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「問答」2

 「まーそんなことを…言ったような、そうでもなかったような」

 「惚けても無駄だ。やはりお前は怪しい。

 ...そういえば、『救世団』の中で一人モンストールとともに廃墟の崩壊に巻き込まれて、死亡したことにされたと聞いたことがあるのだが...っ!まさか、お前...!?」


 おっと中々勘が良い兵士さんだ。そろそろ逃げるとしようかな。


 「お前、名前は?場合によってはお前の身柄を預からせてもらうことになる。名乗れ!」


 リーダーっぽい男が名乗りを促す。


 「……」


 俺は無言のままでいる。


 「身分を明かすと困るようなことでもあるのか?」


 顔を険しくさせて問い詰めてくる。後ろにいる兵士たちはいつでも動けるよう構えている。

 張りつめ出した空気に嘆息した俺は、仕方なしにと、答えた。


 「俺はテメーらの言う救世団……異世界から呼び出された集団の一人、だった男だ。ドラグニア王国だったか、その国の命令で行かされた実戦訓練の途中で仲間……というか、同行していた集団に見捨てられて……色々あってここに戻ってきた」


 俺の曖昧な説明を聞いた兵士たちはどよめき出す。俺が生きていることが驚愕だとか、異世界人だとかで俺を変なものを見る目をしている。


 「我々はドラグニア王国とは違う国の兵士団故、その国の詳しい事情は知らない。彼の国が異世界召喚を行い、モンストールに対抗する組織を創り上げたが早々に一人がモンストールの手によって死んだとしか聞かされていない。

 だがお前は、死んだとされていたあの異世界の人間で間違いないのだな?」

 「まぁ、一応そうだけど」


 リーダー兵は腕を組んで思案し出す。10秒経ったところで奴が俺の顔を凝視して声をかける。


 「お前が何故死んだ扱いになっていたのか、国が行った実戦訓練で何があったのか………お前は何者なのか、我々の国に来て色々訊かせてもらうことにする」


 リーダー兵は鋭い視線を飛ばしてそう言った。俺が普通の人間ではないことを察知した様子っぽいな。俺を国に連れて事情聴取か何かをさせるつもりらしい。めんどい展開になってきた。

 せっかく一人に、あのクソな国の所属を辞めて(実際は捨てられたが)自由になったというのに、まためんどいことさせられるのか?

 嫌だ、行きたくない。煩わしい。

 そうだ、逃げよう。今の俺にはそれが出来る力があるのだから。


 「同行を断ったら?」

 「悪いが強制連行させてもらう。ここはサント王国の国境内だからな。我々の管轄内だ」


 これも仕事だからなと、リーダー兵が俺を捕まえようと魔法を放つ構えを取った。他の兵士たちも動いて俺を囲んだ。


 「はぁ、やっぱり。人の都合なんてお構いなしだな、警察みたいだ」


 ダメ元で交渉してみるか。


 「頼む。今回、俺がここにいたことはお前らの上司、王族、国王とか誰にもチクらないでくれないか?俺はこれから一人でこの世界を適当に旅しようかと考えてるから」


 軽い調子で頼んでみる。


 「そうしたいのならまずは我々の用を済ませてからにしろ。旅がしたいのならその後でも良いだろう」


 断られる。頭硬いなー。テメーらの都合に付き合いたくねーんだよこっちは。

 俺がため息つくのと同時に、周りにいる兵士のうちの誰かが俺を見ながらこんなことを口にした。


 「そういえば、その死んだとされていたこの男、何でもいちばん弱くて“ハズレ者”だとか、大した損失ではなかったとドラグニアの者が言っていたような」


 ――“ハズレ者”。かつて俺の蔑称としてつけられたその単語を聞いて、俺はまた溜息をつく。

 随分と久しぶりに聞いた不名誉極まりない呼称だな。元クラスメイトにも、兵士らにも、クソ王子にもそう呼ばれてたような。

 よし決めた。

 俺は不機嫌オーラをあからさまに放ってリーダー兵に話しかける。


 「テメーらのお縄にはつかねー。国には行かない。テメーら感じ悪いし。お断りだ」


 それを聞いたリーダー兵は眉をひそめながらそうかと呟き、


 「あの男を捕らえる『拘束』」


 白い縄のようなものを俺に放ってきた。同時に周りの兵士たちも駆け出してきた。

 というわけなので、俺は軽く伸びをしてから足に力を入れて、


 「じゃあな」


 “瞬足”


 地面を蹴ってその場から飛び去って行った。



 「な……消えた?」

 「男の気配が……もう無い」

 「一瞬でここから消え去ったというのか!?なんて速さだ!」


 兵士たちが狼狽える中、リーダー兵は苦い表情を浮かべて魔法を解いた。


 「あの男、どうやってここに来たんだ?ドラグニア王国はこことは別の大陸にあるというのに。海を渡ってここに来たのか、あるいは――」


 リーダー兵は草原の端…崖となっている場所へ目をやる。


 「地底を移動してここに?いやあり得ない、地底は人族なら死に至る瘴気が蔓延している。そこを伝って大陸から大陸へ移動するなど……」


 奴は何者なのか、と消えた皇雅に疑念を抱きながら、彼は仲間をまとめて、今の出来事を兵士団長に報告すべく帰還することにした。


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