……………ん?
「え、あんたらってもうこんな危険地帯から出て行こうとはしねーのか?」
予想外のセリフを聞いて思わず尋ねる。藤原も同じ意見らしくびっくりした顔をする。
「さすがに危険地帯の真ん中に里をつくるのはもう避ける。この地帯と安全な地帯の境目に里を新たにつくるつもりだ」
「パルケ王国に帰らないのですか?感染拡大の恐れは無いのですよね?それに数か月後には病で体が動かなくなるでしょうから、国に帰った方が良いはずです!」
「………さっきも言ったが、俺たちはディウルと彼を支持する国王派の者たちと壮絶な仲違いをしてしまった。
故に、その……正直、会わせる顔がないというか」
ダンクは言葉をどもらせて顔をそむける。他の亜人たちもダンクと同じ気持ちなのか、同じようなリアクションをしている。ダンクの意外な反応を見たみんなは物珍しそうに彼を見た。
「ですが、こんな危険過ぎるところでまだ生活しようとするのは見過ごせないです。何よりも……ディウル国王は、あなたの身を案じていましたよ!」
「―――――」
藤原の一言を聞いたダンクは少し動揺する。思いの外効いたようだ。が、それでも帰らないという意思は覆らないみたいだ。
「甲斐田君、どうすれば良いかな?」
藤原が困った顔で俺に振る。
「しっかりしてくれよ、先生だろ?年下の俺に振ってくれるな」
「そうだけど…いえ、甲斐田君ってこういう場面の解決策思いつくのが得意な子だわ!一緒に旅して確信してるわ。まだ日は浅いけど」
「こういう場面って……。けど、まあ……」
何も思いつかないことはない。一つ、案が浮かんだ。
「なら、人族の大国・ハーベスタン王国に移り住むってのはどうだ?」
俺の提案にダンクたち全員が俺に注目する。
「あんたらは知らないだろうからまずは知らせから―――最近あの国にモンストールが100数体襲撃するという事件が発生した。規模は今回以上だった。魔人族はいなかったけどな。俺たちがそ偶然その国にいたから壊滅は免れたものの、それでも被害の爪痕は大きなものだった。多くの兵や冒険者を失ってしまい国の戦力が大幅に下がってしまっている」
「そんな出来事が…。しかし、それが何だというのだ?」
「そこで、あんたらの番ってやつだ。災害レベルの敵とも互角もしくはそれ以上に戦えるあんたらが来てくれれば、ハーベスタンの戦力はある程度持ち直せると思う。どうだ?今度はあの国を守ることと、その身を療養するっていう目的であの国へ移住するのは良い案だと思わねーか?ハーベスタンの人間たちとは一応友好関係なんだろ?」
「む………」
ダンクは黙考する。悪くない反応だ。もう少し詰めてみるか。
「こんなところで生活を続けてたら、早死にするぞきっと。余命が短いとは言え、藤原の言う通りここから出て行った方が良いと思うぜ」
「む、う…」
「それに、俺たちがいる以上あんたらが半年後に死ぬことは限らなくなってるんだよなー。だから可能性はまだあるぜ」
このセリフを聞いた亜人たちはどよめく。藤原も同じ反応をしている………いや、あんたは堂々としてろよ。
「あとはそうだな………あれだ、万全な状態になれてれば、いずれくるだろうディウルたちの危機に颯爽と駆けつけて敵を返り討ちにしまくることもできる。あいつらにはあんたらが最強ヒーローに見えることだろう。最高にカッコいいシチュエーションをつくれるぜ!どうよ!?」
バトル漫画のノリの提案をして笑ってみせる。アレンも藤原も楽しそうに笑う。
「最後のは、よく分からないのだが……ハーベスタン王国か…」
ダンクはやや戸惑いを見せた顔で思案を続ける。そこに藤原が俺の提案に乗っかる。
「甲斐田君の提案に賛成です。ディウル国王たちのことを大切に想っていらっしゃるのなら、彼らの傍で護ってあげるべきだと、私はそう思います。
それに、私だったら……自分の知らないところでその人がずっと身を削って戦っていたことを知るのは、辛いです。たとえ護る為だったとしても。その人が家族もしくはそれに近い人だったらなおさらです!」
藤原の説得にダンクたちは揺らぎ始めている。
「ハーベスタン王国の、為なら…」
「それなら、良いかもしれない」
「パルケ王国にも近いし、有事の際はすぐに」
亜人たちの反応は良さそうだ。部下たちの肯定的な姿勢を見たダンクはやや困り顔だ。
「部下たちの反応も悪くねーようだし、良い環境で体を休めるメリットもある。良いことづくめだぜ」
「………」
「いいから行こうぜ、一緒に。考えるのはそれからでも良いはずだろ?」
「………うむ、分かった。ここを出て、ハーベスタン王国に移るとしよう」
こうして、排斥派の亜人族は俺たちとともにハーベスタン王国に帰ることとなった。