そんなこんなで、サント王国へ行くことに同意した俺は、船の行先をサントに決定して海を渡らせていく。
水魔法と嵐魔法を応用して船の速度を飛行機並みに改造したことで、ベーサ大陸に着いたのは出航してから約半日後のことだった。
夜時間になっていたから港で船を預けた後、近くの宿で一泊した。その翌朝から南部へ進むこと数時間、数週間ぶりに訪れることになるサント王国へたどり着いた。
衛兵に通行許可証を見せてスムーズに入国し、この国には初めて来たから色んなことに興味津々な様子の藤原やセンたちを引き連れて目的地へと向かう。
その道中で、
「あ……ああ…!!」
隅から俺を指差してあからさまにブルブル震えだす男二人を発見する。なんか、見覚えがある顔だな。
「な、何であんたらがまたここに!?」
「………ああ。テメーらは、初めて冒険者ギルドに来た時に俺とアレンに絡んで侮辱しやがった…」
思い出した。〈エーレ討伐〉を受注しようとした時に絡んできたCランクだかDランクだかの冒険者どもだ(*20話参照)。
それに気づいた俺は、酷薄な笑みを浮かべて二人に近づいてやる。すると二人は顔を青ざめさせて俺から距離をとろうとする。
「おいおい何だよその反応は。テメーらから何もしない限りは俺から何かしねーって。それより一人足りねーな?俺があの時ぶった斬ってやったおっさんはいねーのか?」
「だ、ダダダ…ダイは、あんたが両脚を切断したせいで、冒険者は廃業になったんだ…!」
若干非難めいた視線を向けながらそう返す冒険者に俺はため息をつく。
「はあ?俺のせい?違うだろ?テメーらが喧嘩を売る相手を間違えたからそうなったんだろーが。俺を侮辱なんかしなければああはならなかったのに……なあ?」
少しいじめてやろうと思った俺は、殺意が乗った魔力をほんの少し出してやる。
「「ひぃえあああああああああ!?」」
二人は泡を吹いて逃げていった。ざまあ。
「甲斐田君?今の話、どういうことなのかな?」
しかし後ろから怒気が孕んだ声が響いてきて少し焦る。
「やっぱり聞かれてた?」
「当たり前だよ!それより甲斐田君、以前この国に来た時そんな酷いことをしてたの!?どうしてそんなことをしたの!?」
頭ごなしに非難するのではなくまず「どうしてそうしたのか」と理由を聞くところから始める。彼女のそういうところを俺は高く買っている。
「以前ハーベスタンの冒険者ギルドで絡まれたクソ冒険者とかイキりクズ貴族の時と同じだ。アレンにちょっかいかけたのと俺を公衆の面前で侮辱しやがったから、“ちょっと”お仕置きをしてやったんだ。そしたら脚をついうっかりスパッって」
「何がついうっかりですか!もう、君のそういうところはきちんと直さないといけないわね。それよりも、その冒険者さんの脚を治してあげなきゃ!両脚が無いなんて酷過ぎるもの。
すみません、そこのお二人さーん!!」
なんかめんどくさい提案をした藤原は、さっきの冒険者二人を呼び止めるべく追いかけ出した。
「「ぎゃああああああああ!?来ないでくれええええええ!!」」
しかし二人は悲鳴を上げて藤原から必死に逃げるのだった。センたちが腹を抱えて笑う中、俺はめんどくさそにため息をつくのだった。
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あの後藤原は本当に脚を失った冒険者のところへ行って、両脚を元に戻してあげたのだった。あのおっさん冒険者は藤原に下卑た視線を向けながら礼を言ったが、遅れてやって来た俺とアレンを目にした瞬間、恐怖で顔を引きつらせて家を飛び出して逃げて行ったのだった。
「甲斐田君…。本当にやり過ぎよ」
「仕方ねーだろ。あいつらが悪かったし。ていうかもういいだろ。道草くうのはその辺にして、さっさと王宮へ行くぞ」
説教モードに入ろうとしていた藤原をテキトーに丸め込んでからみんなを連れて王宮へ移動する。
「認識阻害」をアレンたちにかけていなかった為、周りの奴らは鬼族であるアレンたちを珍しそうにあるいは不気味そうに目を向けてくる。隠そうかとアレンに言ったが彼女たちは大丈夫と返した。今までの旅を通して、アレンのメンタルはこの程度では揺らがないくらいには強くなったみたいだ。
王宮に近づくにつれて人が少なくなり、静かになる。そして前回訪れた時には一度も来なかった王宮に着いた。門には衛兵が数人と、
「皆さん、お待ちしてました!!」
兵士の服をしっかり着こなしているクィンが、俺たちを出迎えてきた。
「あれからまだ一週間程度しか経っていませんが、何だか久しぶりのように思えますね。アレンさんたちは以前と比べてさらにオーラが増してますね!コウガさんは……お変わりないですね」
「まあゾンビだからな。あ、この3人が以前話したオリバー大陸の」
スーロンたちの紹介を手短に済ませる。クィンは3人に丁寧な挨拶を済ませると俺に向き合って嬉しそうに握手をしにくる。
「今回は話に応じて下さりありがとうございます!また、会えましたね…!」
「ん?まあ、な…」
返事に困りテキトーに応答するが、クィンはそれでも嬉しそうだった。アレンとも再会の挨拶が済んだところで、クィンに王宮を案内してもらう。
「既に全員待機されています。すぐにでも話し合いを始められますので」
「………“全員” か」
クィンの言う「全員」とは。まあここで深く考える必要は無い。すぐに現地へ着くのだから。