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第140話 特別クラスの課題

―――無事にクラス内の班分けが終わり、八雲はフォウリンの班に入ることになる。


「それでは同じ班になったのですから、改めて挨拶させて頂きますわ。わたくしのことはもうよいでしょうから、まずはこちらの―――」


フォウリンの示した女生徒が会釈してから、


「初めましてエルカ=シャルトマンと申します。十八歳です。フォウリン様の身の回りのお世話を仰せつかっております。どうぞよろしくお願い申し上げます」


セミロングの青い髪をした緑の瞳、整った綺麗な顔立ちをした少女が丁寧に八雲へとカーテシーをする。


「九頭竜八雲だ。こっちこそよろしく」


(ミニスカート制服のカーテシーはヤベェ……白い太腿眩しい!)


次に隣の男子生徒が会釈する。


「わたくしはカイル=ドム・グレントと申します。フォウリン様の護衛としてお傍に仕えております」


赤い髪に茶色い瞳をした凛々しい顔立ちの男子生徒が八雲に礼儀正しく頭を下げる。


「護衛の騎士って訳か。まあ公爵家のご令嬢だったら、そのくらい当然だな」


「カイルは剣の腕も優れていますがフレイア様の元で結界魔術を学び、その実力もお墨付きですわ」


「いえ、わたくしなど『女神』フレイア様の足元にも及びません」


「はぁ、『女神』ねぇ……確かにあの結界は凄かったからな」


八雲は『終末』の光を抑えたというフレイアの結界を思い出していた。


「そして最後に彼が―――」


「イシカム=オチエと言います。魔術が得意なことが切掛けで特待生にして頂きました。フォウリン様には同じクラスになってからお世話になっていて、今回同じ班にも誘って頂きました。足を引っ張らないよう頑張ります」


眼鏡をして長い藍色の髪を首の後ろで一纏めにした線の細い美少年が八雲に挨拶した。


「魔術が得意なのか。そっち系の課題が出たら、こちらこそよろしく頼むよ」


「え?ですが……陛下からもの凄い魔力を感じるのですが?」


「八雲でいいよ。でも分かるのか?俺は魔力については膨大にあるんだけど、魔術のコントロールが下手なんだ。だから火球レベルの魔術で山が吹き飛ぶ威力が出たりする」


「エエッ!?なにをどうすればそんなことに……」


「俺が訊きたいよ……」


お互いに引きつった表情で苦笑いを浮かべる八雲とイシカムを見てフォウリンがまあまあと宥めると、そこでラーズグリーズがパンパンと手を叩く。


「班分けは決まりましたか?大丈夫のようですね。では!!今月の一つ目の課題を発表致します!」


ラーズグリーズがクラスを見回して無事班分けが出来ていることを確認すると、そこで課題を発表する。


「今月一つ目の課題は中位魔術の会得です。属性は問いません。班の中で魔術が得意ではないという方もいるでしょうが、その方をどう教えて導くかも重要な点です。なお、既に班の全員が行使できるという班は私のところに試験の申し出をしてください」


「―――中位魔術か!俺は大丈夫だな!」


「俺、下位魔術も不安定なんだけど……」


「―――なんですってぇ!死ぬ気で頑張りなさいよ!」


クラス内では早くも魔術得意派と苦手派で声が上がっている。


「―――八雲様は中位魔術は大丈夫ですか?」


フォウリンが八雲に問い掛ける。


「ああ、発動するのは大丈夫だ。結果は知らんけど……」


「―――それは大丈夫ではないのでは!?」


驚くフォウリンだが、カイルは障壁系の中位魔術なら余裕だということで、イシカムも問題ないそうだった。


「ところでそう言うフォウリンは使えるのか?」


八雲が逆に問い返すと、


「勿論♪ イシカムにも普段から魔術について教えてもらっておりましたので、中位魔術なら大丈夫ですわ」


と、余裕のある表情で返してくるので、この班は問題無さそうだと思っていたら、


「あの……わたくし中位魔法はまだ……」


と、エルカが自信なさ気に申告してくるので八雲とフォウリン、カイルとイシカムは顔を見合わせる。


「それじゃエルカは頑張って習得しよう。練習すれば大丈夫だ」


「申し訳ございません!早速、足を引っ張る真似をしてしまいまして!」


フォウリンに必死の表情で頭を下げるエルカだったが、フォウリンは笑顔を浮かべて、


「どんな課題が来るかは誰にも分かりませんし、この先は私達が出来ない課題があるかも知れません。気にしないで」


とフォローして、エルカは涙目になりながらも感謝の言葉を返す。


「皆さま、ありがとうございます……」


エルカは皆で何とかするとして八雲は気になるヴァレリア達の方を見てみると……


まるでお通夜のような表情を浮かべて、八雲の頭の中ではチーン……という音が響いて聞こえた。


「どうやら姫様達はかなり厳しそうな顔をされていますわね……」


「すまん。もしかしたらイシカムにコツを教えてもらうことになるかも知れん」


そう言ってイシカムに両手を合わせて拝んでいると、


「あわわ!?ちょっと、そんな風に頭を下げなくても僕で出来ることなら手伝いますから!」


と皇帝の拝む姿に驚いたイシカムがワチャワチャと両手をバタつかせて八雲に頭を上げるよう促す。


「それじゃあ、向こうの班と話しをつけよう」


そう言ってヴァレリア達に向かおうとした矢先、八雲の前にラーズグリーズが立ちはだかる。


「はい!ストーップ!!他の班への干渉は許可できません」


「ええ?同じクラスなのに?」


「それを言ったら班分けする意味がないでしょう?」


「それも……そうか」


ラーズグリーズの言い分に八雲も渋々だが納得してしまう。


「世の中にでれば限定的な人材の中で最大のパフォーマンスを求められる時があります。いつでも最高の環境を整えられる訳ではありませんから。彼女達は彼女達の中で解決していかなければなりません」


「分かりました。ラーズグリーズ先生」


まるで捨てられた子犬のような瞳を向けるヴァレリア達のことを横目に、八雲はラーズグリーズに従うことにした―――






―――その頃、中等部では……


編入した中等部のクラスで挨拶をするヘミオスとコゼローク。


「初めまして。わたくしはヘミオスと申します。この度、この栄えあるバビロン空中学園に編入出来ましたこと、そして皆さまにお会い出来ましたことを大変嬉しく思っておりますわ。これからどうぞよろしくお願い申し上げます」


そう言ってニコリとあざとい笑みを浮かべると、ヘミオスにクラスの男子達は一瞬で恋に落ちていた……


「コゼロークと……申します。どうか……よろしく、お願いします」


冷静な表情と口振りで挨拶をするも、何故か保護欲をくすぐられた女子達は、「守らなくちゃ!」と思った……


そんなふたりをジッと野獣のような瞳で見つめる少女がひとり……


「……」


彼女の名は―――アマリア=天獅・ライオネル。


シュヴァルツ皇国となったエレファン公王領のエミリオ王とティーグルに嫁いだアンジェラ王女の実妹にして第三王女であり、レオンがイェンリンによって八雲に紹介してもいいか訊かれていたヴァーミリオンに留学している王女である。


「あれが……ねぇ」


アマリアのところにはイェンリンから八雲に紹介する件とバビロン空中学園に通うことになる姫達や配下のことについて書状が届いていたので、目の前の挨拶をしているふたりが黒神龍の龍の牙ドラゴン・ファングであることは既に知っていた。


茶色の癖毛をした長髪を後ろでポニテ―ルにしたアマリアの青い瞳が鋭くふたりを睨みつける。


「これから、おもしろくなりそうね……」


無表情のままでひとり、そう呟くアマリアだった―――






―――そして幼年部では、


「はぁい♪ 皆さん、今日は新しいお友達が増えましたよ♪ さあ、ご挨拶しましょうか」


幼年部の教室にアムネジアがシェーナ達チビッ子四人組を連れてきて、既に通っている幼年部の子供達にシェーナ達ひとりひとり挨拶をしてもらう。


「あのね、あのね、ルクティアでしゅ」


「えへへ♪ レピスなの~」


「ふぁあ……トルカ……」


「……」


シェーナは相棒のクマのぬいぐるみがお辞儀して、それを幼年部の子供達はボォーと見つめていたが別に問題ない様子、いや挨拶が斬新過ぎて幼児達はついてきていなかった……


「はぁい♪ シェーナちゃんもクマさんがご挨拶してくれてありがとうね♪ 皆さん仲良くしましょうね♪ さあ、それでは今日はみんなでお歌の練習をしますよぉ~♪」


さりげなくシェーナの名前も教えながら、アムネジアが幼年部クラスの先生と示し合わせて交代し、みんなで合唱の練習へと入る。


幼年部の校舎に可愛らしい歌声が響き渡り、その様子を見て研修しているダイヤモンドの口元は緩みっぱなしだ。


隣でその様子を見ていた白雪は、自分の配下の頭を張る立場の者がこれでいいのかと、少し真剣に悩み出していた……






―――そして高等部の一般クラスでは、


「なんだよ、あの乳は……」


「あのスカートやばいぞ!尻のラインがピッチリ出過ぎだろ!」


教壇に立ち、黒板に向かって一般クラスの必須科目である魔術理論についての授業を行っているクレーブスの背中越しに生徒達のヒソヒソ話が耳に入ってくる。


(―――もう!絶対恨みますよ!!八雲様!!!)


授業を行いながら、終始頭の中では八雲への恨み言を唱え続けていたクレーブスは、その『女教師』スタイルに、この日は最後まで主に男子生徒の注目を集め話題をさらい続けた……






―――そして放課後。


幼年部は一番早く終わるため先に紅龍城に帰らせ、中等部と高等部の面々は共に紅龍城に戻っていた。


「それで?初日はどうだったのだ?」


紅龍城の談話室に集まった面々にイェンリンが問い掛ける。


「―――クラスにフォウリンというアイン家の三女がいたけど?」


「ああ、フォウリンはパトリシアの下の妹だな。昔から余について回ってよく懐いていた子だ。パトリシアも優秀だが次女のアムネジアも学園の幼年部の校長になり、フォウリンもそんな姉達を尊敬していると言っていたな」


「ラーズグリーズ先生がいきなり班分けなんて言い出すから戸惑ったけど、すぐに誘ってくれたからハブられずにすんだよ」


「ふふっ、課題の班分けとかいうやつか。グループ課題というのは協調、協力の意識を培うのが目的だからな」


「まあ、おかげで馴染めそうな感じだが……」


「あ奴等はどうしたのだ?口をポカーンとさせて、まるで魂が抜けたような顔をしているが?」


同じ談話室の別のテーブルを囲っている雪菜とヴァレリアとシャルロットがまるで人形のように呆けた顔をしていることにイェンリンがツッコミを入れる。


「いや、今日出た課題が中位魔術の発動だと言われたんだけど、俺がフォローしようとしたらラーズグリーズ先生に止められてさ。それじゃあ班分けした意味がないって」


「なるほど……確かに他の班が手を差し伸べたら班に分けた意味がない、というか班の中で解決するのが目的だからな。ユリエルは問題ないのか?」


「ユリエルは元々中位魔術使えるらしい。雪菜はlevelが壊滅的だったり、ヴァレリアとシャルロットもlevelは雪菜と似たようなものだったりで、今に至っている」


「ブリュンヒルデがついているのだから、そう心配することもあるまい」


「そうだな。でも少し問題に感じていることがある」


「ん?なんだ、それは?申してみよ」


八雲の問題という言葉にイェンリンが過敏に反応する。


「いや、ここから通学するのが遠いと思ってさ。なぁイェンリン。あの浮遊島に土地とか持ってないか?持っているなら俺に売ってくれないか?」


「なにぃ?―――土地を買いたいだと?ふむ……確かに毎朝馬車であの距離を通うよりは上に屋敷でも建てた方が楽だな」


「そうそう!あと、出来たら丘か山も一緒に買いたいんだけど」


「なに?山まで?一体何に使うんだ?」


「そこに船渠ドックを作ろうかと思って。山を割って発進する天翔船とかカッコよくない?」


「なにそれ超カッコイイ!―――よしわかった。余が所有している土地から条件に合いそうな土地を見繕ってやろう。その代わり条件がある」


イェンリンのこの笑顔に八雲はいい思い出がない……だが恐る恐る問い掛ける。


「条件?……なんだよ?」


「―――余に天翔船を建造するのだ!!」


バン!と机を叩いて立ち上がり、ムフー!と荒い鼻息を八雲に噴き掛けるイェンリンの勢いに気圧された。


「はぁ……土地も用意してもらうし……分かった」


「―――まことか!!」


「ああ、但し俺も条件、いや絶対に協力してもらいたいことがふたつある」


「―――なんだ?申してみよ」


「まずひとつはフロックとその配下にいるドワーフ達に協力してもらうこと。黒翼シュヴァルツ・フリューゲルも俺ひとりで造った訳じゃない。シュティーアとドワーフ達が一緒に頑張ってくれたから出来た。だから協力は絶対に必要だ」


「フロックなら八雲の造る物に興味を持っていたからな。分かった。余からフロックに話しておこう。もうひとつはなんだ?」


「紅神龍の鱗を用意して欲しい。俺の船の装甲はノワールの鱗を用いている。イェンリンだって紅蓮の鱗で造った船の方がよくないか?」


「―――無論だ。余の長き生涯の半身だからな。それもフロックが剥がれた鱗を大量に保有しているから問題ないだろう」


「よし!―――これで話は決まった。まずは土地だな」


「では明日の放課後に余も浮遊島に出向こう。土地はそれまでに見繕っておく」


こうして浮遊島に土地を購入することになった八雲。


「話しは終わったのか?また楽しそうな顔をしているな」


そんなところにノワールがシェーナを抱いてやってくる。


「ああ。浮遊島の上の土地を売ってもらうことにしたんだ。此処から通学するのは遠いしな。土地に屋敷を建てたら今度からはそこから通えるし、此処からよりずっと近くなる。ノワールもそれならチビッ子達の送り迎えしやすいだろう」


「本当か!!よかったなぁ♪ シェーナ!新しいお家に行けるぞぉ~♡」


「おうち?」


ここがお家じゃないの?といった風に可愛く首を傾げるシェーナだったが、ノワールはそんなシェーナのプニプニの頬っぺたに頬ずりしている。


「さてと……それじゃあ、ルーズラー君の様子でも見にいくかな」


レオとリブラに任せたルーズラーのサバイバル生活の様子を見に行くことにした八雲だった―――



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