ハーベスタンのところとよく似た造りの大きな扉の前に立つと、クィンが引き締まった顔・ビシッとしたたたずまいをして、扉の向こう側にいる誰かにハキハキとした声を上げる。
「兵士団副団長クィン・ローガン!たった今カイダコウガ、アレン・リース、フジワラミワ、そして他鬼族7名をこの場にお連れいたしました!お目通りをしたく申します!!」
普段は聞けないクィンの厳然とした物言いに感心する中、固く閉ざされていそうな扉がゆっくりと開いていく。クィンに促されるまま俺たちは、大部屋の中へ入る。
謁見部屋のようだがかなり広い。そして中の様相はドラグニアやハーベスタンと違って質素感がある。煌びやかな飾りはほぼ無いと言って良い。言い換えるなら無駄を省いたって感じがするな。俺としてはこういう感じの方が好みだ。
そして大部屋の中には当然人が、それも大勢いるわけで。まず扉の近くには兵士が数十人控えている。
その中に見覚えのある兵士がいる。確か名前は………デモクラシーだっけ?
「デロイだ!」という突っ込みがとんできた気がしたが幻聴だろう、気にしない。無視して奥を見やる。この国の要人たちが何人かいる中、俺が知っている顔の人物を何人か目にした。
まずは、故ドラグニア王国の元王女で、この国に亡命して新たな暮らしをしている、さらには俺の目的の為にも動いてくれている青髪のやや小柄な少女…ミーシャ・ドラグニア。
彼女は俺を見るなり頬を赤らめて笑顔を向けてくる。
で、次は………随分久しぶりな気がするなぁ。
俺や藤原と同じくこの世界に召喚された奴ら………3年7組の元クラスメイトどもだ。
いちばん背が低い少女、
鎧を着ていてがっちりめの体をしている、
特徴が無い見た目、
唯一の男、デカい銃みたいな武器を背負っている、
そして………
「甲斐田君……!!」
黒髪の狙撃手…
故ドラグニア王国の時には遠征任務やらでいなかった元クラスメイト5名と、再会した――――
*
名も無き大陸のはるか下………地底。魔人族本拠地。
魔人族の長・ザイートが療養している部屋。
「あん?ミノウが討たれただと?やったのは………ああいい、分かった。どうせ奴だろ?カイダコウガというガキ」
『はい。オリバー大陸にいた彼の戦気が完全に消失されたので恐らく死んだかと』
療養槽に入って治療と「準備」を進めているザイートの正面にはモニターがあり、そこには紫色のセミショートヘアの褐色肌の女性が映っている。
「はぁ……俺がこうしている間で随分調子に乗ってるようだなあのガキ」
『“序列”持ちの同胞たちを地上へ行かせましょうか?早めに芽を消し去っておいた方が』
「いや、いい。カイダコウガは俺が消すと決めている。それと他の魔族や人族大国への侵攻もまだでいい。俺の準備が終わるまで放っておけ」
『承知しました。それと、 “ウィンダム” からの報告によりますと、計画は順調に進んでいるとのことです』
「計画?何のことかは知らないが、順調ならけっこう。くれぐれも大きな行動は起こすなと、俺の命令だっつって言い聞かせておけ」
『お任せ下さい』
モニター越しで女性が恭しくお辞儀をする。
「話は終わりでいいな?俺はこれから眠る。何かあったらまた呼び出せ……ベロニカ」
『はい。お話に応じて下さりありがとうございます。ゆっくりお休みください、ザイート様…』
ベロニカという名の女性魔人は、ザイートに恍惚とした笑みを見せたままモニター通話を切った。
「ウィンダム………ああ思い出した。随分前にここから出て、戦力を増強させていたんだっけ。ミノウのように粋がって進出するような性格ではないだろうから、このまま任せておいて良さそうだな。準備が終わったら、地上の最初の拠点地は奴がいるところからにしようか」
ザイートはそう独り言を呟いて、眠りについたのだった。
(せいぜい悦に浸っているがいいさ。だが半年後には、お前は俺の下で這い