「噂で耳にした程度だが、獣人族が彼らを捕らえているのではないか?最近は鬼族を憎んでいる魔族で有名だ。その憎悪は恐らく……かつての俺たちよりも強いものだとも聞いたことがある」
「獣人、族……」
アレンがその名を小さく呟く。竜人族の長エルザレスもそんなことを言っていた気がする。領地争いで散々敗れまくり戦士らも多く失ったということで鬼族をひどく恨み憎んでいたと。ディウルと違って奴らはそれが戦いだったから仕方ないと割り切れない魔族らしい。種族ぐるみでそういう思考だそうだ。
「数の多さは魔族一だ。そして仲間想いも恐らくだがどの魔族よりも強い。その反面、他の魔族・人族に対してはひどく排他的であることでも有名だ。何度も争いで敗けてしまった鬼族への敵対心と憎悪は、俺たちや竜人族など比べ物にならないだろう」
獣人族について詳しく教えてもらった。そしてその内容を聞いた俺は危機感を抱く。
「だとするなら、もし獣人族が鬼族を捕らえていたとしたら、急いでその国に行くべきかもな。彼らを虐げている可能性がある――」
そう言った瞬間、アレンががたんと音を鳴らして椅子から立ち上がる。その顔には焦りと怒りが出ていた。
「悪いアレン。不安を煽ることを言っちまったな。そうとは決まったわけじゃねーけど、可能性があるってことだけだ。今すぐ行こうとはしないでくれな」
「ん………分かってる。冷静にならなきゃ、だよね?」
アレンは小さな声で言って椅子に座り直す。藤原がアレンの首筋にこっそり「回復」をかける。精神を落ち着かせる効果の「回復」みたいだ。
それにしても失言だったな。アレンの前ではああいったセリフを吐くのは禁止だ。
「コウガ、次は獣人族のところに行こう?」
「まあそうなるな。可能性があるなら行くべきだ」
アレンの言う通り、次の目的地は獣人族が良いだろう。
「獣人族か。俺が知っている獣人族は国ではなく里だったな。かつての鬼族と同じだ。ただ、里へ入るには苦労すると思うぞ。さっきも言ったが奴らは排他的な魔族だ。他の魔族はもちろん、人族も容易には入ることは出来ない」
「そうなると“擬態”するか、強行突破かになるな」
現代世界でいう鎖国体制を取り入れているところらしいな、獣人族ってのは。
*
「ん?」
話が終わり雑談に入ろうとしたところで、通信端末から着信音が鳴り響く。それに出て誰だと問いかける。
『コウガさん!私です、クィンです!お元気でしょうか!』
「ああ、なんかちょい久しぶりだな」
相手はサント王国にいるクィン・ローガン、旅パーティのメンバーだった兵士だ。今は母国にて彼女の本来の仕事をこなしている最中なんだろう。
「そういえばさ、俺が頼んだ件ってどうなってる?」
『それが……全てあなたが望んでる通りには進んではいません。おじ……国王様が了承されていないことがいくつかありまして』
まあそうだろうな。さすがに全部は無理だと分かってた。
「ところで、今日はいったい何の用でかけてきたんだ?」
『え、っと……。故ドラグニア王国でお別れして以来、ずっとそのままでしたから。その……コウガさんたちは今何をされてるのか知りたいのと、久々に声が聴きたくなった、とか……』
「へー?兵士団の副団長さんが、女の子らしいことを言うじゃんか」
『う、うるさいですよ!?わ、私は兵士ですし、年齢的にも女の子と呼べるようなものでは……』
日本では23歳でもまだ女の子って呼ばれると思うけどなぁ……とは口に出さないでおいた。
「年齢的に女の子ではない……うぅ、やっぱりそうだよね。高校の先生だしね…」
横で何かダメージをくらっている藤原を無視して質問に答えてやる。
「まず……俺たちは今ハーベスタン王国にいる。昨日というか数日前は亜人族の国に行って――危険地帯で排斥派っていう団体と会って―――鬼族の生き残りが3人いてアレンたちと再会して―――魔人族が現れた、ああ心配すんな、俺がきっちり殺しておいたから――――まあこんなものかな。以上が俺たちの近況をまとめたやつだ」
『それは……とても凄い出来事ばかりでしたね……。鬼族の生き残りがオリバー大陸にいたことにも驚きましたが、まさか魔人族がまた地上に現れていたなんて…』
クィンは俺たちの近況報告に一つ一つリアクションをしてくれた。
『それで、コウガさんは次はどちらへ行くつもりですか?』
「ついさっき鬼族の生き残りがいるかもしれないところが分かった。獣人族のところだ。そこへ行くつもりだ」
そう答えるとクィンが小さく息を呑んだような気がした。
『あの……“国”へ行くつもりなんですね、コウガさんたちは』
え?あそこって国なの?ダンクを見ると彼も初耳だった反応を示していた。
『コウガさん。今回あなたに連絡を入れた理由はもう一つありまして……
皆さん今からサント王国へお越しいただけませんか?』