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「みんなの希望になり得る者」2

 ザイートが皇雅に致死レベルの攻撃をくらわせた瞬間誰もが目を背き絶望しかける。しかし次の瞬間皇雅が獣の如く吼えながらザイートに反撃する様を見ると流れが変わった。

 全身血まみれ、着ている衣装は血と泥で汚れきっておりもはや布切れにしか見えない。ザイートの圧倒的過ぎる力に何度も飛ばされ転がされ切り裂かれバラバラにされてしまう。

 しかし皇雅は決して諦めることなく何度も再生しては何度もザイートにくらいつき反撃に徹した。見たこともない武術、常識からとっくに外れた力と速さ、魔法攻撃…それらを駆使して皇雅はザイートと互角に近いレベルで殺し合っていた。

 そんな皇雅の戦いの姿勢を見ていた連合国軍は、はじめは畏れの感情が強く魔人族と同列で見ていたが、次第にその認識が改められていき今では彼を救世主として見るようになっていた。

 連合国軍への加入を拒否して協力をしないと言った皇雅。世界の為に戦わないと断言した彼は連合国軍にとって味方ではないものの、魔人族を殲滅せんという志は同じであると理解し始める。

 世界や全ての大国の為に戦っていないにしても皇雅がザイート必死に戦うことは、魔人族から大国全てを…世界を守ることに繋がる。そういった考えが連合国軍全てに浸透しようとしていた。

 やがて、今度は皇雅がザイートを追い込み始めたのを見ると兵士・戦士たちは大いに沸いた。士気が高まり一人一人に活気が湧き、各地の戦場では連合国軍がさらに押し始めた。


 「何だよあいつ………カッコいいじゃねーか。あんなに汚れた格好なのによ」

 「そうね……あんな甲斐田初めてみたけど、誰よりも輝いて見えるわ」

 「うん。甲斐田君のお陰で敵の数が凄く減ったし、本当にすごい人」

 「……………」


 クラスメイトたちも皇雅をどこか敬う目で見ていた。


 「馬鹿な……ザイート様相手にあそこまで食い下がるなんて!?あの異世界人……っ」


 反対にジースは皇雅の活躍を見て焦り始めている。血を流すザイートに動揺している。


 「クィン。みんなの甲斐田君の見る目が」

 「はい。誰もがコウガさんに期待して勝利を願っています。コウガさんに皆さん勇気づけられてもいます」


 美羽とクィンは感無量といった気持ちになる。その間にもジースの猛攻に耐えて反撃もしている。


 『カイダコウガさんは連合国軍の者ではありませんが、元はこの世界に平和をもたらすべく召喚された異世界人の一人です!結果的に彼は今、この世界を魔人族から守っていることになります(本人はそのつもりはないのでしょうが……)!

 ですから皆さん、コウガさんを恐れないで下さい。彼は私たちにとって希望の救世主です!!』


 ミーシャの言葉は全ての兵士・戦士の心に響いた。そして活気溢れる雄たけびを上げてさらに戦力を高めた。


 「甲斐田君、やっぱり君を必要としている人はたくさんいるよ。君がいてくれたからみんな諦めずにいられてる。君は気付いてないと思うけど、君自身がみんなの希望になってるんだよ…!」


 美羽は嬉しそうに画面の向こうにいる皇雅に告げる。クィンも同じ気持ちで微笑む。


 「さあ私たちも、甲斐田君に負けないくらい必死にならないと!」

 「はい!私たちの国、世界を魔人族の思い通りにさせてはなりません!」


 二人は改めて気合を入れるとジースに戦いの鉾を向けた。


 「愚かで単純な人族が……!ザイート様の勝利は絶対だ!!」


 いきり立ったジースはおぞましい魔力を放って美羽とクィン、クラスの生徒たち、連合国軍に牙を向けた――



                 *


 拳と鉤爪、蹴りと蹴り、時には魔法攻撃も飛び交う。ザイートが繰り出す攻撃全てを適格な防御技や相性の良い魔法攻撃で相殺する。そして接近して素手で殺し合う。

 腕が、内臓が、脚・足が、たくさん吹っ飛び、血が大量に流れ出る。二人しかいない戦場だが、辺りには夥しい血と肉片が飛び散り転がっていて(しばらくすれば消えるが)、血みどろの戦場を思わせる。移動しながら殺し合ってるから戦う場所もいつの間にかまた変わっている。ここがどこなのかは分からない。


 奴があの姿になって、俺はいったい何度死んだのだろう?風呂桶が余裕で満杯になる程の血を流し、心臓や脳をいくつも破壊され、体を何回も真っ二つにされて、首も刎ねられて...。意識がとぶ直前、咄嗟に魔法攻撃で目をくらまして、奴の体の一部を消し飛ばした隙に避難して回復してまた立ち向かっていく。


 俺は既に数度、数十度も奴に殺されて敗北していると言っていい。普通ならこの殺し合いはとっくに奴の勝ちで終わっているはずだ。

 けど俺は死ぬことはない。とっくの前に死んでいるのだから。こうして何度も何度も再生して復活できる。それこそ、相手が死ぬまで続く。敵が自分のはるか格上で滅茶苦茶強かろうが、そいつの命は一度きり。残機∞の俺に、負けは存在しない!!

 しかも、俺はまだ強くなれる!脳をスパークさせてでも壊してでもさらなる強さを引き出して、常にパワーアップし続けてみせる。

 相手が格上?上位互換クラス?だったらそれを上回るまで自身を強化し続ければ良いだけ!!体が壊れようと関係ない、苦しくもなんともない!

 何せ俺は――




 「リミッター解除 200000%!!」




 ――痛みを感じない、死が存在しないゾンビだから!!!



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