崩壊した体が元に戻り調子を取り戻したところで、重力魔法と嵐魔法を駆使してみんなを飛ばしてサント王国まで飛んですぐに帰った。着いた頃には夜空が広がっていて、時間も日付が変わる一歩手前になっていた。
王城へ向かうと衛兵たちが接待してくれて、すぐに部屋に案内してもらい、みんな休んだ。国王との重要な話は翌日にするということになった。
「…………ものすごく疲れてるのに、眠れない」
「分かる。俺もデカい試合が終わった日の夜は中々寝付けなかったなー」
なんて、眠れないということで雑談をして過ごす。しかしアレンが突然俺のベッドに入ってきたのだからびっくりする。
「お、おい」
「………一緒に寝たくなった。お願い、一緒に」
アレンの目は寂しそうにしている。死んだ鬼たちのことを思い出してしまっているのだろうか。仕方ないから同衾を許した。
「……………キス」
アレンは俺と顔を合わせて間近でそう呟く。俺は顔が熱くなる錯覚を感じる。
「衝動的に、しちゃった。ゴメン」
「ほんとだぜ、初めてだったのに」
「初めてだったの?」
「当たり前だ。元いた世界じゃ俺らのような年代でもキスが未経験だなんてこと、珍しくも何ともない。性経験なんてなおさらだ」
「じゃあ……今度は、ちゃんとする?」
「……………………」
俺は何も答えなかった。かといって拒否の意も示さなかった。仰向けになり無防備をさらす。それを見たアレンは頬をピンク色に染めて俺に乗っかかり、お互いの唇を重ねた。
「……………好き」
「……………うん」
それからのことはあまり憶えていない。気が付くと俺に抱き着く形でアレンが眠っていた。
(俺はゾンビだけど………感情がちゃんとある人間だ。彼女に対してこんなにも愛着が湧いているのだから。この感情は本物だ)
アレンの頭を撫でる俺の顔は緩み、心地いい感覚が体を駆け巡り、幸せを感じられた。
*
翌朝、使用人たちに食事など色々もてなされる中、謁見の準備をする。
時間になると部屋を出て、大部屋に向かう途中で藤原・高園と会う。
「こう……甲斐田君、おはよう」
「…………ああ」
小さく手を振って挨拶する高園に無感情の返事をする。昨日も何か言い間違えかけてなかったか?どうでもいいけど。
「もうちょっと縁佳ちゃんに構ってあげたら?冷たいよ」
「知るかよ」
藤原にそう返しながら一緒に大部屋に向かう。その途中で元クラスメイト4人とも会う。
「…………!」
「……………」
堂丸が身を強張らせて俺に視線を飛ばす。特に敵意は感じられないが歓迎もされてもいない。中西も同じようなものだ。
こいつらとの間にある溝はそのままだし、埋める気もない。ただの他人として見ていいだろう。4人を無視してアレンを連れて先に大部屋に入る。
中には先日と同じようなメンバーが揃っている。ガビル国王、クィン、兵士団長、ミーシャ元王女………の隣に元王妃のシャルネも今日は出席している。ドラグニアで見た時よりも痩せてないか?彼女の病は相変わらずのようだ。後は国の要人連中が数人といったところか。
何だか連中が俺に注目している。汗を垂らして圧倒されているような様子だ。俺の本来のこの姿がそんなに脅威に見えるのか、まあそうか。
「では………話を始めようか」
扉が閉まるとガビルがそう切り出す。
「まずは………お疲れ様。次いで礼を言う。獣人族の真実は昨日の夜のうちに兵士団から聞いている。魔人族が暗躍していたことも……」
事情は全て把握済みか。
「報告を聞いただけでも震えずにはいられなかった。世界を滅亡させる力を持つ
しかし奴らの企みは、この潜入調査に応じてくれた君たちや優秀な兵士たちの活躍によって阻止された。そのことに我々は安堵し、大いに感謝をしている」
ガビルがそう言った直後、連中が一斉に拍手をする。ミーシャとシャルネも笑顔で俺たちに拍手を送った。
「特に……カイダコウガ。君が一人で魔人族を討伐したと聞いている。よくやってくれた。この場にいる者たちを代表して改めて礼を言わせてもらう」
ガビルは座ったまま俺に頭を少し下げて礼を述べる。王族でも貴族でもないただの少年一人に対して慇懃な態度をとった国王に要人どもはざわめき立つ。その中でミーシャやシャルネ、クィンは嬉しそうに拍手を送ってくる。
しかし俺と……昨日の帰り途中で事情を聞いたアレンと藤原と高園は気まずそうにしてしまう。
「あ~~~そのことなんだけど……悪い。あいつまだ生きてるんだわ」
部屋が騒然とする。