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「黒い何か」

 ………。

 …………。

 ……………。


 「――って気を失ってる場合じゃねー!完全に死んだのをまだ確認してねーんだ。早くしねーと。ゆっくりするのはその後だ」


 リミッター解除の反動で体が一度完全に崩壊してしまい思わず気を失っていた。どうにか意識を覚醒させるも脳がまだスパークしていて上手く起き上がれない。頭から血が絶え間なく流れ続けている。数分経ってやっと血が止まり、脳も正常に戻っていくのを実感してからやっと立ち上がる。ザイートの様子を急いで確認すると奴はまだ体力が減り続けている状態で、起き上がるどころか這う力すら無い。顔色がさらに悪くなっていき、出血量も増えている。放っておいても死ぬかもな……。


 「まさか自滅で……敗けるとは、思わなかった…。“限定超進化”のリスクは、俺自身にも予想しきれないもの、だった」


 自嘲するように言って俺に話しかけてくる。割とお喋りなこの魔人族族長の最期となる会話に、俺は付き合うことにする。


 「俺みたいにゾンビでもないテメーが、あんな規格外な力を使えばそうなるさ。死んだって不思議じゃねーよ。身の丈に合った進化で留めておくべきだったな」

 「はっ、不死身のお前がそう言っても…嫌味にしか聞こえないな…。仕方がないだろう……こうまで、しなければ…今のお前の本気とまともに戦える気がしないと、最初……地底で受けた最初の一撃をくらった時に…悟ったからな」


 様子見のつもりで攻撃した最初の時か……というかその言い方だとこいつは、



 「お前は、強くなり過ぎた……。イレギュラーと呼ぶに相応しい程に」



 あの時点で、俺がこいつより強くなっていたと、予感していたのか。レベルと能力値が劣っていたからこいつが格上だと思っていたけど。

 強くなり過ぎた、ねぇ...。


 「ベロニカやネルギガルド、ヴェルドたちが束になっても……おそらくお前には届くまい。お前には、俺の理解に及ばぬ力が宿っているらしい…。ゾンビといったか…?屍族や同胞の誰にも存在しない未知の力……。

 もしかしたらそれこそが、異世界から来た際にお前が授けられた、特別な力とやらなのかもしえないな」

 「そうか…そういう解釈があったか。確かに、あり得るかもな」


 元来研究熱心な性格だけあって、よくそんな考えにたどり着くものだ。頭のキレも相当良い。こんな奴によく勝てたよホント。


 「それで…?お前は残りの同胞たちをも殺す気でいるのか……?魔人族と連合国軍との大戦に、まだ関わるつもり、か?」


 仲間たちへの心配半分俺への興味半分からか、そんな質問をしてきた。


 「そうだな……。今日テメーらの本拠地に強襲したのはザイート、テメーを殺すことが主な目的だった。そのついでに俺の仲間たちを脅かすであろう軍もできるだけ消しておこうって意図もあった。

 なぁ、逆に聞くけど……テメーが俺に討たれたってこと、連中に伝わったら魔人族は世界を滅亡させることを止めるのか?」

 「………どうだか、な。俺の思想に同胞たちは皆乗ってくれた…。それが本心だという、なら……あいつらは止めねーだろうな……」

 「だったら俺も魔人族の殲滅に動くぜ。元の世界に帰ることを邪魔する奴ら、仲間たちを殺そうとする奴らには容赦しない。全部ぶっ殺す。以前のように地底にこもってひっそり暮らすだけってなら、俺から殺しに行くことはしねーよ。俺を害すること、不快にさせたりしない限りはこっちからは何もしない。けどネルギガルドって奴は死ぬんじゃねーかな。奴に復讐したいと思っている鬼族がどれだけいると思ってやがる?少なくとも奴だけは確実に死ぬぜ」

 「………………」

 「あとはもうどうでもいい。この大戦もそうだ。かつて一緒に旅してきた仲間たちや元の世界に帰す魔術を実行するサント王国の特定の人物、その他死んで欲しくない奴らが無事でさえいれば、好きにすればいい。俺たちのあずかり知らないところで好きなだけ争えばいい。元はと言えばテメーらが勝手に始めたことだ。どう転ぼうとも知ったことか。連合国軍側から魔人族にちょっかいをかけた場合も同じだ」


 言いたいことを言い切ると一息つく。ザイートは小さく笑い出した。


 「本当にどこまでも…傲慢だな、お前は。今やこの世界は……お前の気分次第で簡単にどうこう変えられるのだから」

 「かもな。その点は自他共に認めるよ。俺のこの力は現代世界で言うなれば、核兵器みたいなものだ」


 核兵器という言葉に訝し気に眉を顰めるザイートを無視して空を見上げる。俺がそういう存在になるなんて、思いもしなかったなー。鍛錬しながら元の世界に帰る手段を探していたらいつの間にかこうなっていた。

 そうだ…せっかくだしこっちからも話を振ろうか。こいつもいつ死ぬか分からないし。

 血がさらに流れ出して、体がやせ細っていく様子もお構いなしに、ザイートに話しかける。


  「そういえば、長生きしている知り合いからテメーらのこと少し聞いた話なんだけど…ああそいつはエルザレスって竜人族だ」

 「エルザレス…懐かしい名だ。昨日のヴェルドによる襲撃から、よく生きていたものだ……。それで、俺たちのことを聞いただと?何を……?」

 「主に昔のテメーらのことについてだった。百年以上前のテメーら魔人族は、人族からも魔族からも世界の脅威として認識されていた。魔石で強くなる前からテメーらはずっとそうだったってな」

 「ああ…。だがそれでもエルザレスとは、かつての俺にとって宿敵同然の関係だったな。何度殺し合ったか……。」


 息絶え絶えになりながらも笑うザイートを尻目に続きを話す。


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