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「なんか気乗りしねー」

 俺と藤原だけで王宮へ行き、国王に最後の謁見を済ませる。

その後、待ち合わせ場所にしてあるカミラの家へ行くと全員既に準備を終えた状態で待機していた。


 「また、しばらくの別れになってしまいますね」


 カミラは寂しげに微笑んで俺の前に立つ。差し出された手を握ると片方の手で包み込むように握り返してきた。


 「今のカミラはまだハーベスタンの軍略家としていた方が良いと思う。獣人族についてカミラたちよりも詳しく知っているあの国…サント王国に行く理由ができてしまったから。それにこの国は、カミラを必要としている。絶対にな」

 「コウガがそう言うのですから、間違いないのでしょうね。私は、私にしか出来ないことを精一杯やりますから、コウガたちも頑張って成し遂げて下さいね」


 嬉しそうに笑って俺と握手してから、アレン・藤原とも握手と軽めの抱擁を交わす。


 「私たちの里がまたできたら、カミラも里に来てほしい。カミラの頭脳はとても頼りになる」

 「ふふ、とてもありがたい申し出ですね。皆さんがいる里なら、とても楽しい日々を送られそうです」

 「必ずまた来ます!また二人でお茶しましょう!」

 「はい、楽しみに待ってます」


 こうしてカミラとはハーベスタン王国でしばしのお別れとなる。一度国の要人どもから切り捨てられかけた彼女だったが、この国を立て直すことに貢献することを決意した。あれから心が強くなったカミラなら大丈夫だろう。


 「私はいずれ、コウガ専属の軍略家になるつもりです。必ず私のところに来て下さいね!」

 「それは光栄だ。また来る」


 再会を約束してカミラから去る。続いてダンクたちの屋敷にも立ち寄った。


 「感謝している。今回のこと。俺たちに出来ることは少ないかもしらぬが、恩は必ず返そう」

 「あ、だったらさ。カミラのこと気にかけてほしい。敵から守って欲しい。俺たちの大切な軍略家であり仲間だからさ」

 「承知した。必ず護ろう」

 「次この国に来たら、皆さんを完治させてみせますから!諦めないで待って下さいね!」


 藤原はダンクと約束の意を込めた握手を交わした。そのダンクは握手の後、アレンら鬼族に無言で一礼をした。アレンは静かに頷いて早足で屋敷から去って行った。

 全ての挨拶を済ませた俺たちは門を通り抜けて国を出る。そのまま港へ直行し、購入しておいたやや大きめの船に乗って、次の目的地へ出航した。



                *


 『―――今からサント王国へお越しいただけませんか?』


 数時間前。俺たちはクィンからそう言われた。


 『国王様が、あなたとお話ししたいと仰られてました。実は〈エーレ〉討伐任務の件の頃からコウガさんとお話ししたいと思っていたみたいでして』


 理由の一つは、サント王国の国王が直々に俺と話したいから。


 『コウガさんたちが獣人族の国に行くと聞き、それでしたら獣人族の国について色々教えられると思ったので、是非来てほしいのと』


 獣人族の…国はサント王国と同じベーサ大陸に位置している。同大陸に位置するイード王国よりも近い位置にあることから人族大国の中ではサント王国が獣人族についていちばん詳しいのだとか。それを教えてあげるから来てほしい。これも俺たちを招聘しょうへいする理由の一つだと。


 『それと……私も含めて、コウガさんやフジワラさんとお会いしたいと言っている人たちがいますから、やっぱり来てほしいです!』


 あとは、まぁ、俺や藤原と会いたいと言ってる奴がいるかららしい。


 「なあ。サント王国には今、俺が知ってる人間って誰がいるんだ?」

 『え…?あ、ええと、まずはこの私クィン・ローガンです!』

 「うん」

 『ミーシャ・ドラグニア様にシャルネ・ドラグニア様です』

 「そうだったな」

 『兵士の方々とも何人か知ってらっしゃるのではないでしょうか』 

 「そうかもな」

 『そして……あなたと同じ、異世界から召喚された方々の…生き残りです。“救世団”のメンバーでしたね。5名いらっしゃいます』

 「……そう、か」


 最後の答えを聞いた俺は押し黙ってしまう。そんな俺の顔を藤原が心配そうに見つめてくる。クィンもどこか心配そうに呼び掛けてきたので悪いと返して通話を続ける。


 『私としてはコウガさんと国王様が一度きちんと話し合いをした方が良いと考えていましたから、この機会に是非、また国に来ていただけませんか?』

 「えー…」


 返事に渋ってしまう。故ドラグニアでクィンに伝えておいた要求をサントの国王が全部飲んでもらうよう俺が直接交渉しに行く……という目的がある以上、俺がサント王国へ行く理由は十分にある。

 それとまあ、ミーシャ元王女には約束事が一つあるしな。「露払い」だ。彼女が敵に襲われて殺されてはならない。元の世界へ帰る為の重要なファクターなのだから。定期的に様子を見に行く必要はある。

 ……………あるんだけど。


 (あいつらがいるのがなぁ)


 会いたくない。これに限る。

 だってそうだろ?生前の俺を見捨てやがった連中の生き残りどもの顔なんか毛ほども見たくねーよ。ムカついてしまって、うっかり〆………なんてことをしかねない。要は自制がどこまで利くか分からないってやつだ。


 「はぁ………なんか気乗りしねー」


 クィンに聞こえない声量でぼやく。それを聞いていた藤原は、


 「甲斐田君。サント王国へ一緒に行かせてください」


 と真剣な目を向けてそうお願いしてきた。


 「君が渋っている理由は少し分かる気がする。気まずさ、憤り、とか。“みんな”と会うのが…嫌なんだよね?」

 「……………」


 今ばかりは心の中を見透かされてる気がして、面白くない気分になる。


 「でも、それでもね、今はこらえて欲しい。サント王国へ行けば獣人族のことをもう少し詳しく知れると思うし、それがアレンちゃんの為にもなる。そう考えて、くれないかな?」

 「………そう言われるとまあ」


 口が上手いなこの先生は。で、その先生はアレンに何か耳打ちしている。するとアレンが俺にこう言ってきた。


 「…獣人族のこと知りたいから、一緒に行こ?」

 「~~~~~」


 若干の上目遣いで言われてしまい、顔に手を当てて呻く。アレンを使うとは、この先生策士でもあるな…。

 まあそうだな。何の情報も無しに獣人族の国にいきなり行くのはアレンたちにとって危険過ぎるし。先日の危険地帯みたいに思わぬ襲撃があるかもしれないし。

 ここはまあ、情報や俺の要求の為に行くとするか。


 『コウガさん?あの、聞こえてますか――』

 「今から船でサント王国へ行く。そして国王と話したいことがあるから、セッティングも頼む」

 『え!?あの……そうですか!良かったです!では、お待ちしてますね!』

 「はいはい」


 話がまとまったところで通話を切る。


 「ありがとう甲斐田君」

 「別に。あんたも気になってるんだろ?あいつらがどうしてるのか。大事な生徒たちなんだもんな」

 「………うん。遠征任務の時に別れて以来だから。心配してるかと聞かれたら、してるかな」

 「ん。ミワの気持ち分かる」


 アレンがうんうんと頷いて共感する。生き残りの仲間のことで通ずることがあるのだろうか。

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