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05エピローグ

 ライト帝国セブン地域東部、トーンの町。


「よし、じゃあ俺全帝決勝見たいからそろそろ帰るわ。いやー余剰魔力買い取ってくれんの助かるから、また呼んでくれ。微妙な距離だが『魔動二輪』走らせるにはちょうどいい感じだし、天気悪くなきゃ大体応じるからよ」


 特殊体質の郵便局員は、そう言って去っていった。


「はい、こちらこそありがとうございました!」


 研究員の女は礼を言って見送り。


「難儀な体質だな……、コンディションが安定しないってのはしんどいだろ。わざわざこんな田舎まで……、良い奴だ」


 その様子を見ていた眉毛のない赤い自動人形が言う。


「うんファイブさんのおかげで『黒』の起動後稼働用魔力を溜めることができた。これで『黒』と……ジョージ氏と話せる……うわー緊張するけど起動シーケンスをスタートするよ」


 赤い自動人形に返しながら、研究員の女は黒い大きな箱に手を当てて作業を始めた。


 彼女は例のテロ事件に巻き込まれ狙われていたので、このトーンの町で保護されていた。

 テロ組織は壊滅したものの、帝国は狙われる理由となったその研究内容の扱いに困り現在もトーンの町の駐屯地で保護を続けられている。


 研究機材なども運び込まれ、生活費や必要なものに関しては帝国から支給されていて、不便は特にはないのだが人が居ないので魔力提供者を募ることが出来なかったが。


 山向こうのエイト地域で暮らす特殊体質の郵便局員に協力を申し出たところ、快諾されたのだった。


 そして、研究員の女の作業は完了し。


「……………………事情の説明はお嬢ちゃんがしてくれるのかい?」


 黒い箱から出てきた黒い気怠げな自動人形は、辺りを見渡して状況の把握に努めながら尋ねた。 


「はい……この度は勝手に蘇らせてしまって、申し訳ございませんでした――――」


 研究員の女は、謝罪から状況を語った。


 この黒い自動人形がなぜ動くのか。

 なぜ動かされているのか。

 ここが何処なのか。


 しっかりと事情を説明した。


「――――まあなるほどな……それで俺が生き返ったってわけか……なかなかお嬢ちゃんマッドだな、倫理観とか宗教観とかどうなってんだ……自分を棚上げする気はないが……流石に引くぞ」


 足を組んで椅子に座り、黒い自動人形は自身の存在ついての話を聞いて慄きながら感想を述べる。


 ここは、かつて冒険者ギルドだった建物。

 今は帝国軍直轄の駐在所となっている場所だ。


「はい……すみません」


 研究員の女は黒い自動人形の言葉に謝罪を重ねる。


「……しかしおもしれえな。残留思念による記憶の引き継ぎと思念伝達で形を変える合金による容姿の再現か……吉良之巣とかがやってたプレイアブルアバターの完成形みたいなもんだな。あれは馬鹿なスペックだったが、こっちはスペックが残留思念に依存するんだもんな……ふむ」


 黒い自動人形は戸惑いながらも、自身の存在に関して感心し。


「まあ蘇っちまったのは仕方ねえ、死に際は選べるが生まれは選べねえからな。協力してやるよ、研究に。俺が死んでから三十五年以上経ってるし、技術もかなり発展してるみたいだから多少俺が動いても影響が少ねえだろう」


 落ち着いた様子で、研究員の女へ語りを続ける。


「この残留思念ってやつの消費期限を俺とそっちの赤い眉なしとでデータに取れ、恐らくだがこれは不老不死のような便利なもんにはならねえ。どのくらい持つかはわからんが、期限はあるだろうな」


 自身の存在について、冷静に分析した内容を告げる。


「へえ、そりゃあ良かった。流石に不老不死はきつかったからな。安心した」


 黙って話を聞いていた赤い自動人形が言う。


「ああ、詳しいことは省くが思念が魔力に溶けて現象へと昇華されきったら終わりだな。オカルト的に言うんなら、生前の悔いを晴らして成仏するみたいな感じだろう」


 赤い自動人形の言葉に黒い自動人形は軽く推測を述べて。


「とりあえず魔力供給と稼働時間の問題は……」


 早速、改善に向けた提案をしようもしたところで。


「あ、それは一応こんな感じで解決しようと思ってます」


 研究員の女は、まとめておいた改善案を手渡す。


「………………お嬢ちゃん、名前なんだっけ?」


 手渡された書類をじっくりと読んで、黒い自動人形は尋ね。


「ソフィア・ブルームです」


 研究員の女は名乗る。


「ソフィア、おまえはもう少し天才を自称しろ。周りがおまえのイカれっぷりに気づけない」


 名指しで、黒い自動人形は独特な褒め方をする。


「は、はあ……」


 よくわからず、困惑しながら研究員の女は受け止めた。


「つーか俺が死んでた三十五年で何があったのか知ったほうがいいな……この『小型賢者の石』ってのとか技術の進歩がやべえし、セブン公国がなくなってんのは良いとしてエネミー……魔物やらスキルやらもなくなってんのはちょっとヤバすぎる」


 自身の存在を受け入れ、本格的にこの時代についての情報を黒い自動人形が欲しがったところで。


「――それは僕が説明します」


 そう言って、突然転移魔法で現れた灰色の髪に鈍色の垂れた目で黒いスーツの男がそう申し出る。


「あ? 誰だてめえ、野郎が勝手に入ってきやがって勝手に話しかけてんじゃねえぞ。畳むぞコラ」


 黒い自動人形は突然の来訪者に凄む。


「……あ⁉ クロウか……! あんま変わってねえけど髪の色と目の色変えたのか……?」


 赤い自動人形は鈍色垂れ目との再会に驚きを見せる。


「ああ久しぶりだねアカカゲ、髪と目は元に戻したんだ。ギルド時代の方が染めてたんだよ」


 穏やかな笑顔を見せて鈍色垂れ目は返す。


「……………………!」


 そのやりとりを見て、黒い自動人形はそれに気づいて目を丸くして驚く。


「お久しぶりです。クロウです、今はクロウ・クロスと名乗っています」


 鈍色垂れ目は、黒い自動人形に名乗る。


「てめ、……はあ…………。とりあえず酒でも注げ、話を聞かせてもらおうじゃねえか……馬鹿ガキ」


 笑みを噛み殺し、歪んだ優しい顔で黒い自動人形は言う。 


「はい……先生」


 鈍色の垂れた瞳を細めて、酒瓶を片手にそう返し。


 かつて終わったはずの物語からはみ出した無様で蛇足な再会を、心から喜んだ。



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