王宮の部屋で一晩過ごしたその翌日。しばらく休養しようとのことで、全員自由に過ごそうと決めた俺は、以前から約束していた通りカミラのところを訪ねてそこでゆっくり過ごした。
「美味しい紅茶を用意してますよ。あ、このお菓子はこの紅茶によく合うの。ふふ、もっと近くに座って良いのですよ?私たちは姉弟と言って良い仲なのですから」
「いつからそんな仲になったっけ?」
相変わらず俺を弟に見立ててそれを溺愛する姉……みたいなプレイ(?)をしてくるカミラにテキトーに合わせて雑談する。しばらくしてから真剣な話をする。
「昨日話しそびれていたことの続きをしましょうか……魔人族の今後の動きについてです」
「ああ……奴らのリーダーであるザイートは、約半年後にはこの世界を完全に滅ぼすべく、この表舞台に上がって、この国はもちろん、人族・魔族の何もかも滅ぼすって言ってたな。奴本人は今はその準備に取り掛かっているとか。だから奴が今すぐ地上に現れることは無いと言っていい」
「しかし、他の魔人は今の時期からでも地上で活動していることがあります。ちょうど先日の件のように」
「ああ。でもそいつらの強さはあまり大したことないものだった。と言ってもアレンたちでは全然敵わないレベルではあったけど」
「現在地上で活動していると思われる魔人たちはコウガ基準で見ればまだ低位級のものだと考えて良いのかもしれませんね。それでも……彼ら一人でも国を滅ぼすだけの力を有している。この国も恐らく終わらせられるくらいの…」
「竜人族や亜人族の国なら一人くらいならまだ大丈夫だとは思うけど。少なくとも人族の国はヤバいかもな」
しばらく沈黙。
「これから半年間で一度も魔人族がまた侵攻しない…という保障は、断言出来ませんね。コウガから聞いた内容からしては」
「だな。まあ特に強い“序列”持ちの奴らは今は来ないかもしれないな。勘だけど」
「コウガは、その“序列”持ちの魔人には、今からでも勝てそうですか?」
カミラは不安そうに尋ねる。
「ステータスだけで見れば、多分だけど俺は奴らには敵わないレベルだと思う。分裂体だったザイートとも互角レベルだった。本気のあいつやそれに次ぐ連中は当然あの時の倍以上強いと思って良い。はっきり言うと、正面からぶつかれば俺は消される」
嘘はつけない。軍略家であるカミラは思ったこと全てを打ち明けるべきだと思うから。カミラは……狼狽えてはいなかったが、その目は不安げだった。
「下位の奴でも正面からじゃ無理かもな。俺の特殊技能を駆使して搦め手を存分に使用して、意表を突きまくって、卑劣な手段を用いれば、ステータスの差を埋めて何とか勝てるかもしれない。醜い勝ち方になるけど」
「醜くてもそれで勝てるというのであれば迷わずそうするべきです。戦いに勝つ為ならどれだけ汚れても構わないものなのですよ。生死をかけたものならなおさらです」
カミラは少し背伸びして俺の額に指を押し付けながらそう言ってくる。
「結局のところ、魔人族の動向を予測するのはほぼ不可能ということになりますね。ですが、“序列”持ちの魔人が今すぐ現れることは無い……と判断して良いみたいですね」
「勘だけどな。遭遇してちょっとの時間だったけど、ザイートの性格だとそういうことはしない…そんな気がしたんだ。それだと……“つまらない” から」
これは……あくまで予測だ。魔人族というよりも、ザイート本人はただ世界を滅ぼすつもりはないと思う。
闘争……それを愉しみながら世界を滅ぼしたいのだと思う。まるでゲームを楽しみたいかのように。
さっさと滅ぼすつもりなら、ドラグニアが滅んだその次の日からでもザイート本人の次に強い魔人が現れて俺たちを惨殺させにくるはずだ。あれから数日経ってもそんな化け物どもが現れないってことは、この推測は間違ってないのだと思う。
「だったら、半年後にその舐めプをしたことを、死ぬ程後悔させてやるよ」
不敵な笑みを浮かべてそう宣言してみる。
「ふぅ、せっかくの休養日だというのに暗い話をし過ぎてしまいましたね。では!今日は姉弟らしいことをして過ごしましょうか!」
「はあ……もう好きにすればいい」
*
次の日は、俺とアレンと藤原といったメンバーで、亜人族が暮らしている屋敷にお邪魔した。藤原は彼らの専属医師として昨日もここに通って「回復」を施していたそうだ。危険地帯にいた頃と比べて清潔になり良好状態にはなったものの、病の方は変わらずだった。
「お前たちは、旅をしていたのだったな?それも目的が鬼族の生き残りを捜して彼らを救うことだったな」
「ん。今回のスーロンたちのような仲間たちが世界のどこかにまだいるかもしれないから、みんなの調子が戻ったら捜しに行くつもり」
「あんたは何か心当たりとかないか?鬼族がいそうなところとか」
ダンクは少し沈黙を貫くと、そういえばと話をする。