目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

「そして勝者は静かに笑む」

 リミッターをさらに解除した直後瞬く間にザイートに接近する。そして俺の猛攻が始まる。


 「ああああああ!!」 “廻烈” “絶脚” “絶槍”


 カウンター技・「連繋稼働」を使った武撃。


 「づあ”あ”あ”あ”あ”!!」 “五月雨” “羅刹撃” “修羅突き”

 「......!!」


 オリジナル技だけじゃない、鬼族直伝の拳闘武術も放つ。激しくも正確な連撃だ。

 自分が持つ全ての武術をザイートにぶつけまくる、無我夢中で。奴にダメージを与えられているかどうかは分からないし考えてもいない。奴が壊れて完全に動かなくなるまでひたすら殴り蹴るって決めたから。そうすればこの殺し合いに勝てるって思ったから。


 「~~~~~!!」


 猛攻による拘束から逃れて距離をとったザイートは今度はでたらめに魔法攻撃を放ちまくる。


 “嵐獄雷テンペスト

 “獄炎嵐禍ヘルストーム


 くらえば体が消し飛ぶであろう威力の魔法攻撃を同じく魔法攻撃で破りにかかる。


 “雷電紅炎サンダー・インフェルノ

 “嵐竜水瀑布アクアドラグーン


 黒い雷が渦巻く巨大な嵐には紅蓮の炎と尖り切った黄色い雷が合わさった巨玉を、地獄を思わせる黒い炎嵐の渦には竜を象った大瀑布をそれぞれぶつけて相殺させる。

 さらに飛んでくる魔法攻撃は嵐属性と重力属性を混ぜた強力な斥力で全て弾き飛ばした。


 ドスッ 「ぐぉ!?後ろからだと……!?」


 突然の後ろからの奇襲で串刺しにされる。どうにか引き抜いて距離をとるが今度は上からもザイートが襲ってくる。奴が二人以上いるだと……?


 「ああそうか、これは奴の特殊技能“分裂”。実体はあるけどその分力が半分になる奴か。一体一体は大したことない―――」


 死んでゾンビになった直後に遭遇した時も、ドラグニア王国で遭遇した時もこの分裂体だったな。それが複数になっただけだ。

 そう分析した直後、真っ先に一人の分裂体に接近して思い切り斬撃蹴りをくらわせる。俺の速度と力についていけなかった分裂体はあっけなくくたばる。すると分裂体全てが一つのところに集まって元のザイートに戻った。


 「そうそう、分裂して八方から攻撃するよりも一点で攻撃する方が俺を殺せるかもよ!」


 そして再び俺の猛反撃が始まる。自身の武術・鬼族拳闘武術・竜人族流派……持てる全ての武術をいくつも繰り出してザイートの体を壊していく。


 「い く ぜ ええええええ!!」


 ザイートがよろめいたのを見た俺は大勝負に出た。今まで以上に力エネルギーと速度を体内で細かく細かくパスさせて超絶大なエネルギーがこもった拳の一撃を放ちにかかる。

 踏み込み足からパスを始めて、その足と同じ方の腕からも力・速度を送る。反対の方の足は、親指から始めて足首へ。

 つま先・足底→腱・ふくらはぎ→大腿(ハムストリングス・上脚筋)→股関節→腰→体幹……細かく繋いで、手首まで行けば、あとは全てをそこへ!

 繋ぎを細かくすればするほど、精度・威力が上がる。その分隙が大きくなるからあまり使えない。けど今は違う、ここらで決めてやる!


 「………!!(吐血)」


 ザイートは俺の動きに反応してるものの突然血を吐いてよろめいた。超進化とやらによる負荷なのかどうかは知らんが大チャンスだ。

 「絶拳」を放つ為のパスをさらに細かくして強くした、言わば上位互換の一撃――



  “超絶拳ちょうぜつけん



 ――ボ、ゴォ...ン!


 ザイートの胴体がほぼ消し飛んだ。上半身は肩・腕、心臓部分しか残っていない。


 「ア”、ア”ガ、ァ...!!」


 掠れた声を漏らしながら、ザイートは自分の血の水溜まりに倒れた。けど俺の腕も、無事じゃなかった。


 「中身が丸見えだ...あーあ、ぐしゃぐしゃになってる」

 もはや皮だけで繋がっている左腕をぶらつかせながら、俺は次の一撃を放った。


 “超絶脚ちょうぜつきゃく


 さっきの細かいパスの要領を、今度は脚主体で行い放ち、ザイートの下半身を破壊する。ウィンダムも破壊した必殺の一撃。同時にこっちの右脚がボロ切れになった。しかし攻撃は止めない。


 「らあああああ”あ”あ”あ”あ”あ”ァ!!!」


 マウントを取り、右腕だけで「超絶拳」を放ってザイートの顔面を殴り続ける。飽きることなくずっと、消えるまでずっと………!!


 「テメーらが存在するから、俺がこうして異世界に来るハメになったんだぞ!!」


 半年前ドラグニアでズタボロにやられたことの怒りもある。けどそれ以上に赦せないことがある。

 こいつら魔人族がモンストールなんて化け物どもなんかつくりだしたからお姫さんらが俺を召喚しようと考えるようになったんだ。勝手に異世界に呼び出したドラグニア王国の連中も悪いけど、元をたどればこいつらが世界を滅ぼそうとしたこと自体が原因だ。

 全部、この馬鹿どもが悪いんだ!!


 「今になってテメーが憎いと思ってきた!絶対ここでぶっ殺す、覚悟しやがれぇええええ!!」


 直後――


 「――カァッ...!!」


 通算五十発目くらいの「超絶拳」を入れようかとのところで、突如刮目したザイートが口から超濃密の「極大魔力光線」を放ってきた。完全にマウント体勢をとっていたせいで回避できなかった俺はそのまま数十m吹っ飛ばされた。


 「くそ、不意突かれたか――」


 ドゴッッッ 側頭に衝撃と脳が破裂した感触。首の骨も折れた。バランスを崩して倒れる。


 「ぐ………ゲホッ! 意識が戻ったかと思えば、随分なやられようだ。何か言っていたようだが……うるさい声で」

 「………!テメー言葉を……」


 久々にザイートが人の言葉を発したことに思わず驚く。奴は自嘲気味に笑みを浮かべて体をフラフラしながらも俺の方へ近づいて来る。ここまでの戦いで奴も体力が十分削られたみたいだな。


 「………くそっ、体が―――」


 ブシィイイイイイッッ 俺の全身から血しぶきが上がる。リミッターの過度な解除のリスクが一気にきた。体の崩壊が始まろうとしてやがる。さっきまで必殺の大技を何度も放ったせいだ。



 「ったく、随分好きなだけぶん殴ってくれたみたいだなお前、は…。そんなに俺が、に、くいのか…。だがそれは…俺も同じ。お前の…ことが目障り、だ……!」


 かなり弱っているらしく、途切れ途切れに言葉を吐きかける。その目にはまだ戦意がある。超高速の回復で体を修復させていく。ぐちゃぐちゃになってた顔面や胴体がみるみる治っていく。魔力が減った分体力がまた元通りになろうとしている。俺程じゃねーけどこいつにも桁外れの回復力がある。ゾンビに近いレベルだ。


 「動きが鈍いな……。今度は…俺の番だ。そして…お前に次は、無い。これで完全に滅ぼしてやる……!」


悪魔を思わせるドス黒い鉤爪を武装する。ゆらりと体を傾けたのち、こっちに一直線に駆け出してきた。


 「………!!(―――くそ!来ると分かってるのに、体の動きが遅い!ここまできて俺は、敗けるってのか―――)」


 さらにリミッターを解除して脚を無理矢理動かそうとした、

 その時だった―――




 「―――っ!?がはっ……、ごほぉ!!」

 「!?」


 漆黒の鉤爪が俺の眼前にまで迫ったところで、ザイートの体から滝のような量の血が出て、そのせいで膝を地につけた。立とうとするも、足に力が入らないようで、その場に倒れ伏した。そして腕を立てようとするも起き上がることすらできなくなった。


 「ガハッ!……どうやら、魔力はもちろん……体力までも急速に失った、ようだ……。全て完全に尽き、た。

 さらには、生命の限界までも、訪れたようだ……。この“超進化”形態、も……もうじき解け、る………」


 忌々しそうにそう言った直後、ザイートの体から瘴気が発生……いやこれは抜け出ているが正しいか。外気にふれた瘴気は蒸発するようにすぐに溶けて消えた。

 変化は終わらず、ザイートの見た目が最初の頃に戻っていく。しかも――


 「テメーの能力値が、低下しているな......今の俺よりも大きく下回っている」


 どういう理由か、体力の減少とともに全ての能力値が低下し続けている。半年前に遭遇した分裂体レベルまで低下したぞ……?


 「これが………“限定超進化”を発動して力を無理矢理引き出し続けた者の、末路……というもの、だ」


 仰向けになったザイートが、焦点が合わなくなった目をさまよわせながらそう説明する。誰が見ても、そいつの命がもう長くないということが分かる様だった。そしてその張本人は―――





 「お前の……勝ちだ」


 ――そう、宣言した。


 「俺の………勝ちだって?」

 「そう、だ。最後に地に立ってる者が……勝者。地に伏してる者が……敗者、だ。昔から……決まり切ったこと、だろ」


 実感が湧かない。こういうのはこちら側の最後の一撃が決め手となって勝利、決着がつく。自分のこの手で相手を完全に破壊する、殺す。そうして終わるのがお約束ってものだろ。それなのに………


 「.…………こんな決着になるなんて。なんか不完全燃焼なところもあるけど……とりあえずあれだ――」


 数秒間ザイートを見下ろすことで勝利を実感できた俺は、静かにほくそ笑んで小さく呟いた――






 「 ざまぁみろばーか 」



主人公らしくないセリフを口に出した俺は、自分の意思とは関係無しにどさりと前のめりに倒れてしまった。





  血反吐を吐いて肉片もまき散らして、血みどろになりながら足掻いてもがいて身を削りながら繰り広げた死闘が、終わった瞬間だった。


 それは、実際はそんなに長くなかった出来事だったのだろう。けど俺にとってはとても長く感じられた時間死闘だった……。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?