「な………っ」
「きゃあ!?」
「馬鹿な、死んだはずじゃ………っ」
次々と立ち上がる獣人を見た鬼たちと高園・藤原がパニックを起こしかける。
「大丈夫だ。これは俺の力だ。この獣人どもは俺と同じゾンビになった。ただし意志がなく俺に絶対服従のな。いわゆる奴隷ってやつだ」
その一言を聞いた鬼たちが可笑しそうに笑う。死んでなお奴隷にされるという境遇を嘲笑っているようだ。
「……死んだ人たちをそうやって無理矢理動かすなんて。死者への冒涜になるんじゃないかな。私としてはどうかと思うな………」
「仕方ねーだろ。こいつらどかさないと不衛生だし、疫病が発生して鬼たちが危ねー。いくらあんたがいるとはいえ、病気にはさせたくねーだろ」
藤原の苦言をどうにか言いくるめる。
「えーと、こう命令するか――――“テメーら全員地面深へ埋まってろ。次の命令が出るまでずっと埋まってろ。鬼族にその醜い姿を決して見せるな”」
命令を思念で飛ばすと、獣人どもは一斉に地面に潜り、姿を消した。
「まあこれで死体処理は完了だ。それといちおうゾンビ兵としての戦力確保ってところかな」
「そんなことまで出来るなんて………凄い能力…!」
「気を遣わせてしまったな。ありがとう」
高園が驚愕で身を震わせ、キシリトが俺に礼を言う。続いて保護された鬼たちがアレンたちを囲んで一斉に頭を下げた。
「助けてくれてありがとう!この恩は一生忘れない!!」
彼らの言葉にみんなは涙ぐむ。アレンは一人の鬼の元に近づいて肩を叩く。
「これからみんなで鬼族を再興しよう。みんなであの里を取り戻そう」
鬼たちは涙を流しながら何度も頷いた。そうしてアレン以外の鬼族はそれぞれ民家へと入って行った。
残るは俺とアレンと藤原と高園。これからサント王国へ戻ることになる。
仲間たちと挨拶を交わしてから故カイドウ王国を出て帰路に立つ。
「コウガ………あの魔人族も“喰らった”から、また強くなれた?」
道中でアレンに尋ねられる。藤原と高園も会話に入ってくる。
「甲斐田君も今回は大苦戦したみたいね。今まで戦った中でいちばん強い敵だったんでしょ?」
「こうg……甲斐田君があの魔人族を倒してくれなかったら、私たちはこうして無事にいられなかったよね。改めて、ありがとう!」
3人に話しかけられる中、俺は少し険しい顔つきになってしまう。それを見た彼女たちはどうしたのかと怪訝そうに見てくる。
「そのことなんだけどさ………
すまん。 奴は――――」
*
ある大陸の地下――――
薄暗い空間。そこには何も無く、瘴気も漂ってはいない。
ただ何かあるとするなら………数日前に芽生えた一つの「芽」がぽつりとあるだけだ。
しかし、その「芽」に異変が生じる。
ズ………ズズズズズズズッ
「芽」が激しく蠕動する。それと同時に辺りに瘴気が発生する。「芽」が闇色の光を発して辺りを黒く照らす。
そして………芽があった場所に、一人の青年が現れた。否、生えたというべきか。
「ふぅ………復活ぅ、っと!」
魔人族ウィンダム。数時間前にカイドウ王国にて皇雅に消されたはずの青年魔人が、彼の地から遠く離れたこの地にて復活を遂げた。
「ふふふふふ、蒔いておいて良かったー!そうじゃなかったらあの時あんなところで全てを出し切るなんてことはしないでキミから逃げていたよ、カイダコウガ君」
抜け殻のようにしおしおになった「芽」を摘んで握りしめる。ウィンダムの体には傷一つ無く、皇雅と戦う前の状態となっていた。
「 “命の種” 僕だけが持つ特殊技能さ。予め種をどこでもいい地面に植え付けておくことで、もし僕が死ぬようなことがあれば種が芽となって、僕を再生させる。キミが僕のステータスを完全に見破れていればこうなるとバレてしまっていただろうね。“隠蔽”でステータスを一部隠しておいて本当に良かったよ」
濡れた体を乾かして薄暗い空間を独り言を呟きながら歩み進む。
「―――っククククク、アハハハハハハ……!!
本当に最高だったよ、カイダコウガ君!実に面白かった!今回は僕の負けだ、文句のつけようが無いよ。
そしてキミは魔人族を脅かす危険な存在だ。野放しにしておくわけにはいかない。いずれは僕がキミを葬りに行くよ…!」
狂気を宿した目で面白そうに笑い、皇雅へのリベンジを誓う。
「それにしてもこれからどうしようか…。これは大失態だ、ザイート様に合わせる顔がない。獣人族という駒を失い、命じられていたベーサ大陸のある程度の支配も達成出来ていない。命令を完遂するまではホームに帰るのは避けた方がいいかもしれない」
地上に向かって上へと飛ぶ。
「第一、力がほとんど残っていない。“命の種”を発動すると肉体の力と魔力が本来の10分の1までしばらく弱体化してしまうからね。まずはどこかに隠れて回復をしようか」
崖を上り切って地上に立ったところで一息つく。これからのことを考えていたウィンダムだったが、突如その顔を警戒に染めた。
「…………そこにいるのは、誰だい――――」
ウィンダムは近くに現れた人影を目にして、魔力が込められた手を向けた。