと、ごめん。明日は一日バイトなんだよなあ……」


 とはいえアルバイトのシフトを一か月前に出してしまった僕は、明日は一日働かなければならない。


「そう、それなら仕方ないわ。バイト頑張ってね」


 夏音は少し残念そうな表情をしたが、そこで駄々をこねるほど子供ではなかった。快くバイトに行かせてくれる彼女に心の中で感謝とお詫びをした。


「じゃあ、明日も何かご飯作って待ってる」


「ありがとう」


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