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05仕事が早いやつはそのうち暇になる

「やあグリオン君、なんか情報は抜けたかな」


 跳んだ先で忙しそうにしているグリオン君に声をかける。


 グリオン君の部下たちは記憶読取の魔法を使える。

 なのでダウンに跳ばした【ワンスモア】の構成員は、グリオン君の部下たちによって記憶を読み取られて情報を抜き取られる。


 さらに再現スキルを使うための装置や何か身体的な改造を行われていた特殊な薬物などを摂取していないかを容赦なく調べあげられる。


 人権には一ミリも配慮していない捜査だ。

 これは帝国内での法や倫理観では行えない、違法な捜査だ。外国人でかつビリーバー直下のグリオン君たちでないと行えない。


 これが帝国軍ではなくダウンに協力する大きな理由の一つでもある。まあ一番大きいのはスキルやらが絡むことならビリーバーのタヌー氏がいる魔法族と組むのが一番話が早い。


「なんだ貴様にしては遅かったな、かなりデカい情報が出たぞ。当たりを引いたな、今すぐ共有する――」


 グリオン君は僕に向けてそう言って、別室へ案内して説明を始めた。


 当たりとはあの『狙撃』持ちのやつだ。

 その内容は確かに、かなりデカい情報だった。


 まずは人造魔物の存在。

 まさかの【ワンスモア】はスキルの再現だけではなく、魔物の再現までも行っていたのだ。


 本当にかつての世界に戻そうとしているのか。


 この世界は二十年前まで、魔物という害獣が人類を脅かし。

 それに対抗する為に人類は全員スキルという魔法ではない能力を持っていて。

 ステータスウインドウというもので自身の能力値を何基準かわからない数字として見ることの出来るものがあった。


 それらは全て、魔力のない異世界の人類からの干渉によってこの世界に後付けされたシステムだ。


 異世界にある株式会社デイドリームという会社が、この世界を観測したことから始まり。

 GIS装置というものを使ってこちらの世界にやってきたビリーバーと呼ばれる異世界転生者たちによって、世界加速装置などを用いてまだまだ未熟だったこの世界の人類に干渉し知恵を与えて文明や文化が生まれた。


 しかし、株式会社デイドリームは解散しサプライズモア株式会社という会社が異世界研究を引き継いだ。


 サプライズモア株式会社はこの世界を異世界人類が楽しむための遊技場とする為に。

 わかりやすい敵である魔物と戦いをサポートするスキルとステータスウインドウを発生させる装置を、この星の魔力を用いて造り上げた。


 さらにそこからサプライズモア株式会社の計画も頓挫し、旧デイドリーム勢は異世界とこの世界の繋がりを断ち。


 最期のビリーバーとして何名かが、異世界転生を行った。


 そのうちの一人が僕の先生であるジョージ・クロス先生。

 セツナの勤める魔動結社デイドリーム初代社長リョーヘェ・タイラー氏。

 そして、魔法国家ダウン前国王タヌー・マッケンジィ氏である。


 旧デイドリーム勢はサプライズモア株式会社の遊技場計画には反対だったが、過干渉を避けるために魔物やスキルなどには能動的に干渉しなかった。


 だが現存するビリーバーであるタヌー氏には、二十年前にエネミーシステムとサポートシステムの破壊に協力をしてもらった。


 まあ、この辺は終わった話だ。


 閑話休題。


 スキルの再現はまだ理解が及ぶ、確かに利便性はある。

 ただ全人類がスキルを手にするには星の魔力を使い過ぎる。

 魔力との親和率が下がり過ぎてしまい無詠唱での魔法発動やらが出来なくなるし、星の魔力を使った様々な魔動機器が動かなくなる。


 まあでも、そんな不便をも超える利便性をスキルに見出している人間がいてもおかしくはない。


 だが魔物は違う。


 ありゃあ単なる害獣だ。

 人類を脅かす災害だ。


 事実、星の魔力が吸われすぎていたことだけでなく魔物の存在は確実に人類の進歩を妨げていた。

 居なくなってこの二十年で、文明レベルは飛躍的に上がった。


 そんな魔物までも再現……なかなかどうしてイカれてやがる。


 ただ現状のスキル再現方法は、かつてのサポートシステムと違って世界干渉ではなく個人に対してスキルを付与するものだ。


 【ワンスモア】が使用している再現スキルは具体的にはスキルを持っていた記憶を持つ人間の脳を取り出して装置に接続し、装置を携行して体に接続することでスキル再現を行っているというものだ。


 だから【ワンスモア】はスキルを持っていた満二十歳を超える人間の拉致を行っている。脳を再現スキル装置に変えるために、人を攫っているのだ。


 倫理的に終わっているが、この再現方法自体はビリーバーが造り出したサポートシステムの方法にかなり近い。


 だが人造魔物に関しては自動生成されるかつて魔物とは違い、動物や人間の死体をベースに魔力回路やらで行動パターンを書き込んで星の魔力で動かすものらしい。


 お粗末ではあるが、脅威であることは変わりない。


 そんな人造魔物を使って氾濫を起こし、人々にスキルの必要性を再認識させるテロを計画しているらしい。


 氾濫を起こすなんて、どれだけの量の人造魔物を用意してんだ。

 それに今まで潰してきた拠点には、人造魔物を保管しているところはなかった。


 つまり人造魔物を大量に保管している本拠地が存在している。


 そして本拠地の場所もわかった…………んだけど。


「――なるほどな……いやーそれ僕じゃあどうしようもないぞ。まあ対魔物戦自体はそれなりに出来るけど……それ本拠地叩かない限り何度も続くんだろ? 根本的解決にはならない」


 僕はグリオン君からの説明を咀嚼するように飲み込んで、率直に返す。


 場所がわかったんならさっさと跳んで、ぶっ潰してくればいいだけなんだけど。


 本拠地の場所が悪すぎる。

 地下二万メートルなんて比にならない、どうやってそんなところに拠点を作ったんだって思う。


「その通りだ。現在タヌー上王陛下にも知恵をお借りする為に報告をまとめているが、タヌー様もご高齢だからな。ご自身で動かれることは出来ないため、我々で動くことにはなるのだが」


 グリオン君は僕の返事に、煙草に火をつけながら肯定を示す。


 まあそうだね。

 タヌー氏もだいぶ歳をとった。僕らが五十近いのならタヌー氏は幾つなんだって話だ。


 まあでも、こんなスキルやら魔物やらなんて話は僕らの世代までで終わらせておきたい。


「ビリーバーの知識や理論はまだまだ僕らじゃ再現性を持たせられないからね……まあそれに関してはタヌー氏に任せるよ。必要なら呼んでくれ、手伝うよ。さて、そろそろ帰るよ。晩御飯の支度がある」


 僕はグリオン君にそう告げて立ち上がる。


「ああ、また手が空いたら声をかけてくれ。緊急性を要するときはこちらから連絡する」


 グリオン君は煙草をくゆらせながらそう言ったところで、僕は自宅へと跳んだ。


 そこからしばらくは、リーシャ嬢に基礎的な戦闘を教えたが。


 どうにもリーシャ嬢は天才の類いみたいだ。


 反応速度を用いた我流の戦い方をするのはブライに近いが、性格は勤勉で努力家で若い頃のジャンポール君に近い。まあジャンポールは最近怠ってるからな、あいつマジで偉くなってから鍛錬が足りてねぇ。


 飲み込みも早い、真面目で一度教えると次に会う時までにかたちにしてくる。根性もあるし教えがいがある。


 昔ギルド職員だった頃に仲間たちへ色々と講習をしていたのを思い出す。


 みんな天才だった。

 各々みんな特別な才能があって、少し教えただけであっという間に強くなった。


 でもあの頃はみんな魔力との親和率も低かったし、魔物もいたしスキルもあったから教えられないことも多かった。


 今は親和率も上がっている。

 僕の知っている基礎は、全部教えられる。


 合気ベースの身体操作。

 戦闘状況自体の流れの汲み方。

 分析と攻略の思想。

 戦術戦法戦略。

 魔力操作と想像力具体化の為の知識。

 集中魔力感知、光学迷彩、気配隠匿、消滅魔法、魔法融解、疑似加速……まあこの辺りは調子に乗って教えすぎた。

 魔法拳での有用な戦い方も僕なりに考えてみたりしたり。


 みっちり一ヶ月間、疑似加速も併用して体感としては何十倍の時の中で訓練を続けて。


 状況によってはブライくらいにならギリ勝てるくらいに、リーシャ嬢が仕上がって来た頃。


 全帝国総合戦闘競技選手権大会のベスト4が決まったあたりで。

 ついに【ワンスモア】は大きな動きを見せて。


 世界は混乱へと陥れられるのだった。


 まあつまり、僕の出番ってわけ。


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