兵士の包囲から容易に逃れ、はるか遠くへ離れて撒くことに成功する。
人一人いない道を歩きながらこれからどうするか考える。
「今更だけど、ここはドラグニア王国がある大陸とは別の大陸らしいな」
さっき絡んできた兵士団のリーダーが言っていたな、ここはサント王国の国境だと。
地上に戻ってきたは良いが、いつの間にか全く別の大陸へ移動していたようだ。地底を考え無しに駆け回ったからな、海を越えてこんなところに来てしまっていた。
ドラグニア王国に戻るには海を渡るか、また地底へ潜って移動するか…か。
「異世界…チート主人公……旅、冒険………」
まず何をしようかと思い、現代世界で読みまくった異世界ファンタジーを参考に色々考えた結果、行きついた答えは…
「やっぱ、冒険稼業かな。まずは生計を立てようか」
ゾンビになったこの身は飲まず食わずでも死なないようになっているが、人間らしい生活はしたいと思っているので、まずは衣食住を確保することを決めた。
そうと決まれば、行先は冒険者ギルドがある村あるいは町…もしかすると国になる。
国の場合、たぶんサント王国だろうな。この顔のまま入国するとまずいな。そうなったら変装しなければな。
色々考えながら小道を歩き続ける。
30分程歩いたところで村に着いた。カルス村とかいう名の小さな村だ。
小さな村といってもここは冒険者たちの宿地や物資補給の場として栄えている場所だ。
村の人口は少ないが冒険者たちがよく出入りするから割と人がいる。見た感じは歴戦の猛者っていう強い奴はいない。中級レベルの連中がほとんどだ。
だから装備が貧相な奴は却って目立つようだ。ま、俺は運が良いというかなんというか、ドラグニア王国の支給装備のお陰で目立つことはなかった。といっても今は大分ボロボロだけど。
「金が……無い」
文無しのまま実戦訓練へ遠征したから金は一銭も無い。金目のものも無い。だからまともな服に替えることが出来ない。
困ったと頭を悩ませていると、男女数名が俺のところに来た。
「随分ボロボロだな。クエスト帰りか?見るからに金も装備もロクに無いようだが」
パーティのリーダーっぽい髭男が問いかけてくる。咄嗟に話を合わせることに。
「実はそうなんだ。ギリギリ敵を倒した時にはもう色々失くしてしまってね。体力も所持品もほぼ底をついた状態なんだ。この村に来たのもやっとってところでね。ギルドに戻る途中なんだ」
「なるほど。まだ若いようだが、あまり身に合わないクエストを受けるもんじゃねーぞ。早死にしちまう。
仕方ねーからこれで新しい装備を買って無事に洞窟抜けてサント王国に帰るんだぞ」
髭男は俺の姿をやや憐れに見て、その同情か何かの情けで俺に装備一式を揃えられるだけの金を分けてくれた。
「恩に着るよ」
礼の言葉に手を振って立ち去る際、彼の仲間たちは俺を見てクスクス笑って行った。
「別にあの少年のことどうでもいいくせに。そうやって周りに自分の印象を良くさせるの好きだよねー」
「はっはっは。弱い奴に情けをやるのが強い奴だろうが。さぁさっさとあの洞窟抜けてサントへ行くぞ」
……どうやら親切心というよりは、自分の為に俺に施しを与えたってところか。まぁそっちのほうが信用できるってものだし、警戒しないで大丈夫だな。
周りの冒険者連中はそんな俺を見てクスクス笑っている。冒険者に施しを貰う冒険者は下に見られるようだ。
そんな嘲笑を無視して早速新しい装備を買う。マントのような羽織るもの、その下は無地のシャツ、運動ジャージっぽいズボンみたいなのがあったのでそれを履く。靴は革ブーツみたいなものしかなかったが、どういう造りをしたのか、運動シューズと変わらない履き心地だったのでサイズが合ったのを購入。とにかく動きやすさを重視して買った。
因みにお金についてだが、この世界では全王国・町・村で共通貨幣が導入されている。通貨名称は「ゴルバ」といい、赤・銅・銀・金の4種類の硬貨となっている。赤1枚=日本円でいう10円硬貨と同等の価値のようだ。そこから、銅1枚=赤10枚、銀1枚...と続く。
さっきの冒険者から貰った金額は大体銀10~20ゴルバってところだ。
見た目は他の冒険者たちに比べて質素だった為、またも周りから笑われる。
服を新調した以上、ここに用は無い。
「サント王国へ行くなら、途中洞窟を抜けなければならない。そこには、モンストールは基本現れないが、獣種や蟲種といった“魔物”が出てくる。レベルもそこそこ高いから、十分に準備しておけよ」
服を売っている店の人からそんな情報をもらう。この世界にはモンストール以外に、魔物という敵もいるらしい。
モンストールが発生する前の世界は主に魔物をクエストや任務で討伐していた。今はそれに加えてモンストールとも戦わなければならないからこの世界はけっこう冒険者業が儲かるらしい。
それを聞いて俄然冒険者になろうと決意した。しばらくは冒険者としてこの世界を見てみるのも良いだろう。そのうち元の世界に帰れる方法も見つけたいところだ。